はじめに



今回は、ソフトバンクの城所龍磨選手の打撃成績を見ていきたいと思います。ご存知のように交流戦でMVPを獲得したわけですが、プロ入りして10年と少し、それまでは専ら守備の人と思われていたところでの突然の活躍ですので、覚醒なんていってしまっても大げさではないかと思います。


この城所選手の活躍の背景にはどういった変化があったのだろうと思うわけですが、ここ数シーズンの記録が少なく(2015年の打席数は0、2014年は12、2013年は6)、過去との比較は難しいところです。そこで今回は、2016年の6月終了時の打撃成績より、城所選手の特徴を分析し、過去との関連よりも、今後の展望について考えてみたいと思います。




2016年の6月終了時の打撃成績



まずは城所選手の6月終了時の成績を以下の表1に示します。



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出塁率、長打率ともにリーグ平均以上の水準で、これに元々の強みである守備力がついてくるのですから申し分のない成績といえます。次に、シーズンの開幕から6月末までのOPSの推移を以下の図1に示します。



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グラフのOPSは棒が試合ごと、折れ線が通算の推移になります。また。このグラフの場合、無安打無四球だった試合と、試合の無い日の区別がつかないので、無安打無四球の試合の日には別途、棒を設けています。一応目につくように棒を示していますが、棒の高さに意味はありません。


折れ線からOPSのアップダウンを見ると、5月の半ばに最初の山が来て、6月はそこからは少し下がりますが、高水準を維持しているという形です。


こうした成績を残すに至った城所選手の打撃の特徴とはどういうものなのでしょうか。




Batted Ballデータから見る特徴



まずはBated Ballデータから確認してみたいと思います。以下の表2-1には6月終了時の城所選手のゴロ(GB)・フライ(FB)・ライナー(LD)の本数と、アウト率の値を示します。



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このデータの特徴として大きいのは、ゴロアウト率がリーグ平均と比較して大幅に低いということです。表1を振り返るとBABIPがリーグ平均より大幅に高く、ここまでの城所選手の打った打球はリーグ平均と比較してヒットになりやすいといえます。


これ自体は良い成績なのですが、アウト率が極端に高い、もしくは低い場合、その後は平均レベルのアウト率に近づいていくという性質があることが知られています。城所選手のゴロに関しては、かなりアウト率が低く、この性質に従えば今後はアウト率が高くなり成績が悪くなると考えられます。


ただし、このアウト率の性質には例外があり、例えば、イチロー選手のようにヒットを量産する選手の場合、アウト率が平均並みまで低下するということはありません。チームメイトの柳田選手もこの例外に該当する打者ですが、表2-2に示すように、それでも城所選手よりもゴロアウト率は10%ほど高くなっています。



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柳田選手のアウト率と比較をしても、城所選手の6月終了時のゴロアウト率は流石に低すぎ、これを維持するのは難しいのではないか、つまり今後はゴロアウト率が高くなり、その分成績も悪くなるのではないかと考えられます。


ただし、城所選手はゴロアウト率の低さだけでここまでの好成績を残したわけではないことを示すデータもあります。表2-1に示したGB/FB(ゴロフライ比)のデータです。城所選手のGB/FBは0.86で、ゴロよりもフライのほうが多いという結果です。これは、打者全体から見ても珍しい傾向で、基本的にはゴロの多い打者の人数のほうが多くなっています。一方、図2に示すように、GB/FBの値の小さいフライ型の打者のほうが打撃成績は優れています。



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勝手な印象ですが、これまで打撃面では目立った成績を残してこなかったことから、今年の活躍も、巧打者的なゴロの多い成績を想定していたのですが、それとは逆にフライの多い強打者型の成績であるというのは驚きでした。このフライを打つ技術が高い長打力につながっているのでしょう。


フライのアウト率はリーグ平均並みなので、今後の成績の低下を恐れる必要はないかと思います。したがって、ゴロ面ではマイナスが予想されますが、現状のようにフライを多く打てれば、そのマイナスをある程度は押さえることができると考えられます。




Plate Disciplineデータから見る積極性




別の角度からの特徴ということで、Plate Disciplineデータを以下の表3に示します。



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Plate Disciplineの特徴としては、とにかく積極性にあります。ストライクでもボールでも積極的にスイングするため、リーグ平均よりもSwing%(スイング割合)は高めです。またSwStr%(空振り割合)やContact%(コンタクト割合)を見ても、ミートする能力が決して高いわけではないようです。


データから、ボールを確実に見定めてというスタイルというよりも、とにかく積極的にスイングする傾向が読み取れるかと思います。この傾向の良し悪しはともかく、現状としてこのスタイルで好成績を残しているというのが事実です。




まとめと展望




以上、城所選手の特徴として、ゴロの面では多少の幸運に恵まれていたものの、フライの多い強打者型のスタイルであり、その背景として、積極的にスイングしていくスタイルがあることも確認できました。


今後としては、ゴロアウト率が現状よりも高くなり、打撃成績としては悪くなることが予想されます。しかし、これは仕方のない出費として許容すべきもので、もう1つの強みであるフライ型のスタイルと維持することが重要ではないかと思います。


逆に、成績が悪くなってきたからといって、確実性にミートしてゴロを打って、とスタイルを変えてしまうことで、フライによるアドバンテージを失い、成績が大崩れしてしまうかもしれません。


これはあくまで予想ですが、今後の城所選手を見る上で、ゴロとフライの割合や、スイングの積極性というのはポイントになると思いますので、注目すると面白いのではないかと思います。

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