FIP(Fielding Independent Pitching)
概要
守備の関与しない与四球・奪三振・被本塁打という3つの項目から、守備から独立した防御率を評価する指標。本塁打以外の打球が安打になるかどうかは運の要素が大きいとするDIPSの考え方に基づき、投手の成績を独立して評価するために用いられる。トム・タンゴ考案。
計算式
FIP=(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回+定数
※定数=リーグ全体の{失点率-(13×被本塁打+3×(与四球-故意四球+与死球)-2×奪三振)÷投球回} 通常は3前後
※正確には各イベントの係数はシーズンごとに異なる
背景
優秀な投手は被安打が少ないと一般的には考えられているが、本塁打以外のフェア打球がアウトになるか否かに関しては、統計的には投手ごとの一貫性がほとんどない。
ある年奪三振率が高い投手は次の年も高い傾向があるのに対して、フェア打球がアウトになる割合に関してはそういった傾向がほぼ認められない。
これはすなわち、投手ごとに「ヒットを少なくする」能力はほとんど存在せず、被安打の多さは運や守備によるものであることを意味している。
これがボロス・マクラッケンによるDIPSの考え方である。
上記の理論を受けて、守備側の野手が介在する余地がなく投手の責任と考えられる奪三振・与四死球・被本塁打の3項目によって防御率を計算し投手を評価する方法がFIPである。
なお、守備の影響を排除することを目的としてはいるが、FIPの式は抽象的な「真の能力」を推定するものではないし、将来の成績の予測を一義的な目的とするものではない。守備の影響を排除し投手個人の成績に焦点を絞ることによってそれらに近付きはするが、一義的には結果的な実績の中から守備の関与するものとそうでないものをより分け、後者の実績のみを評価することを目的とした実績の評価指標である。
計算式の導出としては、投手の責任範囲を奪三振・与四死球・被本塁打の3項目と定め、LWTSに基づき投球回あたりの失点の多さを評価する式を構築する。
具体的には、MLBの研究を基にするとまずそれぞれの得点価値は
- 奪三振:-0.27
- 与四死球:0.30
- 被本塁打:1.40
だが、これら以外の打席(ボールインプレー)の得点価値は-0.04であり、FIPの構築にあたっては3項目だけから計算する式にするため、各得点価値を「ボールインプレーに対する」得点価値に修正する。
各項目の得点価値から-0.04を引くと以下のようになる。
- 奪三振:-0.23
- 与四死球:0.34
- 被本塁打:1.44
そして9イニングあたりの失点にするため、得点価値を9倍して小数点以下を四捨五入し投球回で割ると「(3×四死球+13×本塁打-2×三振)÷投球回」というFIPの骨格が得られる。
このままでは数字の大きさが通常の防御率と違って感覚を掴みづらいため、リーグ全体の投手成績からこのようにして計算した値と防御率との差を計算し、上記の計算値に定数として加算する。そうすると上記【計算式】の通りの式が得られる。定数の部分は年によっても異なるためその部分は年に応じて調整しながら使うことになる。なお故意四球を計算に含めるかどうかは分析の意図による。
内容としては投手個人の責任範囲を奪三振・与四球・被本塁打に絞り、それらの項目をLWTSで評価するというwOBA等と同じ考え方に基づくものである。
なお、FIPは全ての打球に一律の価値を割り当てるが、そうではなく打球をいくつかの種類に分けてそれぞれに応じた得点価値を割り当てる発展的な指標としてtRAがある。
注意点
FIPはwOBAなどと同様に責任範囲の結果を得点化した指標であり、能力を推定することを目的とした指標ではない。もっとも、能力の推定や将来の成績の予測にも有効に用いることができる。
当サイトのWARにおける投手の評価はFIPではなくtRAによって行っている。米国のデータサイトFanGraphsでは、内野フライを奪三振に含めたうえでFIPにより投手のWARの算出を行っている。
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