1.02 Essence of Baseball

1.02 Fielding Awards 2016 [特集]優秀守備者について考察

左翼手の守備範囲評価

今回の守備評価では、「守備は失点を抑止すること」が最大の目的であると考え、技術的な巧拙について論じるものではないことを事前に明記しておく。分析にあたっては、インプレーをアウトにする際に、各ポジションがどれだけ貢献したかを最重要視した。

レフトの評価に関しては、「守備範囲」「進塁抑止」および「補殺能力」から失点抑止への影響をまとめた。守備範囲の評価はゾーンデータを使用するが、DELTAで使用しているUZRとは異なる方法で評価した。レフトの評価ではゴロを除くエアボールが対象となっている。UZRでは打球の難度を打球種別、滞空時間からA~Cの3段階に分類して評価しているが、今回は滞空時間とレフトの定位置からどれだけ距離が離れていたかをそれぞれ算出し、そのアウト割合で守備範囲を評価している。もちろん、打球が飛ぶ前の守備位置をデータとして取得する形が理想だが、現状では難しいためこのような形をとっている。ただ、「定位置からの距離」という一定の基準を設け評価することで、総合的なゾーンカバー能力(打球判断・走力・捕球技術・ポジショニング)の評価につながると考えている。

図1

滞空時間&距離別アウト

 図1は横軸がレフトの定位置からの距離、縦軸が滞空時間を表しており、レフト方向への打球についてまとめている。滞空時間が2秒以上からレフトの守備力が反映され始める。2秒に満たない打球は、多くは内野の頭を越えるライナーで、レフトが対応できる範囲に届いていない様子がグラフからうかがえる。基本的には、滞空時間が短く捕球までの距離が長い、つまり右下に行くほど難易度が高い打球となる。

表1は滞空時間とレフト定位置からの距離別にアウト割合を見たものになる。定位置から近い(0~10m)ゾーンを除き、3~4秒台の打球をどのように処理するかが、守備範囲を評価する上で大きな影響がある。この基準を用いてレフトの対象者それぞれの打球処理傾向を見ていきたい。

図2 西川 遥輝(日本ハム)

西川 遥輝(日本ハム)

西川は滞空時間の短い打球(基本的に正面近くの強い打球)に対して非常に高い対応力を示している。また、距離のある打球に対してもアウトを獲る割合が高く、レフトの守備者として申し分ない。

図3 中村 晃(ソフトバンク)

中村 晃(ソフトバンク)

2016年UZRの守備範囲評価(RngR)では西川と並ぶ評価の中村は、確実にアウト割合を高めるタイプといえそうだ。西川に比べ、滞空時間の短い打球に関しては劣るが、アウトを獲りやすいゾーンで確実にアウトを計上している。距離が離れた打球に対しても安定している。

図4 T-岡田(オリックス)

T-岡田(オリックス)

オリックスのT-岡田は、西川や中村の陰に隠れてはいるが、レフトとしては安定した守備者といえる。滞空時間の短い打球(正面付近の強い打球)に対してはそれほどでもないが、滞空時間が3秒を超えた打球は、高い割合でアウトを獲っているのがわかる。長い距離でもこの傾向は変わらず、一定のスピードに達すれば、うまくアウトを奪えるタイプなのかもしれない。岡田は西川や中村に比べると身体が大きいが、それが反応、加速に影響を与え、このような結果をもたらしたのではないかと想像してしまう。

図5 栗山 巧(西武)

栗山 巧(西武)

かつてはレフトとしては突出した守備力を誇っていたが、やや衰えを感じさせる内容となっている。滞空時間が短い=近い打球に対して(強い打球である可能性も高い)、対応できていないのが目立つ。ベテランに差しかかり反応速度という点で強い打球への対応力が衰えたとしてもおかしくないだろう。ただ、滞空時間が一定以上になると、その処理能力はまずまずであるようだ。かつての守備力を望むのは難しく、レフトとしては平均的な守備範囲となっている。

図6 角中 勝也(ロッテ)

角中 勝也(ロッテ)

角中は栗山とは対照的な処理を見せている。基本的に短い滞空時間の打球に対して、それなりの処理能力を持つ。半面、定位置から距離のある打球の処理はやや劣り、総合的には平均的な内容となっている。

図7 筒香 嘉智(DeNA)

筒香 嘉智(DeNA)

筒香も基本的に角中の傾向と似ている。ただ、定位置から距離のある打球に対しては、守備力がより限定されるといっていいだろう。角中と筒香はUZRでの評価とやや異なる傾向となっているが、これはポジショニングなどの面で影響があったのかもしれない。

図8 ナニータ(中日)

ナニータ(中日)

ナニータは守備機会がそれほど多くないが、正面付近の強い打球、あるいは距離のある打球に対してもそれほどの特徴はうかがえない。守備面での貢献は限定的といえるだろう。

図9 ギャレット(読売)

