野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2020年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“1.02 FIELDING AWARDS 2020”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。

対象左翼手に対する9人のアナリストの採点


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左翼手部門は9名のアナリストのうち8名が1位票を投じた青木宣親(ヤクルト)が受賞者となりました。しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。左翼手部門は参考として大南淳の分析を掲載します。2020年左翼手のUZRはこちらから。




左翼手参考分析 分析担当者:大南淳



UZRデータによる対象左翼手評価


まず今回私がどのような評価手法をとったかを解説する前に、ベーシックなUZR(Ultimate Zone Rating)を使って、今季の守備成績を確認しておきたい。

表1 2020年左翼手UZRランキング(500イニング以上)
左翼手 球団 守備イニング ARM
進塁抑止
RngR
打球処理
ErrR
失策抑止
UZR UZR/1000
1 青木 宣親 S 768 6.9 7.8 0.4 15.2 19.7
2 島内 宏明 E 746 0.0 7.5 0.4 7.8 10.5
3 佐野 恵太 DB 908 -1.7 -0.1 -1.1 -2.9 -3.2
4 近藤 健介 F 581 0.5 -5.3 0.3 -4.5 -7.8
5 J・サンズ T 829 -3.8 -2.2 0.3 -5.7 -6.9
6 J・ピレラ C 519 1/3 -2.4 -4.0 0.2 -6.2 -12.0
7 C・スパンジェンバーグ L 590 -4.0 -4.9 -1.2 -10.1 -17.1

今回の7選手の中では青木がトップのUZR15.2を記録している。2018年左翼手部門受賞者の島内宏明(楽天)は2位。打球処理貢献を表すRngRでは青木の7.8に劣らぬ7.5を記録しているが、青木がARM(進塁抑止貢献)で6.9と高い数値を記録したため、UZRでは青木の15.2に対し島内が7.8と大きな差がついてしまっている。

またランキング下位には外国人選手が集中。ホセ・ピレラ(広島)やコーリー・スパンジェンバーグ(西武)は内外野を守ることができるユーティリティプレイヤーだが、最も多く守った左翼での守備貢献はふるわなかったようだ。ただ彼らのRngR自体はそれほど大きなマイナスになっていない。いずれの選手もARMの部分で大きなマイナスを計上してしまった。走者の進塁を防ぐことができなかったようだ。


左翼手の選手別打球処理分析


次にこれら左翼手がどのような打球処理を見せていたかを個別にチェックしていきたい。今回はどういった打球に強いのか・弱いのかを明確化するため、前述した打球処理貢献RngRを打球エリアごとに分割して表現した。数字は得点・失点の単位になっており、例えば2点であればそのカテゴリの打球処理で平均的な左翼手に比べ2点多く失点を防いでいると考えることができる。

フィールドのどのあたりがどの位置にあたるかは以下の図を参考にしてほしい。黄色く塗られている部分が今回比較を行った範囲だ。

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青木宣親(ヤクルト)

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青木は今季、中堅から左翼手に本格的にコンバートされた。38歳であるため、普通ならば守備につくこと自体が難しくなってくる年齢だ。そんな中青木は左翼手最高のUZR15.2を記録。打撃だけでなく、守備面でもまだまだ健在であることを感じさせた。

青木の打球処理データを見ると、定位置前方の距離6や距離5の打球で高い失点阻止能力を見せている。こうした打球でほかの左翼手との差をつくったようだ。


島内宏明(楽天)

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次は本企画における左翼手部門の上位常連選手、島内だ。左翼は守備に目をつむって打撃重視の選手を起用することが多いポジションだ。青木もそうであるが、本来中堅を務めるような選手が左翼にまわることで、守備力の違いを見せつける結果になっている。

島内は青木と違って、距離7や8といった定位置からやや後方の打球について多くの失点を防いでいた。特にレフト線の打球で集中的にほかの選手との差をつくっていたようだ。一方やや左中間に弱い様子が見られる。ただ現状のNPBの左翼手では最高レベルの守備力をもった選手であることは間違いないだろう。


佐野恵太(DeNA)

