当サイト上で度々登場し、私のスカウティングリポートでもおなじみの20-80スケール 。MLBでは選手を評価する際に、スカウトや熱狂的なファンの間で広く使われているが、日本ではまだまだなじみが薄い概念だ。グレード60の選手と聞いても、どのようなレベルの選手であるのか直感的にイメージしにくい人も多いのではないだろうか。そこで今回は編集部の要望もあり、NPBで考えた場合、各グレードにどのような選手が該当するか具体例も交えて詳細に説明する。ちなみにこれはあくまでわたし個人のスカウティング評価であることをあらかじめことわっておきたい。

各グレードの解説


グレード:20

グレードについての解説を行う前に、まずMLBの育成環境について解説を行いたい。

2021年以降、マイナーリーグは全球団の4分の1が削減されることになるようだ。しかしそうした削減を行ってもなお、MLBには傘下のマイナーリーグ5-6層のレベルに分かれている。144試合行われるそれぞれのシーズンを乗り切るために、レベルごとに25-35人のロースターがある。これに加えて最下層のルーキーリーグに2チームある球団や、さらにその下のドミニカン・サマーリーグも含めると、マイナーリーガーの各球団合計人数は200人に迫る。

もちろん、マイナーリーグの目的は将来的にメジャーリーグで戦力となるプロスペクトの育成だが、各球団平均でプロスペクトの人数は30-35人ほど、最も多いチームでも60人いるかどうかだ。つまり、マイナーリーガーの半数以上は決してメジャーリーグで戦力になるとは目されていない選手で占められている。こうした選手がスカウティングスケールの20にあたる。

彼らはずばりNP(non prospect)やorg player(org = organizationalの略)と呼ばれる。2002年から2015年にブルワーズとレンジャーズ傘下のマイナーリーグで通算1137試合に出場したウィルダー・ロドリゲス は典型的なorg guyといえるだろう。ちなみにロドリゲスはプロ13年目の2014年、レンジャーズが故障者続出によりチーム崩壊した9月にメジャーデビューをはたしている。

映画Bull Durham(邦題「さよならゲーム」)の主人公、ケビン・コスナー演じるベテラン捕手、クラッシュ・デービスも典型的なグレード20の選手といえる。ただ、捕手としての優れた能力に加え、マイナーリーグの通算本塁打記録を更新するほどの長打力の持ち主なら、MLBでレギュラーとしてプレーする機会が与えられるべきだったと思うのは私だけだろうか。

一方の日本は、ファームの階層が少なく、大学、社会人、独立リーグや一部の強豪高校が実質的な育成システムとなっている。ドラフト候補ではないアマチュアや独立リーグの選手が20に当たると言っていいだろう。支配下、育成を問わずNPB球団と契約しているすべての選手はすでに少なくとも「一軍で何らかの戦力になる」30のグレードにある、あるいは将来的にそこまで成長するとみていい。例外は、二軍の選手不足によりブルペン捕手やコーチを急きょ現役に復帰させた、2017年の新田玄気 や2019年の星孝典 のようなケースだ。




グレード:30

この30からが前述した「一軍(またはMLB)で何らかの戦力になる」グレードになる。概念としては、主力選手が故障で離脱した際に、実戦経験が必要なプロスペクトの育成を妨げずに自軍のファームから昇格させ、一軍のベンチに入れさせておける存在。要は控えの控えだ。こういった選手はよほど一軍で故障者が続出しない限り、一軍でまとまった出場機会を得ることはなく、現役生活の大半を二軍で過ごす。野手では楽天から自由契約となったルシアノ・フェルナンド や2020年限りでの引退を表明した井野卓 、投手では 斎藤佑樹吉田侑樹 (ともに日本ハム)らが30の好例と考える。


グレード40

40から上のグレードは一軍で一定の出場機会を得る選手に与えられる。具体的には野手では控えの内外野手や代打の切り札、投手では勝ちパターンではない中継ぎや下位球団のローテーション5-6番手がこれにあたる。層の薄いチームではレギュラーに40が3人以上いるケースもある。このグレードの野手として私が真っ先に思い浮かべたのが杉谷拳士 (日本ハム)だ。投手では田村伊知郎 (西武)や山﨑福也 (オリックス)らが40にあたるといっていい。


