来シーズンに向けての戦力補強に各球団ともに励んでいる状況である。今年はFAとその人的補償、トレード、ドラフトもありシーズンオフも話題が満載であるがそれらに並んで効果的な戦力補強として外国人選手獲得がある。来年から日本プロ野球でプレーする新外国人選手の特徴と来シーズンの期待度を綴っていきたいと思う。




パ・リーグ球団の新外国人選手


まず、AAA級パシフィック・コースト・リーグ(以下PCL)でしのぎを削った3人の強打者が奇しくも来シーズンはNPBのパシフィック・リーグに対決の場を移すことになる。オリックスに入団したステフェン・ロメロ、ソフトバンクに入団したカイル・ジェンセン、そしてロッテに入団したマット・ダフィーだ。


三人のここ数シーズンの成績を見てみよう(データはすべてPCL)


ジェンセン
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ロメロ
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ダフィー
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3人のPCLの通算成績と来シーズン残留が決まっている主なパ・リーグの外国人打者を比較してみる。ジェンセンとロメロはメヒアやレアードと似ているところに位置し、パワーヒッターであることがわかる。ダフィーは、出塁率、長打率ともにやや物足りないか。


ジェンセンは、昨年のPCLのK%が30.7%、メジャーでのK%が38.2%。打球をセンターから左方向に多く飛ばせるプルヒッターで、一発か三振かという魅力溢れる典型的な長距離打者タイプだ。PCLは打高投低のリーグであることは割と知られるようになってきた。その中でもパークファクター(PF)で見ると昨年ジェンセンがプレーしたレノ・エーシズの本拠地は有数の打者有利の球場だった。


2014年は逆に投手有利のニューオーリンズでプレーしていた。2014年と2016年シーズンの成績を比較するとほぼ打席数は同じだが、本塁打数や打率が伸びているのは、本拠地によるものが大きいだろう。その点、近年打者有利の球場となってきているヤフオク!ドームを本拠地とするソフトバンクに入団したジェンセンは彼の最大の強みである長打力を発揮できる環境にも恵まれていると考えられる。レアード、メヒアのように三振数は多いが一発を期待できるような起用をできるか、首脳陣には我慢が求められるかもしれない。



ロメロは今年のスプリング・トレーニングで李大浩(元・オリックス、ソフトバンク)とロースター入りを争ったライバルだったが、一歩及ばず。チームとしてポストシーズン進出争いの好成績を残したマリナーズへの昇格も限定的で、結果的にほぼ通年AAA級でプレーした。投手有利のタコマで2年続けて好成績を残しているだけでなくIso.202→.237と長打力にも伸びが見られる。メジャーのレベルでは速球に手を焼いたようだが、NPBのレベルではどうだろうか。三振率も低く、もう少し選球眼に磨きがかかれば怖い存在になるだろう。



評価が難しいのがダフィーだろう。2015年にはPCLでMVPとなり、メジャー・リーグデビューを果たしたものの、今年は一転して散々な数値に終わっている。2014年、2015年と活躍したのは.320前後のBABIPに支えられていたが、今年は297打席に立ったアストロズ傘下でBABIP .323と例年と大差なかったものの、打率.226しか残せなかった。シーズン途中からプレーしたレンジャーズ傘下では147打席でBABIP .242と極端に低い数値の結果、打率.237となっている。故障の報告もなく今年は一転して不調に陥ってしまっており、この原因がメカニクスの問題なのだろうか。昨年は三振とゴロが極端に多かったが、日本でも投手有利のZOZOマリンスタジアムでも苦労するかもしれない。





セ・リーグ球団の新外国人選手


セントラル・リーグの打者に移ろう。こちらでも同様にPCL出身の2選手に注目が集まる。中日が獲得したアレックス・ゲレーロと阪神に入団したエリック・キャンベルだ。 中日のゲレーロは2013年にキューバから亡命。4年総額2800万ドルでドジャーズと契約した。来季からチームメイトとなるダヤン・ビシエドは2008年に4年1000万ドルでホワイトソックスと、昨年まで読売でプレーしたレスリー・アンダーソンは2010年に4年375万ドルで亡命後にそれぞれの球団と契約したと報道されており、ゲレーロの期待度がうかがえる。


2014年にPCLで258打席15本塁打 OPS.978を記録し、翌2015年にはメジャーリーグで230打席11本塁打を記録した。メジャー通算のスイング率が59.7%と積極的にバットを振るが、コンタクト率は低く、結果的に空振率が高くなってしまっている。昨年は、膝を痛め一年を通じてマイナー3レベルで合計60打席の機会しか無く、そこからの回復具合も気になるところだ。


