09. 「貢献度の評価と真の能力」
上記に紹介したwOBA・FIP・UZR・WARなどは結果的なパフォーマンスとしての貢献度を評価するものだ。選手の潜在的な能力を推定するものではない。
セイバーメトリクスは、従来使われてきた打点や投手の勝敗を強く批判する。それらの数字は、その成績を残したとされる選手以外の要素に左右される割合が大きく、対象の個人を評価する数字としては適切ではないという考え方からだ。
そこで打者を評価する際にはたまたま走者が多いときに打席が回ってきたかどうかに左右されないように打者が生み出した打席の結果である四球や安打によって評価を行い(wOBA)、投手に関しては味方の打線や守備の影響を受けないように四死球・奪三振・被本塁打によって評価を行う(FIP)。
これに対して「打点や勝敗・防御率は、たしかに能力を表す指標ではないがそれだけの得点・勝敗を生んだという結果は結果であり、それは事実として重要だ」という見解もある。しかし、この点に関しては、結果だから重要というだけでは説明にならず、むしろその結果に基づいてどのように評価を行うかの問題だといえるだろう。打点はたしかに「結果」だが、その選手の働き以外に左右される割合が大きい「結果」であり、安打や四球自体は相対的にはその割合が小さい「結果」だ。個別の選手の働きを評価する際には後者が適切であると考えられている。
こうしてセイバーメトリクスは個々の責任範囲を慎重に判断しなるべく偏りが生じないように評価するということにこだわる。しかしそれは一方で、潜在的な能力を評価するということとは異なる。
例えば本塁打を40本打ったことに関しては、その40本に得点価値を掛け合わせた分の評価が与えられる。その活躍を繰り返すことができる能力があるのかという点は考えず、(他の選手の影響ではなく)その選手の働きとして40本の本塁打が生まれてそれによりチームが利益を得たのであれば、その分を貢献度として評価するということだ。
能力は多くの機会を積み重ねた結果から推定することができるに過ぎないものであり、責任範囲の中で特定の結果がもたらされたことによる貢献度とは異なる。これらの点はややわかりにくい部分だが、指標の数字を解釈するときには忘れてはならないところだ。
重要なのは、指標が単に貢献度を表すのか能力なのかという形式的な区別ではなく、指標の性質を理解した上でそれをどう評価・解釈するかだ。例えば200打席でwOBAが.400だったとして、200打席でそれだけの実績を残したということは事実だが、今後も.400を継続することができる能力を持つ打者だと確信をもって判断することはできない。しかし、その結果から一般的な打者よりも高い能力を持つ打者なのではないかと推定することは可能だ。ではどの程度の能力を見込めるのかというのはwOBAの結果とはまた別の論点であり、推定・解釈の問題となる。
セイバーメトリクスの指標としては直接に能力の推定をする指標は多くないが、能力に迫る典型的な手法としては成績予測がある。成績予測とは、過去数年の実績や年齢を踏まえて将来の成績を予測するものであり、この場合には必然的に能力が推定されることになる。