今年度も1.02では野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“1.02 FIELDING AWARDS 2018”の発表を行っていきます。
このアワードは、米国の分析会社であるBaseball Info Solutions(BIS)社が実施している“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣った表彰となります。今季NPBの各ポジションで500イニング以上(投手に関しては規定投球回以上)を守った選手を対象に、1.02を運営する株式会社DELTAで活動する8人のアナリストが、それぞれの分析手法に基づいて守備での貢献を評価し、順位をつけ、良い順位を最も多く獲得した選手を最優秀守備者として選出するものです。
賞についての詳細は、イントロダクションとしてこちらにまとめていますのでご覧ください。昨季の受賞者はこちらから。



対象捕手の2018年UZRと8人のアナリストの採点


アナリストによる評価・分析に入る前に、1.02で公開されている守備指標UZR(Ulatimate Zone Rating)が2018年の捕手をどのように評価していたかを確認しておきます。

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UZR評価の基本は打球処理による貢献です。しかし捕手については打球処理自体が少ないこともあり、DELTAのUZRでは打球処理、守備範囲を評価の対象としていません。そのかわりに捕手(Catcher Defense)という項目に、盗塁阻止、捕逸抑止による貢献を含んでいます。

これらに併殺完成(DPR)、失策抑止を加えたUZRでは、プレーオフ、日本シリーズとその強肩ぶりが大きな話題になった 甲斐拓也(ソフトバンク)が2位以下に大きな差をつけています。盗塁阻止、捕逸抑止による捕手守備得点で大きな貢献を果たしていたようです。その他には目立った値の捕手はいませんでした。

UZRではこのようになりましたが、アナリストごとに考え方は異なります。アナリスト8人がそれぞれのアプローチで分析を行い、捕手の採点を行った結果が以下の表です。

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甲斐に4ポイント差で競り勝った 小林誠司(読売)が捕手部門の受賞選手となりました。

今回より捕手に関しては、DELTAの投球データを使ってのフレーミング(捕手がより多くのストライクを奪うための捕球)評価も認めることになりました。DELTA取得の投球データはトラッキングシステムではなく目視により入力されたものであるため、精度の課題からこれまでは評価に用いることを保留してきました。

しかし昨年、本家“THE FIELDING BIBLE AWARDS”を主催するBIS社のJohn Dewan氏とミーティングする機会があり、同社の分析についてのスタンスを拝聴し、トラッキングデータが入手できない状況でも、採取可能なデータから手がかりを見出そうとする努力は、野球の構造を解明して行く上で必要なことであるという判断に至りました。

そうした経緯もあり、データの入力、また分析時の扱いにおいては注意を払った上で、フレーミング評価を解禁しています。

しかしどういった評価を採用するかはアナリストごとに異なります。捕手部門は参考として八代久通氏の分析を掲載します。


捕手参考分析 分析担当者:八代 久通



フレーミング評価の採用


レンジファクターの登場以降、野手の守備を増やしたアウトで評価する考え方が普及した。現代ではUZRに代表されるゾーン評価も認知され、守備を数字で評価する土台ができつつある。しかし、すべての守備が数字によって評価されているわけではない。近年その概念が提唱された捕手のフレーミングは、“評価されていなかったもの”の代表例だ。

フレーミングとは捕手が捕球により審判のストライクコールを呼び込むプレーを指す。MLBではトラッキングシステムを利用して高い精度で計測された投球コース(捕球コース)をもとに、増減させたストライクを割り出し、それを捕手の守備評価の1つの要素として考えることが一般化している。

しかし、NPBにおけるトラッキングデータは球団の所有物で一般に公開されてはいない。仮にフレーミングの分析を行っている球団があったとしても、その評価値が公開されることは滅多なことではないだろう。そのため現状のNPBにおけるフレーミングの評価基準は印象が中心とならざるを得ない。

だが現状、捕手の評価をするためにフレーミングの評価は欠かせないと考える。今回の企画ではトラッキングデータがないため、DELTAが取得している投球データを使用する。目視入力によるデータではあるが、ここからフレーミング評価を試みようと思う。


コース別のストライクコール割合


フレーミングを評価する際の基準として利用したのが、コース別のストライクコール割合である。ストライクゾーンを外れたボール球でも、当然大きく外れたボールと、ゾーンからわずかに外れたボールでは後者のほうがストライクとコールされる割合が高い。これらがともにストライクとなった場合、前者のほうが高く評価されるような算出を行った。

具体的には打者が見送れば70%ストライクになるコースでストライクコールされた場合、100%-70%=0.3個のストライクを増やしたと評価する。逆に、ボールと判定された場合は0.7個のストライクを減らしたと評価するといった具合だ。2018年のNPBにおけるコース別ストライクコール割合を左右打者別に図1に示す。太枠はストライクゾーンである。