キャンベルは前述の表で表すと、他の外国人選手と異なり、長打力はあまり無く、高い出塁率を記録するタイプであることがわかる。PCLでの通算スタッツでは2年前に退団したマット・マートンに似ている打者だ。



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マイナーでは選球眼に優れ、広角に打ち分ける打撃が非常に魅力的であるが、この選手もまたPCLで、本拠地のラスベガスは打者有利の球場。逆にメッツの本拠地であるシティ・フィールドは投手有利の球場。そういったこともあるのかメジャー通算の三振率(K%)、四球率(BB%)はそれぞれ、23.0%, 10.5%となっている。マートンのメジャーでのそれが14.1%, 8.8%であったことを考えると、キャンベルの特徴である選球眼の良さが全く発揮できておらず、メジャーのレベルにアジャストできていなかったことがわかる。


投球へのアプローチとしては、スイング率、コンタクト率などはリーグで平均的で、もう少し打撃成績は伸びても良さそうである。ただ、来季からプレーする甲子園球場は投手有利の球場である。長打力のあるゴメスをリリースし、キャンベルを迎え入れたというのは、金本監督は「つなぎの野球」を目指すのだろうか。今シーズン、巧打力が武器のヘイグが戦力にならなかっただけに、キャンベルに対しての期待はどれほどのものか。キャンベルに長打力を求めて打撃を狂わせてしまうようなことがないことを願いたい。


ヤクルトに入団したディーン・グリーンは27歳でメジャー経験はない。今年は、タイガース傘下のAAA級インターナショナル・リーグのトレド・マッドヘンズNPB経験者のケーシー・マギー(元・楽天、来季から読売でプレー)やチャド・ハフマン(元・ロッテ)とともにプレーした。トレドは投手有利の球場で有名だが、そこで241打席で打率.309、7本塁打をマークした。それ以前の主戦場はAA級であり、AA級では打者有利の本拠地でプレーしたこともあり、打率.300前後、15本塁打前後を記録していた。左右の投手に対しても極端に苦手というデータもなく、日本でも打者有利の神宮球場では打棒を発揮できる可能性がある。


DeNAに入団したアウディ・シリアコは2012年と2014年にILで100試合以上に出場し2桁本塁打を放ったがメジャーの大舞台までは一歩届かず。今年はBCリーグの石川ミリオンスターズでプレーした。BCリーグではリーグMVPのフランシスコ・カラバイヨ(元・オリックス)と打撃3部門を争ったほどの大活躍を見せた。結果的に.345 vs .332, 20本vs 15本, 60打点vs 53打点とそれぞれわずかにカラバイヨに及ばなかったものの、石川の主砲としてBCリーグチャンピオンシップ進出の原動力となった。


持ち味は積極性だが、アメリカではそれが裏目になり、マイナー通算のK/BBが3.8と確実性の低さがメジャー昇格を阻んだと言っても過言ではない。今季はBCリーグ274打数で29三振、19四球と早打ちが功を奏した格好だったが、DeNAに入団決定後も参加しているドミニカ共和国でのウィンター・リーグでは23三振、5四球とアメリカ時代の「悪癖」が顔を出し、打率も.191と低迷している。ちなみに余談だが、兄のペドロ・シリアコはメジャー・リーガーだが、メジャー通算のK/BB 6.3であり、これは血筋なのかもしれない・・。


最後に出戻り外国人となるが、マギーを紹介したい。2013年に28本塁打、93打点で楽天の日本一に貢献した。その実績通り翌2014年はメジャーで打率.287 177安打を記録しカムバック賞を受賞した。マギーは前述の通り、今季はヤクルトに入団したグリーンとともにIL トレドでプレーしリーグ4位の打率.317を記録した。マギーと言えば、2010年の23本塁打104打点、そして上記の2シーズンの印象が強く強打者というイメージだが、実は年度やレベルによってバラツキが多いバッターである。



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BABIPが高いシーズンは好成績を残しているが、低いシーズンは低打率に終わるという両極端であり、平均的な数値を見出し難い選手である。また、最近3シーズンのISOが0.88と明らかにパワー不足だ。通常は高打率、低BABIPの打者は俊足の選手が多いとされているが、マギーの場合は2014年にリーグ最多の31併殺打、翌年もわずか258打席でリーグ12位になる18併殺打とむしろ足は遅い方である。


メジャーのセイバーメトリクス専門サイトではスタッツと実際のプレーと大きな差があることから「Fake Speed star = 偽物のスピードスター」とまで言われていたほどである。また2015年に痛めた膝の調子も気になるところで、楽天での大活躍から4年が経過し、人工芝が多い日本の球場での活躍を期待するのは少々酷かもしれない。

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