大谷翔平に加え、開幕から4割超の打率でチームをけん引した近藤健介も故障と、主力の離脱が相次ぎ苦戦する日本ハム。そんな中、読売から移籍の大田泰示が大活躍。攻守に大きな存在感を発揮している。今回は大田の打撃のどこが変わったのか、昨季との比較を行った。

大幅に打撃成績を向上させた大田 何が起こっているのか


今季から日本ハムに移籍した大田泰示ですが、故障から一軍に復帰した4月23日以降、すっかりレギュラーに定着。5月は月間5本塁打と飛躍の月となりました。プロ入り後から大器とは目されてはいましたが、ようやく才能が開花したといったところでしょうか。今回はこの大田について、昨季のデータと比較してみたいと思います。

最初に、昨季と比べどの程度打撃成績が上昇しているのかを確認してみたいと思います。以下の表1にデータを示します。


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打率、出塁率、長打率が向上していることは好調なプレーからも予想できました。また、K%(三振/打席)が大幅に低下し、BB%(四球/打席)がアップしているのも特徴です。この変化は以降見ていくデータに大きく関わります。

一方、通常の打者で.300前後で推移するとされるBABIP(Batting Average on Balls In Play)は.234と極端に低くなっています。BABIPが低いため不運であると断言することはできませんが、2015年のBABIPが.389、昨季が.288だったことを考えると、やや不運な状態が続いていると言えるかもしれません。今後打率がもう少し上がってくる可能性も考えられます。

続いて、大田のホットゾーンのデータを昨季と比較したものを図1に示します。


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図では、各コース別に「安打/打数」と「打率」を示しています。昨季のデータと比較すると、今季は安打のゾーンがより広がっているようです。昨季はほとんどなかったボールゾーンの球も多く安打にしています。また、安打にこそなっていませんがストライクゾーン外角低めのコースの打数が多いことがわかります。凡打も含め打席結果につながっているコースの重心が外角の低めにあるというのが今季の大田の特徴といえそうです。


昨季に比べスイングを控え、確実に捉える


次に、打球が生まれる前段階、どんなボールを振ったか、振らなかったか。振った場合、それがボールに当たったのか、当たらなかったのか、を表すPlate Disciplineデータを以下の表2に示します。


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昨季と比較すると、スイング率(スイング/投球)が低下し、コンタクト率(バットにボールが当たったケース/スイング)が上昇しています。まったくの先入観ではありますが、伝統を重んじる球団から離れていくらかプレッシャーから解放されるだろうという声も出ていたので、より積極的なスタイルの打撃になっていることを想像していました。今季のほうが抑制できているというのは意外な結果です。

続いては、パ・リーグの投手が大田をどう攻めているのかを見るために打席で投じられた球種別の投球割合とPitch Value(得点期待値をベースに打者が球種別にどれだけ得点を増加させたか)を年度別に図2に示します。


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ストレートの割合は同じくらいですが、細かな変化球の割合は異なります。また、Pitch Valueを見ると、ストレート、カットボール、カーブ、チェンジアップに対しては昨季と比較して向上しています。一方、スライダーとシンカーに対しては昨季から低下しており、フォークボールに対しては2年続けてマイナスとなっています。全体的に見れば、今季のPitch Valueは改善していますが、得意なボールとそうでないボールがあるようです。


ストライクゾーン内での空振りは減少、ボールゾーンも安打に


ここからは、大田に対し投じられたいくつかの球種の投球コースとその結果をまとめていきたいと思います。まずは、最も投じられた球種であるストレートをスイングしていった際の結果を以下の図3に示します。


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今季の特徴としては、外角低めをスイングし、アウトとなったボールが多いことでしょうか。図1のホットゾーンでこのコースの打数が多くなっていたのも、このためと考えられます。

もう1点、注目すべき結果は、今季はほとんど空振りがないということだと思います。昨季は、ストライクゾーンの際どいところやボール球での空振りが目立ちますが、今季にはアウトにはなっているものの、空振りは減少しています。

続いて、変化球をスイングしていったときの結果を、図2のPitch Valueにおいて昨季から成績が悪化していたスライダー、改善したカーブについて対右投手に絞って、以下の図4から図5に示します。


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図4のスライダーは、今季も空振りが目立ちますが、それでもストライクゾーン内での空振りはなくなっています。図5のカーブについても似たような傾向で、こちらはストライクゾーン内での空振りもありますが、ボール球をヒットにしています。


今後相手の対策に対応していくことができるか


今季の好調なデータを紐解いていくと、スイングしているコースの重心が外角低めにあること、昨季よりもスイング率が低下し、コンタクト率が上昇していたことがわかりました。空振りが減っている点など、コツコツ当てることを目指したようにも見えますが、本塁打を多く放っているあたり強いスイングを維持できているようです。打席での狙いがうまくいっているため、ボール球に手を出さず強いスイングができているという状況があるのかもしれません。

いずれにせよ、まだひと月ほどの活躍ですので今後もこの内容を継続していくことが重要かと思います。良い成績を残せば残すほど相手も対策してきますので、その時どのような変化が起こるのか、それとも今のスタイルを貫き通すのか注目していきたいと思います。



Student @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。
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