WPA(Win Probability Added)
概要
ある局面のイニング・点差・走者・アウトカウントに対して平均的にどれくらいの勝率が見込まれるかの数値である勝利確率(勝利期待値)を元に、各選手がどれだけ勝利確率を増減させたかを表す指標。
仮に打席に入った時点のチームの勝利確率が40%で、ヒットを打つことにより勝利確率を42%に高めた場合、打者には0.02ポイントが与えられる。平均的な選手のWPAは±0。セイバーメトリクスにおいて多くの指標はプレーした状況に依存せず成績を中立的に評価するよう設計されているが、WPAはあえてプレーした状況における評価をすることにより同じヒットでも勝敗の分かれ目となる重要な場面のヒットをより高く評価し、試合のダイナミズムを描写する指標となっている。その一方で、数字の高低は選手の能力以外の要素にも影響されることとなる。
背景
勝利確率とは、特定の試合状況(イニング・点差・走者・アウトカウント)において、チームにどれだけ勝利の確率が見込まれるかを数値化したものである。試合開始の時点では両チームにそれぞれ50%の勝利確率が見込まれ、回が進み点差が開くほど優位なチームの勝利確率は100%に近付いていく。
この勝利確率を利用して、その増減をどれだけもたらしたかによって選手を評価するのがWPAである。例えば1回裏同点無死一塁からのツーランホームランは後攻チームの勝利確率を58.3%から73.5%に高める。この場合差分の0.152が打者のWPAに加算される(投手のWPAから減算される)。これに対して同じツーランホームランでも、9回裏1点ビハインド無死一塁からの逆転サヨナラホームランは33.4%の勝利確率を100%に高めるため、WPAの変動は0.666となる(数字はFanGraphsのWPA Inquirerより)。
wOBAやwRAAでは例えばホームランはどのホームランでも一定の加重が与えられるというように同じ種類の事象は全て同じ価値のものとして取り扱われるがWPAでは試合展開に与えた影響によって異なる評価がされることとなる。このようにプレーのインパクトを考慮し、試合を動かす重要な場面での働きを重く評価するのがWPAの特徴である。
勝利確率を増加させたプレーは「+WPA」として集計されていき、逆に勝利確率を減少させたプレーは「-WPA」として集計される。両者の合計(勝利確率の純増分)が最終的なWPAである。基準は平均的な選手であり、WARと異なりリプレイスメント・レベルがゼロではない。
また、WPAは投手でも打者でも適用することができる評価指標だが、投手に関しては守備側の勝利見込みの変動は全て投手の責任として集計されることとなっており、守備から独立した数字にはなっていないことに注意が必要である。
WPAの高さは選手のパフォーマンスと状況とがどのように噛み合ったかという巡りあわせによる部分が大きく、得点期待値に基づく評価と勝利確率に基づく評価との乖離はその選手の能力とは見られていない。ただし結果的にどの選手が勝利の決め手となるプレーをしたかという観点ではWPAはわかりやすくキャッチーな指標であるため、その日のヒーローを選ぶような場面では参考となる。
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