スポーツの世界には、本拠地で試合を行うチームが相手に比べ有利に戦いを進められるホームアドバンテージというものがある。これは野球においても例外ではなく、ホームチームがビジターチームよりも高い勝率を記録しているようだ。セイバーメトリクスの研究によると、ホームアドバンテージの発生は審判が無意識のうちにホームに有利な判定をしていることが原因とされる。しかし研究はMLBを対象としたもので、NPBにおいて具体的な検証がなされたことはない。そこでMLBの状況とも比較しながら、NPBでホームに有利な判定がなされる傾向があるのか確かめた。

NPBにおけるホームアドバンテージ研究


筆者は『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート4』において、「ホームアドバンテージの発生状況から考える」という研究を行った。これは得点や本塁打、打率、OPSなどのスタッツにホーム・ビジターの差がどの程度現れるかを研究したものだ。

まずNPBにおけるここ5年のホームの成績を確認しておこう(表1)。昨季は勝率.502とほぼ五分であったものの、2014-17年は勝率が.550前後と、やはりホームがかなり有利になっているようだ。


また本塁打や打率といったスタッツを調べても、そのほとんどがホームの選手に優位にはたらいていた。ただこれらの要素は審判の判定というよりも、本拠地球場でプレーすることへの慣れなどで一見説明できそうに思える。

しかし、ほかにも見ていくと四球や三振といったおよそ球場の影響を受けにくそうなものについてもホームの優位が確認できた。これについては審判の判定にバイアスがかかっている可能性があるのではないだろうか。今回はそのバイアスについて実際に検証していこうと思う。


MLBでの状況


NPBにおける検証を行う前に、MLBでの同種の研究を確認する。

James Gentile は2007年のPitchf/xのデータを用いて、ストライクゾーン内の投球がボールと判定される確率(以下、「ゾーン内ボール率」という)、ストライクゾーン外の投球がストライクと判定される確率(以下、「ゾーン外ストライク率」という)がホームとビジターでどれだけ差がつくかを調べた。これによると、ホームの守備時にはゾーン内ボール率が0.72%低い一方、ゾーン外ストライク率は0.44%高かったようだ。要するにホームが守っているときはストライクを取ってもらいやすかったというわけだ。

このように、審判はホームに有利な判定をしやすい傾向が存在するが、これは1点差や同点の9回、同点の9回の得点圏に走者がいる場合、同点の9回で満塁の場合といったレバレッジの高い局面(プレーが勝敗に与える影響が大きい局面)ほど強くなるようだ。同点の9回で満塁の場合、ホーム守備時のゾーン内ボール率は6.53%も低く、ゾーン外ストライク率は3.62%も高くなっている(なお、ボールカウントによるバイアスを取り除くために0-0のカウントでの投球のみを対象としている)。

また、2008年から2016年までのPitchf/xデータを用いたTravis Sawchikの研究でも、すべてのシーズンにおいて一貫して、ホーム守備時のゾーン内ボール率は低く、ゾーン外ストライク率は高くなっている。

このようにMLBにおいては、ホームに有利な判定がなされる傾向が存在する。そして、こうした審判のバイアスがホームの高い勝率や打撃成績につながっていると考えられる。


NPBにおける判定のホーム・ビジター差


審判のバイアスによるNPBのホームアドバンテージを検証していく。ただNPBでこうした分析を行う際にはデータ精度の問題が出てくる。DELTAが取得しているデータは目視により投球座標を記録しているため、トラッキングシステムで取得したMLBのものに比べると精度に課題はある。

しかしこの目視データを使った捕手のフレーミング分析カウント別のストライクゾーン変化の分析がすでに一定の成果を挙げていることからも、研究に使えるだけの精度があると判断した。この2016-18年のデータを用いてゾーン内ボール率とゾーン外ストライク率にどの程度ホーム・ビジターの差が現れるかを確認する。

まずホーム・ビジター関係なく、ゾーン内ボールとゾーン外ストライクがどの程度起こっているのかから確認する。判定される以前、ゾーン内に投じられ打者がスイングしなかった投球は年間で34000から40000球ほど(表2-1)。ゾーン外に投じられ見送られた投球は100000球前後だった(表2-2)。このうちゾーン内ボール、ゾーン外ストライクは年度ごとにややバラつきはあるものの、それぞれ10~15%程度の確率で発生しているようである。


では、守備についているのがホームかビジターかでこれらに違いが生まれかを見ていく。まずはゾーン内ボール率だ(表2-2)。以降、差はホームに有利にはたらいているものを正の値としている。


ホーム守備時とビジター守備時でゾーン内ボール率に違いはあるものの、いずれもわずかな差しか生まれていない。しかも、2016-17年はホーム守備時の方が高いゾーン内ボール率を記録しており、ホームチームは恩恵を受けるどころか不利な判定を受けていたようだ。

MLBでは年度によって差は違えど、常にホーム守備時のゾーン内ボール率が低く、明確にホームに有利な判定がなされているデータが出ていたが、NPBでは様子が異なるようだ。

続いて、ゾーン外ストライク率を見てみる。こちらもゾーン内ボール率と同様、差が0.5%を超えている年度はなかった。また、その差は大きくないもののホーム守備時の方がゾーン外ストライク率が低い年が多くなっている。


