阪神が連覇を狙う広島を3タテでひっくり返したセ、好調・楽天にソフトバンクがじわじわと迫るパ。全球団一・二軍デプスチャート、2週間のセイバーメトリクス指標によるランキングなど、読むだけで2週間のプロ野球がわかる1.02レビュー2017年第3回目の連載。前回は こちらから。

セ・パ両リーグの順位おさらい


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開幕から多くの球団が30試合以上を消化した先週、セ・リーグに大きな動きがありました。4月9日以来、首位をキープしていた広島が2位に転落。代わりにリーグトップに立ったのは阪神でした。5月5日からの直接対決3連戦の前には2.0ゲームの差がありましたが、阪神は0-4、0-9とリードされた試合で逆転勝利を収め、負ければ一日天下となってしまうカード最終戦も6-0で完勝。得点力不足と指摘された打線が、5月に入ってからの6試合だけで42点も奪っています。首位の座を明け渡した広島は、菊池涼介が理由不明の体調不良によりゲームから離れチーム力が減少。すっかり若返った先発陣は勢いを感じる反面、徐々に安定感を失っているのが気がかりな点です。

3位以下は順位の変動こそ多くありませんでしたが、明暗が少しずつ分かれはじめています。読売は、菅野智之が3試合連続完封を記録し、週のはじめにブルペンを休ませることに成功しているにもかかわらず、なかなか連勝に結びつけることができていません。チームの平均得点は、2週間前の3.74から3.52に下がっていて、勝った試合はすべて2失点以下と投手陣の踏ん張りが目立ちました。DeNAは勝ちと負けを繰り返していましたが、4日の読売戦に5-2で勝利すると、6日のヤクルト戦では、0-5とリードされた展開から梶谷隆幸の満塁アーチで追いつき、伏兵・柴田竜拓がサヨナラ安打を放つ劇的な勝利を収めました。しかし、翌日の試合では5-12で大敗。5月後半こそ連勝街道を走ることはできるでしょうか。

ヤクルトと中日は、ゲーム差1.0の範囲から離れない状況が続いています。ヤクルトは自慢の打線が湿っているだけでなく、開幕から好調を維持していた先発陣にも陰りが見えはじめました。この2週間でクオリティ・スタート(先発6イニング以上、3自責点以内)は4度しかなく、好投を期待された小川泰弘も6日のDeNA戦で5点差を追いつかれてしまうなど、苦しい戦いが続いています。中日は30日の阪神戦から6連敗を記録。結果の出なかった投手を何人もファームに落としてしまったため、先発、ブルペン両方のやりくりがさらに難しくなってきました。


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パ・リーグは、楽天が開幕から1度も首位を譲ることなく、7日には両リーグ最速、わずか27試合目で20勝に到達。球団初の日本一に輝いた2013年ですら37試合目だったので、いかにハイペースなのかがわかります。開幕直後は、茂木栄五郎やカルロス・ペゲーロの快打がチームを引っ張っていましたが、現在のポジション別wRAAを見ると三塁と指名打者以外レギュラーポジションはすべてプラスと、攻撃面では隙のないチームができあがりつつあります。これを追いかけるのが5日に2位へと浮上したソフトバンク。レギュラー定着が期待されていた上林誠知が、5月に入ってから打率.455、4本塁打と大暴れ。ただ打つだけでなく、3日の西武戦で逆転満塁弾、5日のロッテ戦では9回、アルフレド・デスパイネの2ランで追いついた直後での決勝弾と、勝負強さも見せつけました。

オリックスはこの2週間では5分の勝敗ながら、開幕直後から比べると厳しいゲーム運びが目につくようになりました。23日までに9度も記録していた2ケタ安打試合も、それ以降では7日の日本ハム戦1度きりで、チーム平均得点も15試合目で5.27を記録したのをピークに、現在は4.07まで低下しています。西武は勝率、チーム得失点差ともに激しく落ち込み、特に菊池雄星とブライアン・ウルフ以外の先発陣が総倒れの状態。救援失敗(リードした場面から追いつかれる、あるいは勝ち越し点を許す)が両リーグ最小の1度しかないのは、先発投手がゲームを作ることができていない現状も示しています。

