今年度も1.02では野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“1.02 FIELDING AWARDS 2019”の発表を行っていきます。
このアワードは、米国の分析会社であるBaseball Info Solutions(BIS)社が実施している“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣った表彰となります。今季NPBの各ポジションで500イニング以上(投手に関しては規定投球回以上)を守った選手を対象に、1.02を運営する株式会社DELTAで活動する7人のアナリストが、それぞれの分析手法に基づいて守備での貢献を評価し、順位をつけ、良い順位を最も多く獲得した選手を最優秀守備者として選出するものです。
賞についての詳細は、イントロダクションとしてこちらにまとめていますのでご覧ください。昨季の受賞者はこちらから。



対象遊撃手の2019年UZRと7人のアナリストの採点


アナリストによる評価・分析に入る前に、1.02で公開されている守備指標UZR(Ulatimate Zone Rating)が2019年の遊撃手をどのように評価していたかを確認しておきます。

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UZRではこのようになりましたが、アナリストごとに考え方は異なります。アナリスト7人がそれぞれのアプローチで分析を行い、遊撃手の採点を行った結果が以下の表です。

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満場一致で 源田壮亮 (西武)が遊撃手部門の受賞者となりました。

しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。遊撃手部門は参考として市川博久氏の分析を掲載します。


遊撃参考分析 分析担当者:市川 博久



選考にあたっての考え方


選考にあたっては、まず、いかなる守備が優れた守備であるかを考える必要がある。これについては、勝利につながるプレーこそが評価されるべきであるため、より失点阻止に貢献する守備が優れた守備であると考えた。

このような考え方は公認野球規則が試合の目的として、「守備側は、相手の打者が走者となることを防ぎ、走者となった場合は、その進塁を最小限にとどめるように努める。」(1.03)、「各チームは、相手チームより多くの得点を記録して、勝つことを目的とする。」(1.05)と定めていることとも整合する。

「失点阻止に貢献していなくとも、優れている守備」はあり得るのではないかとの反論もあるだろう。しかし、そのような考え方からすれば、「出塁もできず、長打も打てなくとも、優れている打撃」もあり得ることになってしまう。得点への貢献、勝利への貢献を無視して、優れた打者を決めて賞を与えることには、多くの人が不適切と考えるだろう。守備についても同様のはずだ。

以上の考え方からすれば、選手の守備による貢献を項目ごとに得点化して、それらの合計で順位付けを行うことが合理的だ。今回は「ゴロの処理範囲」、「失策抑止」、「併殺完成」に加え、「ライナーの処理範囲」についても得点化し、それらを合計することで遊撃手の評価を行った。


総合評価


上記で述べた項目ごとに得点換算した数値を表にまとめ、ランキング化したものを先に公開する。

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私の評価でトップとなったのは昨季の1.02 FIELDING AWARDSでもトップ評価だった源田だった。ゴロの処理では唯一10点を超える失点を阻止しており、併殺完成、失策抑止についても平均以上の成績を残している。ライナー処理でこそわずかながら平均を下回っているが大きな影響はない。

これに続くのは昨季から大きく数字を伸ばした 京田陽太(中日) 。以前からゴロ処理で優秀な成績を残していたが、今季はさらなる成長が見られた。また、併殺完成については遊撃手でトップとなっている。3位に入った 中島卓也(日本ハム) もこの2人に出場機会が劣る中で、好値を記録している。特にゴロ処理での優秀さが際立った。今季の遊撃手では以上の3名が傑出していた。

他方で以前はゴロ処理で優秀な成績を残していたが、加齢もあってか成績を落とした選手も見られる。典型的なのは 坂本勇人(読売) で今季はゴロ処理評価が平均以下となっている。比較的年齢が高い中では 大和(DeNA) が優秀な成績を残しているものの、ゴロ処理の評価のみを見ると、2.0と平均レベルである。守備力、その中でも特に守備範囲については、個人差はあれど若い選手の方が優秀な成績を残すという傾向は今年も変わりがない。

次に評価項目自体に注目したい。それぞれの項目ごとの数字のばらつきを見ると、ゴロ処理で最も大きな差が生まれている。ライナー処理については、得点換算はしてみたものの、±2点に収まっており、失策抑止や併殺完成と比べても影響は小さい。この点については、以前同様の方法で評価を試みた2016年の結果と変わらない。

