前回に引き続いて無死一二塁からのバントについての検証を続けていく。前回はバントの企図率について調べてみたが、今回はバントを試みた場合の結果について検証していく。前回と同様に検証の対象とするのは、無死一二塁からの投手以外の打者によるバントだ。走者一塁編二塁編はこちらから。

バント結果の検証


以下ではバントの結果を以下のとおりに分類して検証していく。

大成功 :安打、失策、野選でアウトとならずに打者走者が出塁した場合(バント後も無死の場合)
成功:バントの結果、アウトカウントが1つ増えて、走者の1人が三塁または本塁に到達した場合(バント後に1死二三塁、一三塁または走者が1人以上生還した場合)
失敗:バントの結果、アウトカウントが1つ増えて、走者がいずれも三塁または本塁に到達しなかった場合(バント後に1死一二塁の場合)
大失敗 :バントの結果、アウトカウントが2つ以上増えた場合(バント後に2死またはイニングが終了した場合)

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無死一二塁からバントを試みると、大成功は10.2%、成功は65.0%であり、75.2%の割合で意図していたとおりか、それ以上の結果になっている。これは無死二塁からのバント成功率が89.7%であったことと比べると極めて低い。併殺または三重殺になる可能性(大失敗)こそ1.7%と低いものの、打者が投手以外の場合に限定しても4回に1回は失敗していることになる。

なお、打者が投手の場合は成功率が50%を下回っている。打者が投手の場合とそれ以外の場合とでの差も大きくなっており、無死一塁二塁の場合と比べると技術的にもかなりバントが難しい場面であることがうかがえる。無死二塁の場合では転がすことさえできれば、高い確率で走者を進めることができたが、無死一二塁の場合にはそうはいかない。フォースプレイとタッチプレイの差はかなり大きいようだ。

こうした成功率が状況によって変化するかをまずは見ていく。無死二塁の場合は、状況によって成功率が変化するという傾向はほとんど見られず、無死一塁の場合は状況による成功率の変化が顕著に見られた。走者一二塁の場合はどちらだろうか。




状況ごとのバント成功率の変化


まずは点差がバント成功率にどのような影響を与えるかから見ていく。僅差の状況では、守備側が警戒してバントが成功しづらいことはあるのだろうか(表14)。

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顕著とまでは言えないまでも、1点ビハインド時や同点のときはその他の場合と比べて成功率が低くなっている。2点以上ビハインドの場合はその他の場合と比べると成功率が高い。守備側としても、1点を取られることで同点または逆転となる場面はバントを警戒することで成功率を下げているということだろうか。

では、試合の序盤と終盤とで成功率が変わるという傾向は見られるだろうか(表15)。

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イニング別に見ると序盤から中盤、終盤になるにつれて成功率が下がっていくという傾向が見られる。一般にバントは序盤よりも終盤の方が有効な場面が多くなると考えられるが、こうした傾向からすると無死一塁の場合と同じく、バントが有効な場面ほど成功率が低くなるという傾向が見られるようだ。

続いて、打者の打力、投手の能力によって、成功率が変わってくるかも見てみる(表16、表17)。ここでは打者をwOBA(weighted On Base Average)が①.350超、②.310超350以下、③.310以下の3グループ、投手をtRA(true Runs Average)がA.3.50未満、B.3.50以上4.80未満、C.4.80以上の3グループに分けて整理をした。tRAは値が低いほど優れた投球をしていることを示す。

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表16を見ると、打者の能力が高いほどバント成功率が高くなる傾向があるようだ。また、併殺または三重殺となる大失敗の割合は③wOBA.310以下のグループが最も高い。これは打力の高い打者ほどバントも上手いということではなく、打力が高い打者ほどバントを警戒されることがないため成功率が高くなるのに対し、打力の低い打者ほどバントを警戒されやすく成功率が低くなるのだと考えられる。無死二塁の場合にはこうした傾向が見られないことからすると、一般に打力の高い打者ほどバントが上手いとは考えにくい。もし、打力の高い打者ほどバントが上手いのであれば、塁上の走者の状況にかかわらず、どんな場面でも打力が高いほどバント成功率が高まるはずだが、そのようにはなっていない。ここからも、バント成功率に影響を与えるのは守備側の警戒の度合いだということがうかがえる。

これに対して、投手の能力によって成功率が変わる傾向は見られない。無死一二塁の場合は、投手の能力によってバント企図率が変わるという傾向が見られなかったが、そのことと関係しているのかもしれない。

こうした一連の結果からすると、無死一二塁の場合は、無死一塁の場合と同様に、バントが有効で守備側が警戒しやすい場面ほど成功率が下がると考えられる。


どのポジションの選手が捕球するかによる違い


ここからは、無死一二塁のときに、バントを試みた場合にどの程度の打球が飛んでいるか、また打球を処理しているのはどのポジションかを調べてみた(表18)。

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投手が半分近い割合で処理をしており、次いで捕手、一塁手、三塁手と続いている。無死二塁の場合と比べると投手が処理した割合はさほど変わっていないが、一塁手が処理した割合が減り、三塁手が処理した割合が増えている。三塁側でも強めの打球でなければ三塁手が処理することはないため、三塁手が処理した割合は一塁手が処理した割合よりは低くなっているが、双方の割合の差が縮まっている。