開幕から最下位争いを演じてきた日本ハムとロッテは、3日の直接対決に勝った日本ハムが5位に浮上。そのまま5連勝を飾り、スランプを脱しようとしています。大谷翔平不在のチームは万全とはいえないものの、中田翔や大田泰示、クリス・マーティンらが戻ってきたことで戦力が回復。加えて、負けが込んでいた時期に石川直也、石井一成といった若手を抜擢し、戦力に仕立てたことが大きな収穫となっています。深刻な打撃不振に陥ったままのロッテは、15日にチーム打率が1割台に落ちた後も打てない日々が続き、29日の西武戦でついに新外国人、マット・ダフィー、ジミー・パラデスの名前がラインアップから消えました。主将の鈴木大地は依然として得点力を見せていますが、昨季まで4番を務めたデスパイネが退団し、首位打者2度獲得の角中勝也が抜けた打線がここまで冷えてしまうとは、伊東勤監督もさすがに想像できなかったでしょう。


(注1)ポジション別wRAA:同じ打席数をリーグの同ポジション平均の打者が打つ場合に比べてどれだけチームの得点を増やしたか、または減らしたかを打撃成績から推計したもの。ポジション平均の打者であれば0、3.0ならば同ポジション平均より3.0点多く得点を増やしたと推定できる。

一・二軍デプスチャート



画像にマウスをのせる(スマートフォンの場合タップする)と一・二軍が切り替わります。

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故障者が多く開幕から人員不足に苦しんでいた日本ハムのデプスは、左太腿裏肉離れの治療を続けている大谷と、かかとの痛みで戦列を離れた中島卓也以外は、一軍と二軍どちらも正常な状態に戻ったといえそうです。チームにとって大きいのは大田泰示と淺間大基の復帰で、25日のソフトバンク戦で千賀滉大から2本のアーチを放った松本剛とのポジション争いは、故障者が相次いだ際に球団が描いたプランがようやく実現したというところでしょうか。ただ、中島の穴は思いのほか大きく、ファームでも待機戦力が思うように育っていません。これをクリアしない限り、日本ハムが本来の姿に戻ったとは言えないでしょう。


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ソフトバンクは、28日のオリックス戦からファームで好成績を残していた川﨑宗則が待望の一軍昇格。これで戦力も完璧になるかと思われましたが、川﨑自身が本調子から遠ざかってしまい、二塁のポジション別wRAAは-9.0とリーグワーストのままとなっています。外野は上林が結果を出したので、しばらくの間はこの布陣で戦いそうです。ファームでは、カイル・ジェンセンが8本塁打と長打力を発揮していますが、一軍の攻撃陣に隙がなくなってきたことで、故障者が出ない限り昇格の見込みはなさそうです。


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ロッテは8日に、三塁を守る中村奨吾と香月一也をファームに落としたため、本日9日にもマット・ダフィーが再昇格してきそうです。また、7日のイースタン公式戦で2本塁打を放ったジミー・パラデスも近々再昇格する見込みがあります。一方で伊東監督が新外国人選手獲得を要望しているとの話も伝わっています。ただ、途中獲得の外国人選手は調整期間にゆとりもないため、よほど調子が良いか、日本球界に慣れた選手でなければスムーズに戦力化することはできません。それよりも、ダフィーとパラデスが本来の力を発揮出来るようなサポート体制作りの方が優先課題のようにも見えます。


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先発投手陣が苦しくなってきた西武は、2日のソフトバンク戦で新外国人のアレクシス・キャンデラリオを昇格、先発登板させましたが、3回7失点で翌日には一軍登録を抹消。また、開幕から好調だった野上亮磨も6日の楽天戦で3回5失点と打ち込まれるなど危機的状況にあります。ファームの先発陣で昇格の見込みがありそうなのは、6試合に登板して防御率3.48の本田圭佑、6試合で同3.90の岡本洋介あたりですが、4日のイースタンDeNA戦で7回2失点と好投した平井克典も、今後の結果次第では先発候補にあがるかもしれません。他球団と比較して非常に若い先発陣なため、安定感より勢いを買った方が良い目がでてくるかもしれません。


