オールスターチームの強さ



オールスターを見ていて、ふとした疑問が湧いた。オールパシフィックやオールセントラルは、ひとつのチームとしてどれだけ強いのだろうか。


つまり、仮にオールセントラルをレギュラーシーズンで戦うチームのひとつと考えた場合に、どれだけ勝てるチームなのだろうかということだ。もちろんそんなことは現実には起こり得ない。しかし、数字上だけなら計算することができなくもない。


そこで、実際に計算をしてみることにした。本稿は、実益のある分析というよりは単なるレクリエーション的なものであることをはじめにお断りしておく。筆者としては、このように非現実的な想像に数字で答えを返してくれるところもセイバーメトリクスの魅力だと思っている。肩ひじ張らずに読んでいただければ幸いだ。





wRCで得点率を計算する



どうやって計算するかを考えてみよう。最終的には勝率を求めたい。勝率を求めるためには、どれだけの得点を上げられるか、どれだけの失点に抑えられるかを求める必要がある。得点と失点があれば、既に開発されている式を使って勝率を計算することができる。


まず、勝率を出すための片方の要素である得点から求めていく。オールスターに選出された選手だけで構成された打線はどれだけの得点を稼ぐことができるだろうか。従来の指標を使うだけでは、この問いに答えることは簡単ではない。各選手の「得点」や「打点」の数を合計してもそれらは打順によっても稼ぎやすさが違う数字であり、仮想的な打線の実力を適切に反映することは難しい。


ここでは、当サイトにも掲載されている指標であるwRCを使ってみたい。wRCはwOBAを基礎として計算される指標であり、その打者の働きを「どれだけの得点を創出したと評価することができるか」という観点で数値化したものだ。

当サイトでは [Leaders] > [Player] > [Batting Stats] > [Advanced] と階層を辿っていくと見ることができる。


この数字であれば、例えば単打であれば何点分の価値、二塁打であれば何点分の価値……といったように打席の結果に対して評価値が計算され、実際に走者がホームインした回数などに依存しないためチームメイトに左右されずその打者の値打ちを出すことができる。


まずセントラルについて、全打者の打撃成績からオールスターに選ばれた打者の成績を抽出し、それらの打者のwRC合計を出してみる。数字は前半戦終了時点のものを使っている。



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ヤクルトの山田哲人が突出して多くの得点を創出している。得点創出で92.9というのは、年間(前半戦ではなく)でそれくらいの数字を出してかなり優秀と言われるような数字だ。以下、坂本、ビシエド、丸……と続き、合計は727.1点になる。


次に、彼らが創出したアウトの合計を求める。いかに創出している得点が多くても、それが多くのアウトを犠牲にして生み出しているものであれば意味がない。野球は27個のアウトを奪われるまでにいかに多くの得点を上げることができるかを競うのだから「アウトに対して」得点が多いことが重要だ。


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打者ごとのアウトの数は「打数-安打+盗塁刺+犠打+犠飛+併殺打」として計算することができる。アウトの合計数は3359だった。wRC合計の727.1をアウトの合計3359で割ると、0.216。これを27倍すると5.84となった。つまり、オールセントラルの打線は一試合27アウトあたりで5.84点を稼ぐことができる打線ということになる。


セ・リーグの一試合あたり平均得点が3.94であることを考えると、当然ながら相当な強力打線と考えることができる。


もちろん、細かく言い出せば誰をスタメンにするか、誰を上位打順にして打席を多く回すかといったことによっても数字は変わってくる。そのあたりは、この空想上の遊びをどこまで突き詰めるかという問題になってくる。本稿ではこのあたりに留めておきたい。





tRAで失点率を計算する



次に、失点の問題に進みたい。失点も単に防御率を平均するだけではうまくいかない。防御率は個々のチームの守備力に影響され、投手個人の力量を表した数字ではないからだ。


そこで防御率ではなくtRAを用いる。これは守備に依存せず投手の実績を失点率の形で評価する指標だ。tRAでは投手は四死球・本塁打・三振と打たれた打球の種類に応じて評価される。守備の影響を排除した失点率だと思ってもらえればいい。 当サイトでは [Leaders] > [Player] > [Pitching Stats] > [Advanced] と辿ると見ることができる。