また、3バント失敗で三振となっているのは全体の2.7%ほどである。無死二塁の場合は0.3%に過ぎないため、無死一二塁の場合にはそれに比べれば3バントが試みられる機会が多かったと考えられる。

では、どの守備位置の野手が捕球するかによって、成功率に変化はあるだろうか。

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捕手が捕球した場合は、成功率(成功または大成功の確率)が57.0%とかなり低くなっている。また、併殺となる割合も4.6%と低いとはいえ、ほかの守備位置が捕球した場合と比べると高い。塁上の走者の状況にかかわらず、捕手が捕球してしまうとバントが失敗する可能性は大きく高まる。また、投手が捕球した場合は80.6%、一塁手が捕球した場合は82.5%と無死二塁の場合と比べると成功率が低くなっている。無死二塁の場合は転がしさえすれば高い確率で成功していたが、無死一二塁の場合には当てはまらない。これに対して、三塁手が捕球した場合は極めて高い確率で成功となる上、打者走者もアウトにならない大成功の割合も23.4%と高い。

このように、無死二塁と異なり、三塁手にバント打球を捕球させることのメリットは、ほかの守備位置の野手にバント打球を捕球させることと比べて高いものとなっている。

続いて、左打者と右打者あるいは左投手と右投手とでバント成功率が変わってくるかも調べてみた(表20)。

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打者の左右にかかわらず走者を進めることができる確率にはほとんど差がない。ただし、左打者は自身も出塁することができる確率(大成功)が右打者よりも高い。一塁に数歩近いことに加えて、実質的にセーフティバントを行ったケースが多いことも理由と考えられる。




投手と打者の左右による違い


次に、投手の左右でバント成功率に変化があるかを見ていく(表21)。

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無死二塁の場合とは反対に3%ほど右投手の成功率が低くなっている。

続いて、打者と投手の左右の組み合わせでバント成功率が変わってくるかも見てみる(表22)。

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無死二塁の場合と異なり、左対左や右対右が投手有利となることはない。


打球方向による違い


次に、バントの方向についても確認してみた(表23)。ちなみに打球方向は以下の図1のようなアルファベットで区分したものを使っている。アルファベットが先に進むほど、一塁側の打球方向となるとイメージしてもらえばよい。BとYはファウルゾーンだが、今回は邪飛も対象としているため、これらのゾーンへの打球も発生している。

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打球を3方向に分類すると正面のバント打球は左右ともに差は見られないが、左打者の方が右打者に比べて三塁側のバント打球が多くなっているようだ。とはいえ、右打者も一塁側よりは三塁側のバント打球が多くなっている。これは無死二塁の場合と比べると一塁手が捕球した場合に、二塁走者がアウトになってしまう可能性が高まっていることが原因と考えられる。

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表24を見ると、正面に転がしてしまった場合は三塁側や一塁側に比べて成功率が低くなっているが、実は三塁側に転がした場合の方が一塁側に転がした場合に比べて成功率が低い。

これについて、もう少しゾーンを細かく分けた結果を見てみる(表25)。

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塁線に近いゾーンは一塁側、三塁側ともに成功率が極めて高い。最もアウトになる割合が高いのはJ~Mのゾーン。これは正面やや三塁側のゾーンである。このゾーンでの成功率は71.9%なのに対して、正面やや一塁側のゾーン(N~Q)では81.4%。三塁側を狙って中途半端に正面に寄った打球が最も危険なのは二塁の場合と同様だが、成功率はさらに低くなっている。また、三塁側でも正面寄りのF~Iのゾーンでも成功率は76.2%と一塁側のR~Uよりも低くなっている。

また、これまでにも見てきたとおり、捕手がバントを処理した場合には極めて高い確率でバントは失敗となる。そこで、捕手が処理したバント打球を除いたゴロとなったバントの成功率をゾーンごとに見てみる(表26)。

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捕手が処理した打球を除くと全体的に成功率が上がっている。塁線付近の打球はさらに成功率の高い打球となっており、難易度の高い無死一二塁からのバントといえど、捕手が処理できないような打球を一塁線または三塁線付近に転がせばほぼ成功できるといえる。また、正面やや三塁側のJ~Mのゾーンが最も危険であることは変わりなく、70%程度の低い成功率となっている。意外なことに、正面やや一塁側のN~Qのゾーンの成功率は悪くない。ちょうど一塁手と投手の中間当たりのゾーンであるためだろうか。

これらの結果から言えることは、三塁側に転がしても投手や捕手が捕球できるゾーンに転がってしまうと、下手に一塁側に転がすよりもむしろ成功率は低くなってしまうということだ。

こうした結果からすると、走者が二塁にいるときのバントは三塁手に捕球させた方がよいとは言えても、三塁側に転がした方がよいとは必ずしも言えないように思える。




まとめ


以上の検討の結果から、走者一二塁からバントが成功して走者を三塁に進めることができる割合は75%程度であり、状況や打者によってはその成功率が下がるということがわかった。これは無死一塁でのバントと似たような特徴である。しかし、無死一塁の場合と比較すると、成功率自体が低いため、打者にバントをさせるか否かの判断においては、そのときの打者の打力や点差、イニングといった状況のほか、その打者のバントの巧拙をより重視する必要性が高いように思える。

Part3ではWPA(勝利期待値の変化)や得点確率から無死一二塁からのバントの有効性について検証をしていく。


市川 博久/弁護士 @89yodan
DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート3』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

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