05. 「投手の評価(Fielding Independent Pitching)」
投手を評価する際には、DIPS(Defense Independent Pitching)という概念の理解が鍵となる。
従来、投手は防御率や勝敗で評価されてきた。しかし防御率は、失策による失点は除かれるとはいえ、野手の働きによって左右される数字だ。野手がいい守備を連発すれば投手の働きが同じでも防御率は良くなるし、逆もまた然りといえる。勝敗に至っては守備に加えて味方打線の影響まで受けてしまい、投手の働きそのものをうまく反映した数字ではない。
セイバーメトリクスではもっと切り込んだ形で投手の働きだけを抜き出して評価することを考える。それがDIPS(守備から独立した投手数値)の概念だ。DIPSという用語は現在では守備の影響から切り離して投手を評価する考え方や、そのような考え方に基づく具体的な評価指標の総称として用いられることが多い。
守備から独立して投手を評価する指標として最もポピュラーで基本となるのは、FIP(Fielding Independent Pitching)だ。これは野手の関与しようがない四死球・奪三振・被本塁打だけを用いて投手の防御率を計算する指標で、守備から独立した防御率と考えていい。
FIP=(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数※定数=リーグ全体の[失点率-{13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振}÷投球回]
式を見ればわかるとおり、FIPによって投手のパフォーマンスを評価するということは、端的に言ってしまえば本塁打以外のヒットをどれだけ打たれようとそれは投手の責任ではないものと考えることになる。
この点についてDIPSの考え方が提唱された当初は、安打を打たせないのも投手の能力なはずだという強い批判があった。しかし統計的な分析からは本塁打以外の打球が安打になる割合(この割合のことをBABIPと呼ぶ)が高いか低いかは投手ごとにほとんど一貫性がなく、各投手の能力とは考えられないという結論が導かれている。
もっとも現在では議論はもう少し精緻になっており、投手がBABIPに全く影響がないわけではなく若干はあるとされていて、安打になりやすいライナーを多く打たれた投手はそれに応じて評価が下がるように設計されたtRA(true Run Allowed)といった指標も存在する。tRAはFIPの発展版と評価でき、本サイトに掲載されている総合評価指標WAR(後述)における投手の評価はtRAを用いている。
守備側の数字を分析する場合におけるFIPとBABIPの分離はセイバーメトリクスを理解するうえで要となる部分だ。様々な議論はあるが、基本的には、投手がBABIPに影響できる度合いはわずかであり、FIPによって有効な評価ができると考えられている。