ギャレット(読売)

ギャレットは、シーズン途中にファーストからレフトにコンバートされている。サンプル数は限られるが、定位置近くの強い打球に関してはそれなりの処理を見せている。ただ、定位置から離れるに従って処理割合は落ちていく。守備範囲はかなり限定されるタイプと見られ、失点抑止という観点ではチームに負荷を与えてしまう存在といえるだろう。

図10 高山 俊(阪神)

高山 俊(阪神)

新人王となった高山だが、守備面では課題が多そうだ。特に滞空時間の短い打球について弱さが見える。プロ1年目ということもあり、勝手が違った影響もあるだろう。2年目以降にどのくらい打球処理面で改善があるのか、注目したい選手だ。

図11 バレンティン(ヤクルト)

バレンティン(ヤクルト)

最後はバレンティンになる。レフトとしてはアウトを見込めるゾーンでの取りこぼしが非常に多いことがわかる。特に滞空時間の長い打球に関しては致命的なレベルで、それほど守備に大きな期待がかけられないレフトでも、厳しい内容といえる。基礎的な打撃力があるが、このマイナスを取り返し、リーグでも傑出した存在となるには、シーズン本塁打記録を達成したときのようなパフォーマンスが必要になるだろう。

守備範囲では、西川、中村、T-岡田という序列

表2の「±」は、滞空時間と定位置からの距離をベースにして、平均的なレフトに比べどれだけアウトを多く獲った(獲れなかった)かを表している。各選手のグラフで確認した通り、日本ハムの西川やソフトバンクの中村が優れた数字を記録している。守備イニングは限られるが、T-岡田がそれに続いている。角中、栗山、高山、ナニータ、筒香がリーグ平均からやや劣る位置にいて、ギャレット、バレンティンが大きく引き離されているという序列になっている。アウトの増減を失点に変換したのがRngR(守備範囲による失点抑止)で、トップの西川とバレンティンでは35点ほどの差が生まれている。もちろん打撃ほどの差は生まれないが、それなりの影響があるのがわかる。

進塁抑止および補殺の評価を加えた最終評価

ここまで、レフトの守備範囲が失点に与える影響について考えてきた。これに加えて、UZRにおける進塁抑止および補殺評価(ARM)を加え、総合評価とした。表3に示す。

守備範囲で突出した西川が進塁抑止評価でも失点抑止を積み増しトップとなった。かつては二遊間をも守っていた選手だけに、もともと守備能力が高くない選手の多いレフトに入ると、その影響は相対的に大きくなる。

中村も西川に及ばないものの、十分な貢献を果たしている。守備と出塁能力をベースとする攻撃力を備えた、非常に優れたプレーヤーといえるだろう。それ以降も、パ・リーグのT-岡田、角中、栗山が続き、レフトの守備はパ・リーグ上位の形となっている。12球団比較では大きな差がつくが、1つのリーグに限って見た場合、パ・リーグはレフトに求められる守備力が相対的に高くなっており、レフトといえども守備を軽視できない状況が生まれている。守備イニングが500に達する評価対象選手がいなかった楽天などは、レフトの守備で大きなマイナスが生まれている現実がある。

セ・リーグは、筒香がARM評価で守備範囲のマイナスをある程度埋めた。バレンティンも同様に守備範囲のマイナスをARMで補っている。結果的に失点を抑止しているわけであり問題ないのだが、これを来季以降も期待するのは難しいかもしれない。セ・リーグは、パに比べ守備よりも打撃を優先する起用となっており、バレンティンが守備でつくったマイナスも、リーグを限れば相対的に小さくなる。

UZRで評価した場合に比べ高山の守備範囲評価は高まる。2年目の成長が見られれば、パ・リーグにおける西川や中村のような、打撃が優先されるセ・リーグの傾向とは異なるスタイルで、貢献を積む選手になる可能性もありそうだ。

レフト全体ではトップと最下位で34.1点分の差が生じる結果となった。セ・パで傾向が異なることを考慮しても、やや守備力に差のあるポジションといえる。DHを除くと一塁に次いで高い攻撃力を示してきたポジションだが、これだけ守備力で差が生まれる状況を考えると、よほど飛び抜けた打力がない限り、一定の守備力を求めていく必要がありそうだ。それを怠ると、他球団に思わぬ差をつけられるポジションとなってしまう危険がある。

最優秀守備者には、西川遥輝(日本ハム)を選出。
次点は中村晃(ソフトバンク)

6名の採点者のうち、西川を1位にしたのは4名。過半数を占めた1位票で点数を伸ばした西川をレフトの最優秀守備者として選出する。次点は中村、私は5位としたが、多くのアナリストが3位をつけた筒香が第3位となっている。

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