グレード45

投手層が薄いチームのローテーションの3~4番手や勝ちパターンのリリーバー、野手では40よりも優れた控えやプラトーン起用される選手がこの45に当たる。下位球団ではレギュラーの半数以上が45という場合もある。高梨裕稔 (ヤクルト)や木浪聖也 (阪神)らがこのグレードの代表格だ。


グレード50

ここがベルカーブの中央、平均的な一軍選手のグレードにあたる。「平均的」といっても、記事をここまで読んでいただけたら理解できると思うが、平均的な選手はNPB全体の中でかなりハイレベルな選手にあたる。NPB平均以上の選手は、日本の野球総人口のうちのトップ200人に満たない、本当にトップ中のトップだ。野手では多くのレギュラー選手、例を挙げるとすれば高橋周平 (中日)や中村奨吾 (ロッテ)ら。投手では上位チームのローテーションの3-4番手や勝ちパターンのリリーバーなどが50にあたるだろう。具体的には青柳晃洋 (阪神)や三嶋一輝 (DeNA)らだ。下位チームのローテーションではこのグレードの先発投手がエース格を務めることもある。小川泰弘 (ヤクルト)はその好例だろう。失点を防ぐ能力はリーグ平均以下でも、多くのイニングを投げること自体に価値があると私は考えている。


グレード55

50よりも若干優れたレギュラー野手や投手陣の中心を担う選手が55だ。50は不調なシーズンにはレギュラーとしては物足りない数字に甘んじることもあるのに対して、55は不調でも中心選手として申し分ない成績を残す能力がある、といえばおわかりいただけるだろうか。プロ入り後2年間の数字を見る限り、近本光司 (阪神)はこの55に入るし、外崎修太 (西武)も平均以上のレギュラーとして堅実的な貢献をしている。先発投手では有原航平 (日本ハム)や二木康太 (ロッテ)、リリーバーでは森唯斗 (ソフトバンク)らが妥当なところだ。




グレード60

このグレードは間違いなくチームの中心選手にあたる。野手ではコーナーポジションを守る両リーグトップ20の打者、具体的には村上宗隆 (ヤクルト)、吉田正尚 (オリックス)、近藤健介 (日本ハム)、または攻撃面での貢献度は彼らより劣るもののセンターラインを守る選手、例えば源田壮亮 (西武)、西川遥輝 (日本ハム)らがこれに当たるといっていい。森友哉 (西武)はMVPに輝いた2019年並みの数字を毎年安定して残せるようになれば70だが、現時点では60にとどめておくのが妥当だろう。仮に攻撃面で安定した数字を残しつつ守備もリーグトップ級まで成長すれば70どころか80も十分射程圏内だ。

投手では平均的なローテーションにおいて1番手を務められるレベルの先発、もしくは両リーグトップ3のリリーバーがこのグレードに値する。例を挙げるとすれば西勇輝 (阪神)、大瀬良大地 (広島)、ライデル・マルティネス (中日)らだろうか。大野雄大 (中日)は過去2年間の数字を額面通りに受け取れば70だが、真の実力を大幅に上回っているように見えるので個人的にはこの60に加えたい。


グレード70

野手、投手ともに総合力で両リーグトップ5、文句なしのスーパースターがこの70にあたる。鈴木誠也 (広島)、浅村栄斗 (楽天)、坂本勇人 (読売)らに加え、山田哲人 (ヤクルト)は来季以降、2020年の不振から脱出できればまだ70に値する実力の持ち主だ。丸佳浩 (読売)もまだこのグレードに入るかもしれないが、移籍後2年間の数字や年齢を考えると今後は60に落ち着きそうだ。

投手では球界を代表するエース、菅野智之 (読売)、千賀滉大 (ソフトバンク)、山本由伸 (オリックス)の3人のみに与えられるべき、ごく限られた勲章といえる。リリーバーで70に値する投手は滅多にいないが、強いて言うなら2014年から2017年のデニス・サファテ (ソフトバンク)レベルの圧倒的な投球には、70を与えても間違いではない。


グレード80

この80に名を連ねるのは球史に残る偉大な選手のみ。各年代に1人いるかいないかという希少さだ。2020年現在、現役の選手の中でこれに最も近い存在は柳田悠岐 だが、上記した70の選手と比べて厳密に1標準偏差以上優れているかと問われれば100%イエスとは言いがたい。典型的なエイジングカーブでは衰え始める年齢に差し掛かっているが、今後2-3年間現在のレベルでプレーし続けられれば文句なしの80といえるだろう。