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楽天は一軍だけでなくファームも好調。イースタン打率トップの西田哲朗をはじめ、育成枠の八百板卓丸と枡田慎太郎、中川大志も打率3割をキープしています。また、新人の田中和基はファーム公式戦にはじめて出場したのが4月15日だったにもかかわらず、すでに4本塁打をマーク。投手陣では、3年目の安樂智大が7日のイースタンDeNAで今季初の公式戦登板を果たし、順調なら交流戦を前にして一軍復帰もありそうです。当面の課題は故障が重なっている捕手のデプス。非公式試合でブルペン捕手がゲームに駆り出されたそうで、これ以上怪我人が出せない状況です。


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オリックスは、守備の要である安達了一が体調不良により7日の日本ハム戦を欠場。今季は打率.170と苦しんでいるだけでなく、自慢の守備でもやや精彩を欠いています。チームはこれまでにも吉田正尚、ステフェン・ロメロといった主力を故障で欠いており、不安要素が大きくなってきています。一方、ファームでは3年目の宗佑磨が打率.310と好調を維持。新人の岡崎大輔は19日のウエスタン広島戦ではじめてスタメン起用され、これまで13試合の出場ながら打率.292と順調に結果を残しています。


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広島は、球団からコンディション不良とだけ説明があった菊池の状態が何とも気がかりです。これにより緒方孝市監督は、2年目の西川龍馬を二塁で起用しましたが、6日の阪神戦で痛いミスを犯し、菊池不在の穴の大きさを感じさせる結果となりました。それ以上に深刻なのは先発とブルペンのバランスで、3連敗を喫した阪神戦では6回と7回に失点が集中しました。投手運用に関しては柔軟とはいえないチームのため、先発陣の復調、または故障者の復帰待ちということになりますが、クリス・ジョンソンの復帰は早くても6月に入ってから。中崎翔太はようやく練習に取り組めるという状態のようで、それまでは不安定な戦いが続くかもしれません。


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読売はこの2週間で勝ち負けがハッキリした試合が多く、ビハインドの展開になると新人の池田駿や育成枠から昇格した篠原慎平、乾真大、中川皓太らを率先して起用。結果が伴わない登板もある中、試合を通じて育てていこうとする意志が感じられます。チームのここまでの勝ち試合は、先発陣が完投を記録するか、7回まで続投してスコット・マシソンからアルキメデス・カミネロに繋げるパターンが大半を占め、終盤にゲームをひっくり返すような展開を作れていません。チームとして真の力は、故障者が戻って来てから出ないと見えて来ませんが、土台作りという点では着実に事を進めているように見えます。


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DeNAは二塁と三塁が攻撃面での弱点となっていましたが、石川雄洋と宮崎敏郎の一軍復帰によりやや解消。ただ、代打打率.157にも見られるように、野手全体の層の薄さはまだまだ問題となっています。投手では、読売から移籍した平良拳太郎をラミレス監督が呼び寄せ、チャンスが巡ってくれば一軍登録を検討するそうです。故障者が少なく、二軍のデプスに余裕があるからこそできることですし、報告だけではわからないことを監督自身の目で判断するのは良いことです。投手に限らず、野手でもこうした方法を試しても良いかもしれません。


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一躍首位に立った阪神ですが、守備の面では課題が山ほど残されています。チーム全体で30失策数は両リーグワースト。チームUZRも-21.9となかなか改善の兆しが見えてきません。ただ、捕手に関しては梅野隆太郎の盗塁阻止率.357はリーグのトップ、捕逸、盗塁阻止による得点で+1.5を記録しており、正捕手の座を一気に引き寄せています。一方、ファームでは新人の才木浩人、濱地真澄、藤谷洸介の3投手をウエスタン公式戦でいずれも同じ試合で起用するという育成方法をとっています。今シーズンの育成はこれまでとは一味違う印象を残しているのも確かです。