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打者の左右を問わず、インコースに比べてアウトコースの方がわずかだがストライクコールが多いようだ。以降のフレーミング評価は、すべて打者の左右による分類を加味し行った。

増やしたストライクを得点の単位に換算する際には、カウント別のwOBA(weighted On-Base Average:総合的な打撃力をあらわす打撃指標)のデータをもとにし、ボールカウントの代わりにストライクカウントを増やすプレーの得点価値を算出した。これが約0.12であったため、増やしたストライク数に約0.12を掛けた値を最終的なフレーミング評価として扱う。




捕手ごとのフレーミング評価


候補捕手について、平均的な捕手と比較してフレーミングで増やしたストライク (CSAA:Called Strikes Above Average)数を算出し、そのデータからフレーミング得点を割り出したものが表1だ。/5000とついている項目は5000捕球機会(空振りを除く)換算の値である。

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最も高いフレーミング得点を記録したのが小林の12.6点。捕球機会は4742回と他の捕手と比べても決して多かったわけではないが、平均的な捕手と比べ109.4個ストライクを増加させた。これを得点に換算すると12.6点。頭一つ抜けたフレーミング得点を記録した。小林に続いたのが 梅野隆太郎(阪神)。82.6個のストライク増加で9.5得点となった。

ただともに高得点を記録した2人でもどういったコースでストライクを多く獲得していたかの傾向は異なる。図2は小林、梅野のCSAAをコース別に見たものだ。

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赤くなっている部分はストライクを多くとったコース、青くなっている部分はストライクを失ったコースと見てほしい。小林は低め、梅野は左右のストライク判定が多いことがわかるだろう。上位二人は、それぞれ違った強みでストライクを稼いでいたようだ。

ともに2018年の優勝に貢献した、打てる捕手の代表である會澤翼 (広島)、森友哉(西武)は他の捕手と比較して若干ストライク判定が少なかったようだ。だがこの2人もフレーミングでは対照的な傾向が出ている(図3)。

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ストライクゾーンの高めを比べると、會澤がストライクを増やしている一方、森は減らしている。ゾーン低めでは森がストライクを増やす一方、會澤は減らしていたようだ。

田村龍弘(ロッテ)は表1の2018年フレーミング得点で候補捕手中最下位の-11.7を記録したが、2016-2017年のフレーミング得点は決して低いものではなかった(表2)。盗塁阻止やブロッキングでは高い評価を得ているだけに、フレーミング評価の推移によっては優秀な守備力を発揮するポテンシャルを持っている。

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日本シリーズMVPを受賞した甲斐は、カーブでストライクを稼いでいた(表3)。カーブの投球割合が非常に高いソフトバンク投手陣にとって心強い傾向だ。しかしカーブ以上に投球割合の大きいストレートに対するフレーミング得点は芳しいものではなく、総合的には1.3点と平均レベルの結果に落ち着いた。

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フレーミング評価の今後の課題


今回は評価基準として考慮しなかったが、ストライクをコールされる割合は捕手が最初に構えた位置から、捕球した位置までのミットの移動距離に左右されている。図4はストライク割合が40%から60%のコースにおいて、捕手の構えから投球位置までの距離と5000捕球機会あたりのストライク増加数を比較したものだ。

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ほとんどミットが動かなかった場合はストライクが増え、ミットが大きく動いた場合はストライクが減りやすい傾向が確認できる。捕手の構え通りに投球する影響について分析された記事『捕手の構えどおりに投げることは被安打リスクを下げるか』では、構えたミットの付近に投げ込むことで安打が減少するとされていたが、これはストライク判定の増加が要因となっている可能性が考えられる。

ただこの現象が、捕手がミットを動かさない技術によるものか、投手の制球力によるものか、現時点で判断を下すことは難しいため、この要素を今回のフレーミング算出式には組み込まなかった。今回試みたフレーミングの得点は、あくまでも捕手が構えている間に増減したストライクを得点換算したものである。これは投手の制球力による影響のほかにも、審判のストライク傾向の偏りなど、捕球能力以外の多くの外的要因により左右された結果であるため、捕手のフレーミング能力そのものを表しているわけではないことをあらためて記しておきたい。


捕手守備の総合評価


最後に、DELTA算出の捕手守備評価 (盗塁阻止、捕逸抑止) 、打球方向やハングタイム等から算出した打球処理評価 (詳細は遊撃手編を参照)、今回のフレーミング評価を合計した値を捕手守備の総合評価とする。1位は小林となった。

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1.02 FIELDING AWARDS 2018受賞者一覧
宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。


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