野手でほぼ間違いなく80だったといえる選手は渡米前のイチロー (オリックス)、全盛期の野村克也(南海)らだ。MLBでは2005年から2010年のアルバート・プーホールス (カーディナルス)が好例だ。2020年現在ではいうまでもなくマイク・トラウト (エンゼルス)がほかの選手と比べて頭一つ抜けている。彼を90とし、ムーキー・ベッツ (ドジャース)を80とするべきだという声もあるほどだ(本当にごくわずかだが、中には20から80の間に収まらないサンプルも存在する)。もし同様の方法を取るとすれば、全盛期の王貞治(読売)も90となる。トラウトのように中堅手ではなく、一塁手である王がこのグレードに値するのだから、いかに彼の打棒が他を超越していたかを物語っている。

投手では70の項目で名前を挙げた3人よりもさらに格上の絶対的なエースが80になる。私の個人的な意見を述べさせてもらうと、NPBにおいてこのレベルで他を圧倒した投手は、2010-2011年のダルビッシュ有 (当時日本ハム)を最後に1人もいない。ただ、田中将大 に関しては、MLB移籍後の2014~2016年の数字をもとに判断すれば、2013年は80だったともいえる。70の項目で名前を挙げた3人の中では、山本がもう一段成長し、他の2人から頭一つ抜けたレベルに到達すれば80になる。




スカウティングスケールを使うことで選手の理解が進む


以上、各グレードの具体的なレベルを説明してきたが、これはあくまでも私の個人的な基準である。定義が大きく食い違わない限りは読者の皆さんで各々の基準を持っていただいてかまわないし、選手の評価そのものに関しても同じことが言える。また、上記の「控え」や「中心選手」といった例も、各チームの事情に左右される。層の厚いチームでは50の選手が控えに回る場合もあるし、逆にリリーバーのやり繰りに苦しんでいるチームでは40の投手がクローザーを務めざるを得ないこともあるだろう。

また当然だが、選手の能力はキャリアを通じて変化し続ける。この記事内で具体例として名前を出した選手は、特に時期の表記がない限りは過去3-4年間の数字をもとに判断した。単年の成績に限れば、平均的なレギュラーがMVP争いに加わるレベルの数字を残したり、エースクラスの投手が3-4番手程度に落ち着いたりということはざらにあるからだ。それが一時的なものか、恒久的な成長もしくは衰退かを判断するには膨大な量のサンプルサイズが必要になる。

何より面白いのは、時折常識を逸脱した成長を見せる選手がいることだ。例えば2018-19年と2年連続でサイ・ヤング賞を受賞したジェイコブ・デグロム (メッツ)は2010年のMLBドラフト9巡目、全体272位指名とプロ入り当初の期待値は低く、せいぜいグレード40がいいところだった。それが誰もの予想を大きく超える成長を見せ続け、30歳を迎えて正真正銘の80にまで上り詰めた。

また、デグロムの同僚ジェフ・マクニール もプロ入りは2012年のドラフト12巡目(全体356位)。AAAに到達したのはプロ入り6年目の2017年と、よくて30、下手をすれば20に近い存在だった。しかし、2018年に26歳にしてMLB昇格を果たしブレイクすると、翌2019年にはオールスターにも選出される活躍を見せるなど、わずか1年半の間に60にまで急成長を遂げた。20-80スケールを使えば、こうしたケースもより明確に、具体的に説明できる。

このような例も踏まえて、今回の記事でスケールをより深く理解していただければ何よりだ。今後スカウティングリポートを読む際の指針としてほしい。


過去のスカウティングリポート
【スカウティングリポート2018】
上茶谷大河(東洋大・右投手)

【スカウティングリポート2019】
愛斗(西武・外野手)
勝又温史(DeNA・右投手)
西川愛也(西武・内野手)
伊勢大夢(明治大→DeNA3巡目・右投手)

【スカウティングノート2019】
D根尾、M藤原、M安田、E西巻、F万波、F野村

【スカウティングリポート2020】
奥川恭伸(星稜高→ヤクルト1巡目・右投手)
早川隆久(早稲田大・左投手)


山崎 和音@Kazuto_Yamazaki
バイリンガルに活動するライター。1.02以外にもBeyond the Box Score や、 Baseball Prospectus といったウェブサイトに寄稿。 BP Anuall 2018では日本野球に関するチャプターを執筆。セイバーメトリクス的視点からだけではなく、従来のスカウティングを駆使した分析もする。趣味のギターの腕前はリプレイスメント・レベル。
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