2021年のプロ野球前半戦は新人選手の活躍が目立った。その有望新人の中で最も大きな注目を集めたのは佐藤輝明(阪神)だろう。圧倒的な飛距離を武器にここまで20本塁打(7月12日現在)をマーク。新人の本塁打記録31本の更新も現実的な位置につけている。ただ一方で佐藤は三振の多さ、四球の少なさといった欠点についても指摘されることが多い。こうした佐藤の極端な打撃アプローチについて、どのレベルものであるのか1.02Leadersのデータを使って見ていきたい。

佐藤の三振ペースはNPB歴代3位ペース


まずここまでの佐藤輝明の成績を確認しておこう。7月12日現在、佐藤の20本塁打はNPB全体で5位タイ長打力を示す指標ISOにおいても、.261で規定打席到達打者の中で7位につけている。パワーに関しては文句のつけようがない成績である。

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圧倒的なパワーを見せる佐藤の打撃だが、大きな欠点もある。極端に三振が多いことである。以下の表は今季のNPB規定打席到達打者のK%(打席あたりの三振割合)を高い順に並べたものだ。これを見ると佐藤のK%は36.3%(リーグ平均19.9%)。規定打席に到達している52打者のうち、最も三振が多い打者であるようだ。

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この三振の多さは歴史的なレベルといっていい。現在1.02においては、2014年以降の成績ランキングをLeadersページにて公開しているが、直近8シーズンに規定打席に到達した延べ447打者のうち、佐藤の36.3%は最も高い値だ。

K%シーズン別ランキング
2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021

ただ、2014年以降で見た場合、こうなるのも当然といえる。佐藤はNPBの歴史的に見ても最高レベルに三振が多い打者だからだ。以下は2リーグ制が開始した1950年以降、シーズン400打席以上をクリアした延べ4547打者を、K%が高い順、つまり三振のペースが高い順に並べたものである。

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これを見ると、過去最も高い割合で三振を喫したのはK%43.0%を記録した1990年のラルフ・ブライアント(当時近鉄)。2位、3位にもブライアントが続き、4位以下にエルネスト・メヒア(2014年・西武)、ブラッド・エルドレッド(2014年・広島)と外国人打者が並ぶ。この中にまだ400打席には達していないが、今季の佐藤を暫定的に組み込むと、なんと歴代3位に相当することになる。2リーグ制以降4000を超える延べ打者の中で、3番目のペースで三振をしているのだ。佐藤の三振の多さはNPBの歴史全体の中で見ても、極端なレベルにあるといえる。

またその極端な欠点は三振だけではない。四球の少なさに関しても同様だ。一般的に佐藤のようにパワーのある打者と対戦する際、投手は四球を出すことが多くなる。ストライクゾーンに投げると、長打のリスクが高いため、ボールゾーンへの投球が多くなるためだ。実際、佐藤に対してストライクゾーン内に投球される割合(Zone%)は39.9%。これは規定打席到達打者52名のうち、4番目に低い。

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にもかかわらず佐藤のBB%(打席あたりの四球割合)は5.0%にとどまっている(リーグ平均は7.7%)。これは今季規定打席に到達している52打者のうち、3番目に低い値である。三振が極めて多く、四球が少ない。これらから見極め能力に大きな課題がある様子がうかがえる。

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選球眼などアプローチのデータをPlate Disciplineページで確認する


1.02ではLeadersページPlayerページにおいて、Plate Disciplineというカテゴリのデータが存在する。Plate Disciplineとは「打席内での自制心」を意味する。投球に対してスイングしたかどうか、スイングした場合投球にバットを当てることができたかとどうかいった種類のデータである。打撃アプローチという言葉で表現されることもある。このデータを見れば佐藤の見極め能力についてより具体的に見えてくるはずだ。

2021年打者Plate Disciplineページ

まずは投球全体に対してどれだけの割合でスイングをするかどうかを表すSwing%だ。佐藤のSwing%を見ると56.3%。これは規定打席到達打者52名のうち最も高い値である。ちなみに2位は牧秀悟(DeNA)。今季セ・リーグの注目新人の2名は、いずれもかなり積極的にスイングを仕掛ける打者であるようだ。

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ただスイング率が高いこと自体に問題ではない。スイング率が高くてもボール球をスイングしていなければ適切なアプローチといえる。ここではスイングするべきではないボール球に限定したスイング率(O-Swing%)を見てみよう。

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ボール球に限定した場合、佐藤のスイング率は42.7%。リーグ平均が29.7%であるため、こちらも平均よりもかなり多く手を出していることがわかる。ボール球スイング率でも規定打席到達の52名のうち最も高い値である。2位のダヤン・ビシエド(中日)が34.4%であることからも、佐藤が現在のNPBにおいて図抜けてボール球をスイングしやすい打者であることがわかるだろう。つまり佐藤はどんな投球に対してもスイングしてしまっている状態なのだ。四球が少ない理由がこのデータから理解できるだろう。

さらにスイングしたうち投球に当たった割合を表すContact%で見ると、こちらでも佐藤の値は極端なものとなっている。佐藤のContact%は59.9%。規定打席到達打者52名のうち、これも最も悪い値である。2番目にContact%が悪いタイラー・オースティン(DeNA)でも67.9%であるため、図抜けてContact%が低い選手と判断することができる。どんな投球であってもスイングしてしまい、そしてスイングしたとしてもなかなかバットに当たらない。これでは四球が少なく、三振を量産してしまうのも仕方ないところだ。

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三振、四球ペースはワースト級。それでも佐藤は優れた打者である


ここまで1.02掲載データを使用して、佐藤の見極め能力を見てきた。三振の多さ、四球の少なさはPlate Disciplineデータを使うことでより具体的に見えてきた。中継を見ているだけではわかりづらい「ほかの選手と比べてどの程度~」といった相対的なレベルについても理解が深まったのではないだろうか。

この記事では佐藤の見極めについて述べたが、ある意味欠点について記述するかたちになってしまった。だがこれは同時に佐藤の長所について記述していることにもなっている。一般的な打者であれば、これほど打撃アプローチが悪いと、優れた打撃成績はおろか、一軍にとどまるレベルの成績すら残せないはずだ。にもかかわらず佐藤は明白に優れた打撃成績を残している。それはバットに当たったときの圧倒的な出力によるものだ。見極めがこれだけ悪いにもかかわらず、これほどの好成績を残せているというところからも、佐藤が歴史的なパワーをもった逸材であることがわかる。もし今後試合を重ねていくにつれこうした欠点についても改善されていけば、真に優れているという意味で歴史的なレベルの打者が誕生するかもしれない。

※データはすべて7月12日時点

今回紹介したデータは過去選手のものを除きすべて1.02Leadersページで閲覧可能です。有料会員に登録すると規定出場未満選手やSplitデータについてもご覧になれるほか、ソート機能などもご利用いただけます。
https://1point02.jp/op/reg/guide_reg_discription.aspx
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