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佐野は今回はじめてFIELDING AWARDSの対象選手となった。ゾーンごとの打球処理評価を見ると、レフト線よりは左中間で多くのプラスをつくっていたようだ。一方、距離8のフェンス際の打球で数値が落ち込んでいる。これは本拠地・横浜スタジアムのフェンスの高さも影響していそうだ。ちなみに私は過去の分析でこうしたフェンス上部に当たる人間には処理不可能な打球を除外しての評価も行っているが、今回は別の手法をとったため実施していない。評価手法については後述する。


近藤健介(日本ハム)

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近藤は左中間に強く、レフト線に弱い様子がはっきり表れている。また定位置付近にあたるゾーンE、距離6の打球で-2.2と大きなマイナスをつくっており、評価が伸び悩んだ要因となっている。


ジェリー・サンズ(阪神)

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サンズは深めの打球に傾向が表れている。左中間のHやIといった打球では強みをつくっているが、レフト線でマイナスが大きくなった。甲子園球場は右翼から左翼への浜風が吹くことでよく知られている。レフト線の打球はどんどん切れていく動きになるはずだ。そうした打球処理の難しさがこのサンズの処理状況に出ていると推測するのは考えすぎだろうか。単にサンズのポジショニングの問題、あるいは偶然こういった傾向になった可能性も十分あるが、特殊な球場だけにどうしてもその影響を考えてしまう。


ホセ・ピレラ(広島)

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ピレラも左中間深めの打球は高得点を記録したがレフト線には弱い、サンズと同様の傾向を見せている。


コーリー・スパンジェンバーグ(西武)

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スパンジェンバーグは左中間、レフト線ともに打球処理が振るっていない。今季NPB最多の8三塁打、一塁到達最速3.92秒など攻撃面においてスピードを見せた選手だが、守備面ではそれを生かしきれていないように見える。やや前方の打球で違いを作っているのがほかの選手と異なるところだろうか。左翼手メインでの起用はスパンジェンバーグのポテンシャルを生かしきれていないようにも思える。




評価方法の解説 ~換算について~


ここからは私がどのような手法を用いて分析・採点を行ったか解説していく。

今回私の評価はベーシックなUZRをベースに行った。ただその中でも「イニング換算」に注目した点がほかの評価と異なる点であると思われる。本企画において毎年アナリストによる分析が行われているが、最終的な評価・採点結果は大きく2つの方向性に分かれる。イニング換算を行うか、行わないかである。

FIELDING AWARDSの対象選手は野手であれば各ポジション500イニング以上となっている。ただこの中には当然、500イニングの選手もいれば1200イニング以上の選手も混ざっている。最終的な評価・採点を行う際には、これらを同列に評価しなければならない。

イニング換算を行わない場合、その年に防いだ失点数が高かった順に順位がつけられることになる。防いだ失点の多さ=守備貢献の高さと考えるのは、より失点を減らすことが守備の目的である以上極めて妥当な考え方だ。しかし、この手法では出場時間は少ないものの非常に高いパフォーマンスを見せていた選手に高順位をつけるのは難しくなる(当然、出場機会の少ない選手の出場機会を換算して評価を与えるべきではないという考え方もある)。

一方、イニング換算を行った場合、そうした出場機会の少ない選手に高評価を与えることもできるが、過大、あるいは過小に評価してしまうリスクは上がる。短いイニングでのパフォーマンスはサンプルサイズが不足しており、選手本来のパフォーマンスを反映しきれていない可能性があるためだ。また、実際にはない貢献をその選手の評価としてしまってよいのかという問題もある。

イニング換算を行うか行わないか。このどちらをとるかはアナリストによって分かれるところである。

私はこの企画がはじまってから、基本的にイニング換算を行う方針をとっている。これは500イニング以上という最低ラインを設けているため、換算を行っても極端な結果にはならないであろうという予測、またほかのアナリストと差別化し、多角的な分析を企画に盛り込もうと考えたためだ。ただ換算を行う際にイニングを用いる手法は、厳密にいうと適切ではない。

まずなぜ換算を行う必要があるのかというところから考えてみたい。換算を行うのは、守備機会を均一化した状態で比較を行うためである。

野球における率系の指標は機会に対してどれだけのパフォーマンスをあげたかという構造になっている。打率であれば、打数という機会のうち、どれだけ安打(パフォーマンス)を放ったかという構造である。

