多くの打者はボールをバットの芯で捉えようとするが、それに失敗したとしてもすぐ打席が失敗になるわけではない。ボテボテのゴロが三塁手の前方に転がった場合は、内野安打になる確率が高くなる。俊足の打者であればなおさらだ。今回は打者走者の一塁到達時間と打球のハングタイム(ゴロの場合、野手が捕球するまでの時間)の2つの時間データを使い、内野安打の発生確率を分析する。


内野安打が発生しやすい条件


今回、分析の対象としたのは、2018年のシーズンにおいて三塁手が処理したゴロです。外野へと抜けた打球は除き、三塁手が捕球したゴロ(ファンブル含む)のうち、アウトと内野安打となったものの一塁到達時間とハングタイムデータを調べました。


まず一塁到達時間を縦軸、ハングタイムを横軸においた内野安打の分布を図1に示します。


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図の右下、つまりハングタイムが長く、一塁到達時間が短い時に内野安打が多く発生していることがわかります。当然といえば当然のことです。

ただこの分布図だけではどれくらいの確率で内野安打となっているかまではわかりません。そこでハングタイムと一塁到達時間を0.25秒ごとに区分し、それぞれの領域でゴロが内野安打率を求めたものを以下の図2に示します。


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この図を見ると、内野安打の確率が高くなってくるのは、ハングタイムでいえば2.75秒以降、一塁到達でいえば4.00秒以内であることがわかります。左打者の場合、一塁到達が4.00秒を切るかどうかが俊足選手の目安とされていますが、実際にこのあたりから内野安打が増えているようです。


内野安打になりやすいプレーはどの程度の頻度で起こるか


以上の結果より、打者一塁到達時間とハングタイムから、どの程度内野安打が期待できるかがわかるようになりました。それでは、内野安打の確率が高くなる一塁到達時間とハングタイムとなるようなゴロは、どの程度の頻度でおこるものなのでしょうか。データを以下の表1と表2に示します。


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表1より、三塁手が処理したゴロにおいて、一塁到達時間が4.00秒を切ったケースは全体の6%と少数ですが、4.25秒未満で全体の20%、4.50秒未満という条件であれば約45%とそれなりのケースが該当することがわかります。


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一方、内野安打の確率の高い2.75秒以上のハングタイムとなったゴロは全体のわずか4.8%ほどになっています。

以上の結果から、内野安打の期待できるスピードで走ったケースはそれなりにあるけれど、ハングタイムが短いために内野安打とならないケースが多いことがわかります。


一塁到達時間の分布


内野安打になりやすい3.00秒以上のハングタイムの長いゴロを打つ難しさがわかりましたが、一方で一塁まで速く走ることができるかは個人の能力にかなり依存しています。当然足の速い選手に内野安打の再現性はあります。ここでは参考に2018年に一塁到達時間で4.00秒を切ることが多かった打者を表3に示します。今回は4.00秒未満のケースが11本以上あった選手を対象としています。


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リストの顔ぶれを見ると、一般的に走ることのできる選手が並んでいると思います。

逆に内野安打が期待できる4.50秒より速く走ることのない打者はいるのでしょうか?これは、4.50秒という基準が誰にでも到達可能であるかどうか、つまり、誰しも内野安打を期待できるスピードで走ることができるかという問題になります。

結論からいえば、シーズンで1度も4.50秒未満で走ることのない打者はそれなりの人数でいます。さらにその中から5.50秒以上の記録の多かった打者を以下の表4に示します。今回は投手を除きました。


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外国人選手をはじめ、大型選手が多く並ぶ結果となりました。日本ハムのブランドン・レアードは一塁到達に5.50秒以上かかるケースがほかの選手と比べても明らかに多く、おそらくかなり力を抜いて走っているのでしょう。

こうした打者は、内野安打を狙うため、もう少し速く走る努力をするべきでしょうか?  あくまで個人的な見解ですが、表4に示したような大型選手にその必要はないと考えます。なぜなら速く走ることには故障のリスクがあるためです。それほど高い確率でもない1本の内野安打のために、故障離脱のリスクを負うのは割に合わないという考えです。

先日、キャンプにおいてソフトバンクが、ランニングにかわる体力強化メニューとしてローイングエルゴメーターなどのトレーニングマシンを使用しているという記事が出ていました。ランニングの着地時における衝撃で故障をするリスクを避ける意味もあってこうした機材を導入したようです。プロの中でも練習中からこうしたリスクを回避する策はとられています。

また、故障リスクを考える上では選手の体格も重要な要素となります。以下の図3と図4は1949年、1990年、2017年のそれぞれのシーズンでNPBに所属していた日本人選手の身長と体重の分布を表しています(※1)。


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まず、図3に示した身長から見ると、1949年の分布に比べ、1990年と2017年は山が右に寄っており、全体的に身長が大きくなっていることがわかります。これは戦後の日本人の体格の変化で説明できるでしょう。また1990年と2017年の身長分布にほとんど差がないことも特徴です。

一方、図4に示した体重の分布を見ると、1949年、1990年、2017年と分布が次第に右寄りになっていることがわかります。これは年が進むほど体重の重い選手が多くなっていることを示しています。

以上のデータはNPBの歴史から3年間をサンプリングしたものですが、NPBにおける日本人選手の体格の変遷を表していると考えても良いと思います。戦後間もない1949年から1990年になると身長・体重ともに大型の選手が増え、そこから2017年にかけては身長に変化はないものの、体重の重い選手が増えたといえます。

体重の重い選手は当然ランニングをした際の身体への衝撃も大きくなります。現代野球においては走ることに対するリスクがより大きくなっているといえるわけです。現代の大型選手に対して、昔ながらの感覚で走り込みや全力疾走を強いるのはリスクが大きいのではないでしょうか。


考え方は守備評価にも応用可能


今回はハングタイムと一塁到達時間から内野安打の発生状況を見てきました。今回は打者と走者の視点でしたが、これを守備側から見れば、難しい状況(ハングタイムが長く、一塁到達までの時間が短い)でどれだけアウトを取ることができたかは、野手の守備能力の評価にもつながりそうです。今後の守備評価における検討課題の1つとしておきたいと思います。

また後半に指摘したNPB選手の体格が大きくなっている点は、現代野球において欠かせない視点だと思います。プロ野球は1試合だけでなく、1シーズンを通してどれだけ勝利を積み上げられるかの勝負です。大型選手は今後こういった部分のリスクも管理しながらプレーする必要がでてくるのではないでしょうか。


(※1)1949年は『日本野球1949年度選手名鑑(ホームラン社)』より、身長と体重の表記は尺貫法だったので、1尺 = 0.3030303m、1貫= 3.75kgで換算しました。1990年は『別冊週刊ベースボール プロ野球選手カラー写真名鑑 1990決定版(ベースボールマガジン社)」より引用。

佐藤 文彦(Student) @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。
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