そもそも、ライナー処理がUZRの算出から除外されているのは、捕球できる範囲に打球が飛んできたか否かによって捕球できるか否かがほぼ決まってしまうという考えからだ。このような考えは相応に合理的である。そういった前提を踏まえながらも、私は2016年にあえてライナーを対象に含める評価法をとった。

影響力が小さいことが予想される中で、今回再びライナー処理評価を加えたのは、以前に調べた結果で、ゴロ処理得点との間である程度の相関が見られたからだ。これは遊撃手だけでなくほかのポジションに関しても同様であった。ゴロの処理にしても、ライナーの処理にしても捕球地点に素早く、正確に移動し、捕球するという点では変わりがない。こうした相関が見られることからも、NPBにおいてはノイズの影響はさほど大きくないとも考えられた。

しかし、2019年のデータをもとにライナーの処理得点を算出したところ、ゴロの処理得点との相関はほぼ見られなかった。ほかのポジションも同様だ。この結果からすると、ライナーの処理についてはやはりノイズが大きいと考えられる。内野手の守備評価において考慮に入れない考え方にも合理性があるだろう。

今回はライナーの処理得点を含めたが、今後同様の機会があれば、この手法は変更する必要があるだろう。




ゾーンごとのゴロアウト割合


ここまでは総合的な評価について述べてきたが、ゾーンごとのゴロアウト割合を調べることで、個々の選手の特徴を見てみたい。

フェアグラウンドはC~Xまでの24のゾーンに分割されている(図1)。このうち遊撃手が処理することの想定される範囲の打球について、ゾーンごとにアウトにできた割合を調べてみた(ただし、失策・野選、ほかの内野手が捕球した打球は除く)。

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表2に示したゾーンG~Nは図1のイエローの部分を示している。一番下に示したNPBの遊撃手全体のデータを見てみると、ほぼ定位置にあたるJのゾーンでは95%を超える打球を処理できており、そこから離れるほどアウト割合が低くなっている。ゾーンNは遊撃手から見ると二塁ベースを越えた位置にあるが、ほかの内野手が触れなかったうちの1割程度は処理できているようだ。

ほかの遊撃手と比べても図抜けた成績を残した源田は三遊間、二遊間いずれもアウト割合が高くなっている。ただどちらかというと三遊間に強みがあるようだ。ゾーンGを40%以上の割合で処理したのは源田だけだ。これに対して中島は二遊間に強みがあるようで、優秀な選手の中でも強みとなるゾーンは異なることがわかる。

あまり振るわなかった選手について見ていくと、 藤岡裕大(ロッテ) は正面の打球こそ処理できているものの、三遊間、二遊間どちらにも正面から離れるにつれてアウト割合が大きく低下している。 木浪聖也(阪神) は三遊間で平均よりも高い数値を残しているものの、二遊間のゴロ処理はかなり苦手としているようだ。

優秀な遊撃手とそうでない遊撃手との間で差がつきやすいのは、正面から離れたゾーンでのプレーといえる。


ハングタイム別のアウト割合


続いて、ハングタイム別のアウト割合についても見てみよう。ゴロのハングタイムは、打球が発生してから内野手が捕球するまでの時間、捕球できなかった場合内野を通過するまでの時間という基準で取得している。

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まず一番下の2019年全遊撃手を対象としたデータを見てみよう。これを見ると、ハングタイムが2.0秒以上2.5秒未満のゴロが最もアウトにしやすいことがわかる。そこからは早くなっても遅くなってもアウト割合は下がっていく。特に1.5秒を下回るとアウト割合が激減する。捕球までに時間がかかれば、それだけアウトにすることは難しくなるが、ある一定以上の速さの打球については捕球が難しくなるということが反映された結果だろう。

次にこの分類でどのような処理傾向が出ているか、各遊撃手のデータを見ていく。青字は平均より明らかに優れているもの、赤字は明らかに劣っているものを示している。

トップ評価の源田はいずれも平均を上回るアウト割合だが、特に遅い打球に対するアウト割合が高い。京田や中島はこれと反対に1.5秒未満の速い打球に対するアウト割合が高い。ここ数年、守備範囲が狭まっていることがうかがわれる坂本勇は遅い打球こそ平均以上のアウト割合を保っているものの、速い打球への対応が難しくなっている様子がわかる。