さらに2016年や2018年は、ゾーン内ボール率はホーム不利だが、ゾーン外ストライク率はホーム有利というような、同一シーズン内での有利・不利の一貫性すらも認められなかった。かなりランダムに近いように感じられる。


カウント別に見ると


■初球

上記の数字はいずれもすべてのカウントの結果をいっしょくたに扱っている。だが審判が勝負どころのカウントのみホームに有利な判定を行っている可能性はないだろうか。ここではカウントごとに結果を整理し、傾向を探ってみたい。まずは初球での結果を比べてみる。


さきほどの全カウントを対象にしたものと比べると、ゾーン内ボール率がやや低く、ゾーン外ストライク率がやや高くなっている(表3-1)。初球はストライク判定がされやすいカウントのようだ。

それぞれのホーム・ビジター差を見てみよう(表3-2、3-3)。条件を限定しサンプルサイズが半分以下になったためか、やや差は大きくなっているが、いずれも1%未満とやはり小さい。さきほどと同じように判定がホームに不利にはたらいている年も多い。初球に限定して審判のバイアスを調べても、ホームに有利な判定がされる傾向は読み取れなかった。




■2ストライク時

次に2ストライク時の結果を比べてみる。全カウントを対象したものはともに10~15%の数字だったが、表4-1の2ストライク時では、ゾーン内ボール率が大きく上昇し、ゾーン外ストライク率が大きく下落している。審判がストライク判定を避けやすいカウントのようだ。


ホーム・ビジター別の成績(表4-2、4-3)を見ると、ゾーン外ストライク率では大きな差が見られない一方で、ゾーン内ボール率ではおおむねホームに有利な判定がされているようではある。もっとも、すべてのカウントを対象としたときと比較するとサンプルサイズが15分の1以下になっており、誤差が大きくなっていることも考えられる。



またこのホームアドバンテージは大きくなっているように見えるが、これはそもそものゾーン内ボール率が2倍以上になっているため大きく見えている部分が大きい。ホーム・ビジターを差で見ると違いが大きいが、比でみるとそれほど大きくない。このため、この結果だけを見て、ホームに有利な判定がされる傾向があると結論づけることはできないだろう。


■3ボール時

最後に3ボール時の結果を比べてみる。


ゾーン外の投球がストライク判定になりやすい傾向が少しあるようだが、初球時(表3-1)と比べてもそれほど差はない。2ストライク時に三振を避けようとした傾向が出たのとは異なり、3ボール時に四球を避けようとはしていないようだ。

このあたりは先日、佐藤文彦氏が執筆した『カウントによってストライクゾーンの大きさは変化するのか』の中で、2ストライク時にストライクゾーンが大幅に縮小されるのに対し、3ボール時にそれほど拡大されなかったところと共通しているように思える。

ホーム・ビジターの差を見てみよう。3ボールの場合もサンプルサイズの影響からか、すべてのカウントを対象としたときと比較すると、ホーム・ビジターの差が大きくなっているものの、一貫してホームに有利な判定がされている傾向は見られない。



以上のように、カウントごとにホーム守備時とビジター守備時での判定の違いを比べてみたが、いずれかのチームに有利な判定がされている傾向は確認できなかった。


ゾーンの枠付近での判定


カウントのほかにも別の方向から審判のバイアスが出ないか確認してみたい。ここではストライクゾーンの枠付近の投球に絞って、ゾーン内ボール率とゾーン外ストライク率を調べてみた。ゾーンの枠付近ではゾーン内ボール率やゾーン外ストライク率が高くなることが予想される。際どい判定にのみホームアドバンテージが出ているのではないかと考えたのだ。

枠付近の定義は図1を参考にしてほしい。


ストライクゾーン枠付近への投球は、やはりゾーン内ボール率、ゾーン外ストライク率ともに高くなる傾向が見られた(表6-1)。特にゾーン外ストライク率についてはカウント別で見たときよりも影響が大きく、枠付近であればボールゾーンでも高確率でストライク判定がされているようだ。


しかし、この条件でホームとビジターの守備時の結果を比べても、これまでの結果と同様にホームに一貫して有利な判定がされている傾向は確認できなかった(表6-1、6-2)。

まとめ


さまざまな角度からホームに有利な審判のバイアスが存在するかを確かめてみたが、そのような傾向は確認できなかった。これら目視入力データをもとにした結果を総合すれば、NPBにおいてはMLBと異なりホームに有利な審判のバイアスは存在せず 、ホームアドバンテージは別の要因によって生み出されていると考えられる。[1]

[1]もっとも、ボールカウントによるバイアスは生じているためNPBの審判がMLBの審判に比べて、より正確な(ルール通りの)判定ができるかどうかは明らかでない。

参考文献

・市川博久「ホームアドバンテージの発生状況から考える」岡田友輔他『プロ野球を統計学と客観分析で考える セイバーメトリクス・リポート4』(水曜社、2015年)
・James Gentile,”The strike zone advantage for the home team”,The Hardball Times,2013,( http://tht.fangraphs.com/the-strike-zone-advantage-for-the-home-team/ )
・Travis Sawchik ,”Is Home-Field Advantage Becoming Endangered?”,FANGRAPHS,2017,( http://blogs.fangraphs.com/is-home-field-advantage-becoming-endangered/ )
・佐藤文彦 「カウントによってストライクゾーンの大きさは変化するのか」
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53487

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。

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