球審の判定がボールカウントにより影響を受けることは先行研究からも明らかである。しかし球審はそれ以外の要素にも影響を受けているのではないだろうか。このシリーズでは何が球審に影響を与えるのかについて検証を行っている。Part1ではストライク・ボールのカウントでストライクゾーンが内角、外角どちらに広くなるかを調べた。今回は得点差とイニングがストライクゾーンの広さにどのような影響を与えるかを検証する。


リード・ビハインド時のストライク判定率の比較


今回は得点差やイニングが球審の判定に与える影響について検証を行う。ここでは投球ゾーンを図1のように分類し、それぞれの分類でどれだけストライク判定されているかから球審のバイアスに迫っていく。図はストライクゾーンから最も遠い位置が緑で、そこから黄色、赤になるにつれゾーン中心に近づいていく。太い黒枠がストライクゾーンの枠を示している。


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まずは球審の判定対象となる全投球が、この分類でどの程度ストライクになったかを表1にまとめた。


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当然ながら中心に近づくほどストライク判定率は高くなる。ゾーンの境界付近では、ストライクゾーンでもボール判定、ボールゾーンでもストライク判定される割合が増加する。

得点差の変化がこれらにどのような影響を与えるかを見ていこう。まずは、守備側がリードしている場合のストライク判定率をまとめた表2だ。


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大きな変化は見られないものの、10分の1%単位でストライク判定率が上昇している(守備側に有利になっている)。守備側がビハインドの場合はどうだろうか(表3)。


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こちらも大きな変化は見られないが、ほんのわずかながらストライク判定率が低下している。つまり守備側が不利になっている。守備側リード時とビハインド時での比較をしてみる(表4)。


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ゾーンによって多少の違いはあるものの、守備側リード時はビハインド時に比べて0.1~0.2%ほどストライク判定率が上昇するゾーンが多い。試合結果に与える影響がほとんどない程度のわずかな差ではあるものの、その時点でリードしている側に有利な判定がなされているようだ。


僅差状況での比較


では、これを僅差の試合に限定した場合、判定に変化はあるのであろうか。3点差以内のストライク判定率を見てみる(表5)。


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大きな変化は見られないものの、点差が近い場合ややストライク判定率が上昇するゾーンが多いようである。

続いて、守備側が3点差以内のリードをしている場面でのストライク判定率を見てみる(表6)。


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こちらはさきほどに比べて明確にストライク判定率が上昇している。表2で示したリード時と比べても、僅差に限定した表6のほうが上昇具合が大きい。ビハインド時についても同様に見てみる(表7)。


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こちらは僅差時にストライク判定率の低下具合が大きくなっている。守備側リード時とビハインド時でストライク判定率を比べてみる(表8)。


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3点差リード時から3点差ビハインド時の値を引くと、どの投球ゾーンでも正の値となった。よりその時点でリードしている側に有利な判定がされる傾向が確認できる。もっとも、その差はいずれにしろ1%にすら満たないため、これが試合の結果を大きく左右するものとまでは言えないであろう。ボールカウントの変化に伴うストライク判定率の変化に比べるとその差は歴然である。


試合終盤に判定の傾向は変わるのか


試合の終盤とそれ以外とでストライク判定率が変化することはあるのであろうか。7回以降のストライク判定率についても調べてみた(表9)。


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原因は不明ながら、7回以降はストライク判定率が下がる傾向があるようだ。同じく試合の勝敗が動きやすいである僅差ではストライク判定率が上昇する傾向があった(表5)のとは対照的な結果である。

7回以降の守備側リード時のストライク判定率も見てみる(表10)。


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7回以降の守備側リード時はストライク判定率が下がる。単なるリード時である表2と比較すると、リード時であっても終盤にはよりストライク判定を受けにくいようである。

守備側ビハインド時についても7回以降で見てみる。


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こちらも全体と比較するとストライク判定率が低下している。単なる守備側ビハインド時(表3)と比較すると、より守備側が不利になっている様子がわかる。

7回以降のリード時とビハインド時を比較してみる(表12)。


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すべてのゾーンで一貫した傾向が出ているわけではないが、どちらかというとリードしている場合により有利な判定をされやすい傾向があるようだ。

最後に9回以降で守備側が3点以内のリードをしている場合、つまり一般的なセーブシチュエーションでのストライク判定率を見る(表13)。


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ゾーン内では、わずかにストライク判定率が下がっているものの、境界付近のボールゾーンではストライク判定率が1.5%上昇。ボールゾーンは打者が見逃すことが多いため、ボールゾーンでのストライク判定率上昇のほうがゾーン内でのストライク判定率上昇よりもストライクが増える。クローザーが投げることが多いこのケースでは、球審はより守備側に有利な判定をする傾向があるようだ。


まとめ


以上の結果をまとめると次のようになる。

  • 球審はその時点でリードしている側に有利な判定をする傾向が見られる
  • リードが僅差である場合は、リードしている側が有利な判定を受ける傾向は強まる
  • 終盤になるとストライク判定率は下がるが、リードしている側が有利な判定を受ける傾向は強まる
  • ただし、ボールカウントによるストライク判定率の変化と比べるとその差は大きいものではない
  • Part3では、打順がストライク判定に与える影響を検証する。


    参考文献
    本文中に引用したもののほか以下のもの
    Guy Molyneux,"Prospectus Feature: Umpires Aren’t Compassionate; They’re Bayesian",Baseball Prospectus,2016
    https://www.baseballprospectus.com/news/article/28513/prospectus-feature-umpires-arent-compassionate-theyre-bayesian/
    Jon Roegele,"Baseball ProGUESTus: The Living Strike Zone",Baseball Prospectus,2013
    https://www.baseballprospectus.com/news/article/21262/baseball-proguestus-the-living-strike-zone/

    市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
    学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート2』にも寄稿。
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