反対に 今宮健太(ソフトバンク) は遅い打球への対応を苦手としている。今回とは異なる手法を用いた昨年の遊撃手評価では、送球をやや苦手としている傾向があった。遅い打球は捕球までに時間がかかり、送球にかけられる時間が少なくなる。送球の弱点が遅い打球のアウト割合の低さに影響している可能性はある。




ゾーン・ハングタイム別のアウト割合


最後にゾーン・ハングタイム両方でゴロを分類し、アウト割合を比較してみる。

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まず遊撃手全体のデータを見てみる。正面の打球、ハングタイムが2.0秒以上2.5秒未満の打球のアウト割合が高いことはこれまでの結果どおりであるが、速い打球ほどゾーンが定位置から離れたときのアウト割合の低下が大きい。これに対して、遅い打球ではゾーンが定位置から離れていてもアウト割合の低下は緩やかだ。また、遅い打球では二遊間よりも三遊間の方がよりアウト割合が低下する傾向にある。

速い打球は、定位置付近以外では捕球が難しいものの、捕球してしまえば送球にかけられる時間が長くとれる。一方、遅い打球は捕球こそ容易なものの送球にかけられる時間が短くなる。三遊間への遅い打球でよりアウト割合が低くなるのは一塁までの距離が長くなることが原因だろう。続いて、特徴的な選手を何名か個別に取り上げていく。



■ 優秀な守備を見せた遊撃手の処理状況

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まずはトップ評価の源田のアウト割合を見てみる。遅い打球、三遊間のアウト割合が全遊撃手のアウト割合と比較してかなり高くなっている。特にゾーンGやH、ハングタイム1.5秒以上でのアウト割合が高い。三遊間の深い位置で捕球した打球や緩い打球の処理が卓越している様子がうかがえる。また、二遊間や速い打球についても平均以上には対応できている。

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源田に続く京田は、二遊間の打球及び三遊間の速い打球のアウト割合が高い。遅い打球についても定位置付近から二遊間にかけては高いアウト割合となっている。

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中島は源田、京田に比べると、定位置から大きく離れたゾーンGやMのアウト割合が高いわけではない。しかし、HからLまでの広い範囲で安定して高い割合でアウトが取れている。

優秀な成績を残した3名の選手についてそれぞれ見てきたが、どのようなタイプの打球処理を得意としているかはそれぞれ異なるようだ。



■ 成績が伸びなかった遊撃手の処理状況

反対に成績が伸びなかった遊撃手のゴロアウト割合にはどのような特徴が見られるだろうか。

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藤岡は定位置の打球はほぼ処理できているものの、速い打球の処理を苦手としている。また定位置から離れたゾーンのアウト割合も低い。特に三遊間のゴロ処理はかなり苦手としており、このゾーンでのアウト割合の低さが全体の成績を下げてしまっているようだ。

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木浪は三遊間のゴロは平均程度にアウトにできているものの、二遊間の打球のアウト割合がかなり低い。打球の速さにかかわらず、二遊間は苦手だが、特に速い打球でその傾向は顕著だ。

成績が伸びなかった多くの遊撃手でも定位置付近の打球はおおむね処理できている。上位の選手との差が生まれるのは定位置から離れた打球や速い打球の処理だ。これまでにも同様の傾向は確認できたが、今年もその傾向は変わっていない。



■ 坂本勇の守備範囲の変化

最後にここ数年、守備での成績が下降傾向にある坂本勇について触れたい。

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ちょうどこの守備特集が始まった2016年も私は遊撃手を担当したが、その際にも若干異なるものの、似たような手法で分析を行っている。3年前と今季の坂本勇のものを比べると速い打球のアウト割合が明確に下がっている(※1)。当時から速い打球よりは遅い打球に強いという傾向はあったものの、速い打球への対応が悪化したことでそのような傾向は強まっている。また、もともとは得意としていた三遊間側の打球のアウト割合も以前と比べると低下しており、大きな強みとなるゾーンがなくなった。

こうした守備範囲の変化が、リーグでもトップクラスだった守備力がリーグ平均をやや下回るレベルまで低下した要因と考えられる。


(※1)2016年と今回の分析では、ほかの内野手が捕球したもの、失策を含めるかなどの点で異なる手法を採用している。リンク先に坂本勇の2016年データがあるが、単純に比較すべきものではないのでここでの掲載は控えた。

2019年受賞者一覧

市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』にも寄稿。

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