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tRAは既に「(守備から独立した)27アウトあたりの失点」という形をしているため、各投手のtRAを投球回に応じて加重平均すれば、オールセントラルの失点率が求められる。加重平均値は3.20。失点率のリーグ平均4.08と比べると、1試合で1点近く失点が少ないということがわかる。





ピタゴラス勝率にあてはめる



さて、最後にチームの勝率を求めよう。勝率を求めるために使う指標はビル・ジェイムズによるピタゴラス勝率だ。この式は、チームの得点と失点をインプットすれば、その得点・失点から妥当な勝率をアウトプットしてくれる。



ピタゴラス勝率=得点の二乗/(得点の二乗+失点の二乗)



オールセントラルの得点率5.84と失点率3.20をインプットすると、勝率は.769となった。勝率の平均値は5割、優勝チームでも普通6割くらいであることを考えると、驚異的な強さだ。2リーグ制以降では、過去記録されたどのチームの勝率よりも高い。このようなチームがペナントレースに参戦すれば、十中八九ぶっちぎりで優勝できるだろう。それぐらい強い、というのが冒頭の問いに対する答えとなる。





オールパシフィックの場合


オールパシフィックについても同様の計算をしてみる。



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打線に関しては、wRC合計が758.1、アウト合計が3640で得点率は5.62となった。ちなみにセントラルについて計算したときは投手の打撃は無視したが、大谷に関しては打者としても入れてみた。大谷は打席数こそ少ないがアウトに対する得点の生産効率で言えばオールパシフィックの打者の中で最も優れている(つまりwOBAが最も高い)。なお、リーグの平均得点は4.14だ。



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投手陣の方は、tRAの加重平均値が3.13となっている。マーティン・サファテの後ろの安定感と先発としては異様に低い大谷が目立つ。リーグの平均失点率は4.02。


最終的に、得点率・失点率から求められる勝率は.764となった。セ・リーグについて計算した値とほぼ同等だ。オールスターに選ばれる選手の傑出度という意味ではセ・リーグでもパ・リーグでも大きな違いはないらしい。


なお、今回はほとんど等しい数値だったため争う余地もないが、ここで計算したセントラルとパシフィックの勝率を比較してどちらの方が強いかという議論をしても意味はないので注意してほしい。交流戦が含まれているとはいえそれぞれ別のリーグでプレーした結果の成績から計算をしているからだ。


オールセントラルの選手が優れた得点率を叩きだしているとしても、それはオールセントラルに選ばれた選手達が「他のセ・リーグの選手に比べて」優れていたことの結果であって、パ・リーグの打者に比べて優れていることを必ずしも意味しない。





数字遊びの効用


今回の計算はあくまで遊びなので、計算の方法はなるべく単純に済ませた。省略した部分は色々あるが、主なところでは野手の守備力を考慮に入れていない(平均的なものとして扱われている)。UZRを使えばこの点も計算に組み込むことができるだろう。


あるいはそもそも今回のような過程を辿らず、WARをうまく加工していってチームの戦力を計算するということも考えられそうだ。計算の方法はひとつではなく、さまざまな道が考えられる。


今回のテーマはオールスターがレギュラーシーズンを戦ったらという空想的なものだったが、ここで行ったような数字の組み立ての考え方は現実のあるチームに関して「○○を補強したらどの程度チームの勝利数が増えるか」といった実際的な問題に取り組む際にも使えるものだ。本稿に登場したような指標や計算方法にあまり馴染みがない方は、数字との戯れを通じて指標に親しんでいただければと思う。

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