守備も同様で、例えば2020年の源田壮亮(西武)であれば、1037イニングで遊撃UZRが18.0。1037イニングの機会で、平均的な遊撃手に比べ、18.0点多く失点を防ぐパフォーマンスを見せたということになる。イニングを機会としているため、イニングで換算しているのだ。200打席で20本塁打を放った打者を、600打席であれば60本塁打ペース、と考えるのも換算という意味では同じものだ。

ただ厳密に考えた場合、イニング換算によって守備機会が均一化されるわけではない。守備イニング=守備機会ではないからである。守備イニングとは、その選手が守備についているときにチームが獲得したアウト数を3で割ったものを指している。同じ1000イニングを守った選手が2人いても、同様の守備機会が訪れるわけではない。極端な話をすれば、球界最高の名手・源田が1037イニングを守っても、遊撃手の守備範囲に年間で1球しか打球が飛ばなければ、UZRは0から大きく動くことはない。こう考えるとイニング換算の問題点が理解できるだろうか。これほど極端なケースはありえないが、同じイニングを守った選手でも、多かれ少なかれ守備機会の差が生まれているはずである。

そこで今回はその選手の守備機会をイニングではなく、そのポジションの周囲に飛んできた打球数で換算を行ってみた。こちらのほうがイニングよりも適切な換算が行えると考える。ここではこれを「被打球換算」と呼ぶ。


評価方法の解説 ~被打球の定義~


ただ被打球で換算を行う場合に問題となるのが、被打球をどう定義するかである。三塁線の打球は当然ながら遊撃手の守備範囲ではない。ではどこからどこまでを遊撃手の守備範囲、被打球とすべきかという問題である。データ分析を行う際はこうした定義を明確化しなければならない。この定義に正解はないだろう。今回は守備指標UZRの算出パーツを使って2つの条件づけを行った。この2つをクリアしたものをそのポジションの選手の被打球数とする。

まず今回の分析では、UZRと同様に、ゾーン・距離・打球性質・打球強さで区分された打球カテゴリを使用している。これらの区分の中でそのポジションの選手がNPB全体で10以上アウトをとった打球を「被打球」の1つ目の条件とした。これにより、そのポジションに飛んだ打球と呼ぶにはあまりにもレアなプレーを排除することができる。

もう1つは、守備位置責任が10%以上という条件である。守備位置責任という言葉を聞き慣れなれない方も多いだろう。これはUZRを算出する際に用いられるパーツの1つだ。具体的にはそのカテゴリの打球がアウトになったうち、どのポジションの選手がどれだけのアウトをとっていたかの割合が守備位置責任となる。

例えば2020年シーズンのNPBでは、左中間にあたる「ゾーンJ、距離7、打球性質フライ、打球強さC」の打球は107個アウトになっていた。このうち29個が左翼手、78個は中堅手が処理していたようだ。この場合左翼手のこの打球への守備位置責任は29/107=27.1%となる。10%を超えているので、このカテゴリの打球は今回の定義内に収まる。この守備位置責任というデータを用いることにより、守備範囲と呼ぶには無理がある打球を除外することができるはずだ。

この2つの条件づけを行うことで、各ポジションにおける「被打球数」をカウントできるようになった。今回は上で説明したような手法で被打球の定義を決めたが、これは決まりきった手法ではない。ほかにさらに適切な手法があるかもしれない。ただこれでひとまずイニング換算ではなく、被打球換算で守備貢献を測る下準備が整った。



評価方法の解説 ~被打球換算の実践~


換算を行う前にこの被打球データについて具体的に見ていきたい。まず今回の対象左翼手の守備イニングと被打球数を比較する。

表3 対象左翼手の2020年被打球数
左翼手 球団 守備イニング 被打球数 被打球/9 UZR
青木 宣親 S 768 196 2.3 15.2
島内 宏明 E 746 179 2.2 7.8
佐野 恵太 DB 908 176 1.7 -2.9
近藤 健介 F 581 161 2.5 -4.5
J・サンズ T 829 157 1.7 -5.7
J・ピレラ C 519 1/3 109 1.9 -6.2
C・スパンジェンバーグ L 590 151 2.3 -10.1