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ヤクルトは多くの課題を残していますが、開幕から戦ってきた投手陣に大きな故障者が出ていない点は、選手起用の確かさを物語っています。一軍、二軍間で戦力差がかなり離れたチームなので、不調な選手を落とす理由はあまり見つかりません。ファームはかなり苦戦しており、現状では一軍に送り込める選手は限られています。今後の昇格が有力視されるのは、3日のイースタン・ロッテ戦で甲状腺機能低下症から復帰した今浪隆博。一軍の三塁、遊撃は攻撃面での弱点となっているため、早い段階への昇格が望まれるでしょう。


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中日は先発の柱である大野雄大を中継ぎに配置転換。ジョーダン・ノルベルトを登録抹消した代わりに新外国人エルビス・アラウホの昇格。10日のDeNA戦には2年目の小笠原慎之介の先発が予想されています。一昔前ならカンフル剤として有効な手段だったのかもしれませんが、先発とブルペンのバランス、投手陣のコンディション作りにおいて良い体制とはいえません。先週は救援専門の投手を削り、救援としての実績が少ない伊藤準規や小笠原をブルペンで待機させたために、5日の読売戦では好投していたラウル・バルデスを引っ張りすぎてしまい終盤の逆転負けを招いてしまいました。8回を任せるセットアッパーが不在なのは中日だけで、今週はアラウホがそのテストを受ける形となりそうですが、チームとして打てる手は段々と少なくなってきています。


2週間の個人成績ランキング


OffenceはwRAA+走塁評価、DefenseはUZR+守備位置補正

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この2週間、セ・リーグの野手で一際輝く働きを見せたのが坂本勇人(読売)。2週間12試合で平均的な選手と比較して攻撃面で7.5点、守備面で4.1点多くチームに利得をもたらしました。打撃では糸井嘉男もかなりの得点を創り出しましたが、守備の貢献で大きく差がついたため総合的な貢献を測るWAR(Wins Above Replacement)では差がついてしまいました。また、守備での貢献が大きかった菊池や上本博紀(阪神)らは、故障により現在はベンチを温めている状況。首位争いをする阪神と広島にとって、この穴は小さくないはずです。


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パ・リーグは、Offenceトップの上林がリーグWARでも3位に食い込む健闘を見せ、レギュラー定着にまた一歩前進しました。2部門でトップとなったT-岡田(オリックス)は、シーズンを通じてのOffenceも17.9でトップに立ち、三冠王も狙えそうなほど好調です。守備で貢献を果たしている源田壮亮(西武)は、この2週間のDefenseだけで4.1ポイントを獲得。シーズンを通じての6.0ポイントはリーグ全野手の中でもトップに立ちました。


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セ・リーグの投手部門で目立っているのは読売。失点率は菅野を先頭に上位3人を占めており、先発陣の好投が勝ちを呼び込んでいたことがわかります。ジョーダンは中4日を含む3試合に先発し、いずれもQSを記録してチームに貢献しましたが、チーム事情により一軍登録を抹消されました。岩崎優(阪神)は、4月20日までの16試合でわずか4登板でしたが、それ以降の14試合で8試合に登板。この間に1勝3ホールドを記録する活躍を見せていますが、ブルペンでの経験が少ない投手だけに今後の状態には注意を払う必要があるかもしれません。


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パ・リーグでは、加藤貴之(日本ハム)が失点率0.00でトップ。10連敗中だった27日のソフトバンク戦では7回無失点の好投。2年目のシーズンで一段と成長した姿が見られるようになりました。また、シーズンを通じてのWARは菊池が1.3でトップ。金子千尋(オリックス)と則本昂大(楽天)が1.2、涌井秀章(ロッテ)が1.1で追いかけており、この2週間での貢献と重複している点が興味深いところです。 =敬称略



高多 薪吾 @hausmlb
個人サイトにて独自で考案したスタッツなどを紹介するほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 投手の運用に関する考察を積極的に行っている。ファンタジーベースボールフリーク。
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