BABIP
概要
本塁打を除くインプレー打球のうち安打となった割合を表す指標。BABIPの高低は能力による部分が小さく、多くの打席数を経ればBABIPの値はほとんどの選手がリーグ平均値付近におさまること、したがって年度ごとの変動は運の影響が大きいことが明らかになっている。このため極端に高いまたは低いBABIPは翌年以降平均値に回帰していく傾向がある。ただし打者は投手に比べ運の影響が小さく、回帰の傾向はやや弱まる。リーグの平均値は3割前後。
計算式
BABIP=(安打-本塁打)÷(打数-三振-本塁打+犠飛)
投手について計算する場合は、
BABIP=(被安打-被本塁打)÷(打者-与四死球-奪三振-被本塁打)
背景
計算式の分子は本塁打以外の安打を表しており、分母はインプレー打球で決着した打席の数を表している。すなわちBABIPはグラウンド上に飛んだインプレー打球がどれだけの割合でヒットになったかを示す。ファウルの打球はファウルフライとしてアウトになった場合のみ分母に含まれることとなる。犠打を分母に含めて計算するなどいくつかのバリエーションがある。
BABIPはセイバーメトリクスの理解、野球の構造の理解において極めて重要な概念である。その理由はボロス・マクラッケンという研究家の発見により投手にとってBABIPの高低はほとんど運や守備によって決まり、能力によって一貫して低く保つことなどはできないことがわかったからである。従来は実力のある投手は力のある投球によりヒットになりにくい打球を打たせているものと信じられていたためボロス・マクラッケンのこの発見は強い批判にさらされ、すぐには受け入れられなかった。しかし現在では多数の研究によりその正しさが確認されている。ボロス・マクラッケンはこの発見に基づいて、BABIPを切り離して投手を評価するDIPSの理論を構築しており、防御率によって投手を評価する場合とDIPSに基づいて評価する場合とでは結果が大きく異なるためBABIPの理解はセイバーメトリクスにおける投手の評価において欠かせない。
BABIPの高低が選手の能力によって決定されないことは、期間ごとの一貫性の研究に裏付けられている。「ある年の成績と次の年の成績」にどの程度相関関係があるかを分析した研究においては、2002年から2012年のMLBで140回以上を投げた投手について奪三振率0.803、与四球率0.692、被本塁打率0.390という相関係数となっているのに対してBABIPは0.235にとどまる(年度間相関の項目参照)。
すなわちある年BABIPが低かったからといってそれが翌年も続くと見込まれるかというと、その傾向は極めて弱いということである。選手ごとにBABIPの高低が能力によって決まっているのであれば相関係数が高く出るはずであるが、実際に測定した結果相関係数が低いということはBABIPの高低が能力によって決定されていないことを示している。
能力の影響が極めて限られているため、各選手のBABIPは短期的に見るとばらつきがあるものの長い目で見ると3割前後の平均的な水準に落ち着く場合が多い。このため短期的にBABIPが高くて成績が悪い投手は将来的には相対的には成績が改善する可能性が高いし、BABIPの低さによって良い成績をおさめている投手は逆に成績が悪くなっていく可能性が高い。同じことは打者についてもあてはまり、BABIPが極端に高い又は低い場合は将来的には平均的な水準に近付いていく可能性が高い。BABIPのこのような性質から、短期的なBABIPはどれだけ運に恵まれているかを示す指標として用いられる場合がある。もっとも打者については投手よりやや能力が反映される度合いが強く、通算のBABIPが平均的な水準から乖離する選手も存在する(顕著な例がイチローである)。
投手に関してもBABIPの高低の全てが運や守備によって決まるわけではない。ナックルボーラーなど一部の投手のついてはBABIPが低い傾向にあることが指摘されているし、トム・タンゴらは各種の要因がBABIPに与える相対的な影響の度合いを計測した結果「運44%・投手28%・守備17%・球場:11%」の割合で影響があるという結論を得ている。したがって現在のセイバーメトリクスは投手にとってのBABIPが「完全に」運や守備によって決定されるものであるとは考えていない(なお、タンゴらの示した影響度の割合は700のボールインプレーを持つMLBの先発投手を前提として計算されていることに注意が必要である。ボールインプレーの数が増えていけば当然に運の影響は平均化され、他の要素の割合が大きくなる)。
MLBのサンプルサイズの研究では、BABIPの変動に占める能力の割合が運の割合に等しくなるためには打者で820、投手で2000のボールインプレーが必要であるとされている。それより少ない機会数ではBABIPの高低はランダムな要素によって決定される割合の方が大きい。
なお、BABIPを守備について集計した値はグラウンド上に飛んできた打球のうちどれだけをヒットにしてしまったかというチームの守備力を示す指標として使われる場合がある。これは、実際には「ヒットになった割合」ではなく「アウトになった割合」を表すDERとして計算される場合が多いが、両者は同じことを裏返しの表現で示しているだけである。年間を通したチームの守備陣から見ると、さまざまな打者・投手の対戦に遭遇するため投手や打者の要素はかなりの程度平均化されるし、投手や打者個人のBABIPを計算する場合に比べて圧倒的に多くのボールインプレー(約4000)が対象となるため運の要素もそれなりに平均化される。DERが守備の指標として機能するのはこのためである。
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