対象選手で最も多くのイニングを守ったのは佐野の908イニング。被打球数は176球となっている。ただ佐野のこの176被打球は最も多い数字ではない。最多は768イニングを守った青木の196球。佐野よりも140イニング少ない青木のほうがより多くの打球を浴びていたのだ。青木のほうがより多くの打球を処理するチャンスがあったとも言い換えられるかもしれない。

ほかの選手を見ても、イニング数と被打球数が比例関係になっているわけではない。スパンジェンバーグとピレラはそれぞれ590イニングと519 1/3イニングと大きなイニング差があるわけではないが、被打球数はスパンジェンバーグの151球に対し、ピレラが109球とかなりの差がついている。

これら被打球数を9イニングあたりに換算した値を被打球/9として併記している。左翼手で9イニングあたり最も多くの打球を浴びたのは近藤の2.5球。スパンジェンバーグ、青木も2.3球と守備機会を得ていた。こうしてみると、イニングあたりでも被打球数には多くのばらつきがあることがわかるだろう。

こうしたデータをもとにUZRを被打球で換算し算出したものが以下の表だ。ちなみにこの年被打球が最も多かった青木の196球にあわせるかたちで換算を行っている。参考までに最も多くのイニングをこなした佐野の908イニングを基準に換算したUZRも併記している。ただ基準が異なるため、単純な値の比較には意味がないことに注意してほしい。イニング換算のものに比べ、相対的にどの程度上位・下位の差が広がっているか、縮まっているかが重要だ。

                                                                       
表4 被打球換算を行ったUZRによる2020年左翼手評価
順位 左翼手 球団 UZR UZR/908イニング UZR/196被打球
1青木 宣親 S 15.2 17.9 15.2
2 島内 宏明 E 7.8 9.6 8.6
3佐野 恵太 DB -2.9 -2.9 -3.2
4近藤 健介 F -4.5 -7.1 -5.5
5J・サンズ T -5.7 -6.3 -7.1
6 J・ピレラ C -6.2 -10.9 -11.2
7 C・スパンジェンバーグ L -10.1 -15.6 -13.1

まずさきほどイニングあたりの被打球が多いと紹介した近藤について見ていこう。近藤はUZRの評価では-4.5、908イニングあたりでは-7.1とマイナスだったが、これは打球をほかの選手よりも多く浴びていたためよりマイナスが大きくなっていたと考えられる。被打球換算ではほかの選手と被打球の数が統一されるため、このマイナスが小さくなることになる。

結果908イニング換算では、佐野のUZR-2.9に対し近藤が-7.1だったが、196被打球換算では、それぞれ-3.2、-5.5と相対的な差が縮まっている。値自体の大小よりも、2人の差が縮まっていることに注目してほしい。

ただ被打球換算を行ったUZRで全体を見ると、イニング換算に比べ相対的に差が縮まることはあったが、順位が大きく入れ替わるまでには至っていない。唯一イニング換算ではサンズが近藤を上回っていたが、被打球換算では近藤が上位にきている。

ほかにはスパンジェンバーグも1つランクが上のピレラとの相対的な値が小さくなっている。西武は現在のNPBにおいて、奪三振能力で1段落落ちる状況がここ2年ほど続いている。奪三振が少ないということはフィールド上に飛ぶ打球が多いということだ。こういったチーム力により生まれる差も被打球換算を使えば補正することができる。

ちなみに今回捕手を除く全ポジションで被打球換算を行った。ほかのアナリストとの大きな差が出ているのが二塁だ。私以外のすべてのアナリストが外崎修汰(西武)を1位としているのに対し、私は吉川尚輝(読売)を1位とした。被打球換算のUZRで見た場合、被打球が多い外崎の値が目減りし、吉川が上回ったためだ。これも前述したような西武のチーム状況と大いに関係していると思われる。

ともかく私の左翼手評価の順位は上の表4のとおりである。大きな順位の変動はなかったが、被打球で換算を行った場合における値の変化のスケールがつかめたという意味で、一定の意義のある分析になったのではないだろうか。



2020年受賞者一覧


過去のFIELDING AWARDS左翼手分析はこちら
2019年(金子侑司)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53582
2018年(島内宏明)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53463
2017年(中村晃)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53326
2016年(西川遥輝)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_04.html

大南 淳@ominami_j
ストップウォッチによる時間計測など、地道なデータ収集からの分析に取り組む。
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