今季から阪神は久慈照嘉内野守備コーチが「バント担当コーチ」も兼任することになりました。これを受け筆者は開幕前に昨季までの阪神のバント傾向を分析しました。コーチ導入後の変化をつかむため、事前に昨季までを分析しておいたのです。今季も交流戦が終わりある程度シーズンが進みました。このタイミングで今季阪神のバント傾向を見ると、興味深い変化が表れていたので紹介したいと思います。


昨季までとの犠打数・被犠打数の変化


まずは1試合あたりの阪神の犠打数と、被犠打数(阪神の対戦相手の犠打数)について、2019年以降のデータを以下の表1で比較します。2021年のデータは交流戦終了時点のものです。

pict

1試合平均の犠打数を見ると、今季は0.67個。0.7個強だった2020年以前と比較するとわずかに減少しています。ただし、依然としてリーグ平均よりは多く、今季もリーグ平均より犠打の多いチームであるようです。

一方、被犠打のほうはかなり減っています。1試合あたり0.6~0.7個だった昨季までに比べて、今季は0.45個。ただこれは阪神が被犠打をうまく防いでいるというよりかは、今季の阪神が目下好調であることが理由として考えられます。1点を争うような試合展開が少なく、相手チームとから犠打をされにくいのではないでしょうか。




状況別に見る犠打の企図率


続いて、イニングと得点差から見る状況別の阪神の犠打企図率を見ていきます。昨季と今季で比較したものを以下の表2-1に示します。得点差は阪神の視点から、僅差の-1、0、+1と±2点以上の5つの状況に、イニングは、序盤の1~3回、中盤の4~6回、終盤の7回以降の3つに分けています。

pict

表2-1の1~3回の犠打に注目してください。これを見ると、今季の阪神は2点以上ビハインドの序盤と、2点以上リードでの序盤・中盤に犠打の企図率が高くなっています。特に序盤で2点以上ビハインドの場合5.3%と、セ・リーグ平均の2.6%と比べてもかなり割合が高くなっています。犠打について、今季の阪神は試合の序盤で特に積極的な様子が見えます。

参考として被犠打についても表2-2に示しておきます。

pict

経過時間から見るバントの質


最後に、バントの質の面を経過時間の内訳から比較してみたいと思います。

以前の分析で、経過時間(バットに当たってから野手が捕球するまでの時間)が短い、特に1.80秒未満の場合にバントが失敗となる可能性が高くなることが確認できました。したがって、1.80秒未満の犠打が多いことは阪神のバントの質が悪いことを、1.80秒未満の被犠打が多いことは、相手チームに質の悪いバントをさせていることを意味します。

この阪神のバントの経過時間の内訳を、昨季と比較したものを以下の図1-1と図1-2に示します。グラフに青い面積が多いほど質の悪いバントが多いことを意味します。まずは阪神攻撃時のバントを示した図1-1からです。

pict

図1-1の阪神攻撃時のバントを見ると、走者一塁の状況において、1.80秒未満のアウトになりやすいバント(青)が増加しています。またこれに1.80~2.10秒のバント(水色)も含めると、走者状況一塁、二塁どちらであっても2021年のほうが面積が広くなっています。これは阪神攻撃時に質の悪いバントの割合が増えていることを意味します。ただまだシーズン半分程度でサンプルが不足していることからも考えると、質が悪くなっていると結論づけるには早すぎると考えます。

pict

今回、最も劇的な変化が起こっていたのは図1-2の阪神守備時のバントについてのデータです。これを見ると、走者二塁時に経過時間1.80秒未満(青)のバントが45%と非常に高くなっています。昨季が13%だったことを考えると、劇的な割合の上昇です。走者二塁時、今季の阪神は相手に質の悪いバントをさせることに成功しているようです。

たださきほども述べたように、まだシーズンが半分ですのでサンプル不足は否めません。偶然こういったデータになっている可能性も十分あることは注意しておかなければなりません。


まとめ


阪神のバント傾向について、昨季と今季の変化を見てきました。バントコーチが導入されて、具体的にどのような指導が行われているか、外側からは想像するしかありませんが、現時点においては、攻撃時よりも守備時に変化が起こっているように見えます。

また実際に阪神のバント守備に改善が見られていたとしても、それが何によってもたらされているかまでの特定はできていません。バッテリーの成果である可能性もありますし、バックの野手陣のものによるものなのかもしれません。このあたりはシーズン終了後の分析課題としたいと思います。

散々繰り返していますが、2021年のデータは交流戦終了時点、シーズン半分弱のデータであるため、サンプルサイズが十分とは言えません。現時点の傾向が阪神の戦略を反映したものであるか、それとも誤差に過ぎないのかという判断には慎重になる必要があります。ここからシーズンの後半に向けて、阪神のバント傾向が変わってくる可能性も十分にあります。これを踏まえた上で、残りのシーズンは阪神のバントの経過時間に注目してみてはどうでしょうか。


佐藤 文彦(Student) @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。
 
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る