はじめに



今回は千葉ロッテマリーンズの石川歩投手について分析していきます。石川投手は、2016年のパリーグ最優秀防御率投手ですが、シーズンの成績を見ると興味深い傾向を見ることができます。


タイトルを獲得したにも関わらず、投手WARはNPB全体で37位の2.5。防御率や勝利数といった一般的に使われる指標と、セイバーメトリクスによる投手評価の間で最も乖離が生まれた投手だったといえます。


フィールドに飛んだ打球がどれだけアウトになったかを表す DER(Defensive Efficiency Rating)は100イニング以上を投げた投手の中で5番目に高い.733。リーグ平均が.693であることを考えると、他の投手より守備や運を味方につけているといえます。


しかし、以下の図1に示すロッテと他のパリーグ5チームのポジションごとの UZRを見ると、ロッテの守備はお世辞にも良い成績とはいえません。



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また表1はロッテ主要投手のDERを示したものですが、石川投手のみ数字が高くなっていることを確認できます。



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これを踏まえると、ロッテの守備陣はそれほど優れているというわけではないのに、石川投手登板時のみフィールド上に飛んだ打球が多くアウトになっているということになります。


このようなデータが見られた場合、セイバーメトリクスによる評価では、投手によってコントロールできるとされる三大要素、「奪三振」「与四死球」「打球管理」以外の部分で失点を防いでいるため、石川投手は“運が良かった”と考えるのが一般的です。しかもこの幸運は長続きするようなものではなく、いずれ揺り戻しがあるのではないかと考え、今後も同じように失点を防いでいけるかは懐疑的にならざるをえません。


ここでデータを見るのも止めても良いのですが、果たして石川投手は幸運なだけなのでしょうか? そこのところをもうすこし掘り下げてデータを見ていきたいと思います。






石川投手のBatted Ball(ゴロ・フライ・ライナー)の特徴


以下の表2に石川投手の打者1人あたりのBatted Ball(ゴロ・フライ・ライナー)の割合とそれぞれのアウト率を示します。


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表中に赤字で強調していますが、ゴロアウト率が昨年と2016年のリーグ平均と比較して5%ほど高くなっています。DERの値が高くなっているのはこうしたアウト率の高さからです。今回は、このゴロの成績に絞ってもう少しデータを詳しく見ていきたいと思います。





ゴロが転がったゾーンの集計



Batted Ballの1つ1つを幸運な結果だったのか、それとも不運な結果だったのかを吟味することは難しいです。ただ、シーズンを通してゴロがどこに転がったかを見れば、ある程度運に恵まれていたかどうかの判断は可能です。


例えば、野手の定位置といえるような場所にゴロが多く転がっていれば幸運だといえるし、逆に野手の間にゴロが多ければ不運だったといえると思います。そこで、2016年の石川投手のゴロが転がったゾーンを以下の図2の分類に従って整理することにしました。



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さらに、比較対象として、2015年の石川投手と、2016年のNPBのゴロのデータも一緒に見ようと思います。データを以下の図3-1に示します。



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このデータは図2に示す距離3のゾーンへのゴロの内訳を示したものです。石川投手の特徴としては、2016年と2015年に共通して「K」のゾーンへのゴロが多いことが確認できます。NPB全体の特徴としてもこの「K」のゾーンへのゴロは多いのですが、さらに多いというのが正確です。


この「K」というゾーンは、遊撃手の定位置の近くなので、守りやすいゾーンといえます。2016年と2015年に共通してこのゾーンへのゴロが多いということは、単に幸運というわけではなく、石川投手はゴロでアウトを取りやすいスキルを持っている可能性があると考えられます。


続いて、各ゾーンでのゴロのアウト率を以下の図3-2に示します。この図では、2016年の石川投手、2016年の石川投手以外のロッテの投手、2016年のNPBという3つのデータを比較しています。



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石川投手お得意の「K」のゾーンのアウト率は100%で、周りのゾーンも石川投手以外のロッテのアウト率と比較してアウト率が高くなっています。この結果は、「K」のゾーンへのゴロが多いという石川投手の傾向が、周りのゾーンを含めて野手が守りやすい環境を作っているのではないかと考えられます。





球種別で見た投球結果の内訳



もう少し掘り下げることはできないかということで、球種別の投球結果を比較してみました。データを表3に示します。



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石川投手はカーブとシンカーの投球割合が高いのが特徴です。また、最もゴロに打ち取った球種はストレートですが、これは投球数が多いためで、内訳はリーグ平均とそれほど変わりません。シンカーの内訳もリーグ平均より低くなっていますが、これはファウルの数が多いためです。一方、カーブの内訳はリーグ平均よりも高く、カーブでゴロに打ち取るのが上手いといって良いと思います。


これらの球種別のゴロアウト率を図4に示します。



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カーブとシンカーのアウト率がNPBの平均と比較して高いことを確認できます。このアウト率の高さが、幸運によるという可能性は否定できません。しかし、特にカーブについては、石川投手の場合、他の投手と比較してゴロに打ち取るのが上手くアウト率も高いというのは、幸運以上のスキルを持っている可能性を考えても良いのではないかと思います。





まとめ



おそらく、2016年の石川投手の成績は、いくらか幸運の後押しもあったのだと思います。しかし、データを吟味すれば、単純に運の要素だけでは片づけられない傾向も見ることができます。ただ幸運だったで片付けるのではなく、こうした形で検証を行っていくことが重要です。今回の石川投手の件は研究の余地がまだまだ残されていると思います。

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