ファーストのバント処理能力評価
今回の守備評価は、「守備は失点を抑止すること」が最大の目的であると考え、技術的な巧拙について論じるものではないことを事前に明記しておく。分析にあたっては、インプレーをアウトにする際に、各ポジションがどれだけ貢献したのかを最重要視した。
ファーストの評価に関しては、「守備範囲」「バント処理」「捕球能力」の3項目で失点抑止への影響をまとめた。これまで、DELTAのUZRでは、バントは守備範囲評価内(RngR)で処理されてきたが、今回はバントを切り出して評価を試みる。バントに関しては走者が一塁(バントで走者を二塁に進めるケースと)と、走者が二塁(バントで走者を三塁に進める)のケースに分類している。
表1は、走者一塁のバント(凡打などの失敗のケースも計上)を守備側から分類したものだ。バント結果をもとに以下の4クラスに分類している。
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- Excellent(併殺)
- Good(凡打・邪飛)
- Regular(犠打)
- Poor(安打・犠打失策・犠打野戦・失策出塁)
最上級の評価の“Excellent”は、バントに対して進塁を許さず2つのアウトを奪った併殺だ。走者一塁のバント全体で2.7%の割合で発生、ファーストが処理したケースでは、併殺の機会は発生していない。走者一塁のバントでは、ファーストが捕球した時点で併殺を狙うのはかなり難しい。
次に良い評価の“Good”は、バントに対して進塁を許さないケースである。バントをうまく処理し二塁で封殺することや、小飛球になったバント打球を捕球し、アウトカウントを増やしたケースを計上している。バント全体では10.7%、ファーストの処理に限ると5.2%の割合で発生している。
そして、アウトを計上し進塁を許す通常のバント、これが“Regular”となる。全体では81.9%で、ファーストに限ると88.4%の割合になっている。
さらに、攻撃側がアウトの献上を前提としたバントながら、守備側が出塁を許した場合を最も悪いケース、“Poor”として分類している。これには、安打だけでなく失策出塁やフィルダースチョイスなどが当てはまる。守備側としては最も避けなければならないケースだが、全体で4.7%、ファーストが処理したケースでは6.5%の割合となっている。
全体および各ポジション別の割合を見ると、ファーストに打球処理をさせるバントは、攻撃側にとって最も進塁が見込めるようだ。ファーストに走者がいることで、基本的にファーストはベースに張り付くことになる。ピッチャーの投球と同時にバント処理体制に移行するが、併殺あるいは二塁で封殺を狙えるような守備位置をとることは難しく、それがよくデータに表れている。
バント処理では、ファースト全体が処理した割合をベースとし、各選手の各処理数と比較することでバントによる失点抑止面の評価につながる。
各選手の走者一塁でのバント処理(表2)を見ると、機会数で大きな差があるのがわかる。ロペス(DeNA)や銀次(楽天)などは機会がかなり限定されている。これはチームによってバント処理におけるファーストの役割が異なるからだろう。
各選手のバント処理(Excellent・Good・Regular・Poor)とファーストの平均処理割合を掛け合わせての比較。さらに、各処理当たりの失点価値を得点期待値から求め、失点抑止に換算した。走者一塁のバント処理は、前述のように封殺を狙うのが厳しく、走者の進塁を許してもアウトカウントを稼ぐ選手の値が良い。
走者一塁からのバント処理では、それほど大きな差がつくわけではないが、バント処理の切り出しで影響力の大きさを把握することの意味はあるだろう。
表3は走者二塁からのバント処理についてまとめている。走者一塁のバントに比べ、バントが失敗するケースが多くなるなど、攻撃側にとってバントのリスクは大きくなる。守備側でもアウトを獲れずに状況を悪くするケース(Poor)が増えている。
走者二塁でのバント処理は、ファーストの役割が異なる。二塁走者の進塁を阻むうえで、ファーストは、守備位置について選択肢が広がり、逆にサードは三塁ベースで捕球する役割に主眼が置かれ、処理を強いられた場合は走者一塁のバントでの、ファーストと同じような傾向となっている。
こちらもファースト全体の割合を使用することで、各選手のバント処理を失点抑止という形で評価することができる。
走者一塁と同じように、機会に対して平均処理割合を掛け合わせ比較した。さらに、各処理当たりの失点価値を得点期待値から求め、失点抑止に換算している。
走者二塁からのバントは、イベントの前後で状況の変化が大きく、失点抑止面でやや大きな影響となっている。特にアウトを獲れない状況に対してのマイナスが非常に大きい。新井貴浩(広島)などは大きなマイナスとなっていた。
走者一塁に比べ、堅実な守備だけでは失点抑止で高評価を得ることが難しく、ある程度の封殺を記録しなければ数字が伸びないのが特徴だろう。
走者一塁および二塁のバント対応の失点抑止評価を合わせ、バント処理の評価とした。全体としては大きな差はつかず、ファーストの守備力を計るうえで、補助的な評価と考えるのが良いだろう。また、1シーズンのサンプルとしては心もとなく、失点抑止の影響ととらえるのは問題ないが、バントの処理能力を表す部分は限定的で、能力部分を評価するにはもう少し長い期間にわたって傾向を追う必要があるだろう。
ファーストの守備範囲評価
守備範囲の評価はゾーンデータを使用するが、DELTAで使用しているUZRとは一部異なる評価方法とした。守備範囲ではバントを除いたインプレーのゴロ打球を対象としている。ゾーン・距離・ハングタイム(滞空時間=ボールがバットに当たってから捕球されるまで、もしくは捕球すべき場所に到達するまでの時間)をベースに、ファーストの対応範囲内の難易度を決定している。
ここまでは基本的にUZRのRngR評価と変わらないが、その難易度をゾーン毎ではなく、0%、1-10%、10-40%、40-60%、60-90%、90-100%の6カテゴリに分類している。これは米国の分析会社であるInside Edge社の守備評価方法に倣ったものになる。
UZRやDRSなどは詳細なゾーン評価の合計になるが、どういった打球に強いのかの詳細を数値から読み解くのは難しい。このような評価は大まかな打球傾向に対して、守備者の守備範囲における傾向を大まかに把握しやすい点で優れている。(もちろん、UZRやDRSであってもより詳細なデータから、詳細な傾向を出すことは可能。これに劣るものではない)
ファーストの選手および全体の、カテゴリ別の処理割合をまとめたのが表6だ。90-100%に分類されるほぼアウトを見込める打球について、堅実にアウトを積み重ねていたのは、ロペス、内川(ソフトバンク)、新井、ビシエド(中日)になる。特にロペスは全48打球をアウトにしており、安定した内容となっている。
ロペス、内川聖一(ソフトバンク)、中田翔(日本ハム)はどのカテゴリでもアウトを獲る割合が高く、守備範囲の広さがうかがえる。ビシエド、メヒア(西武)、新井は高い割合でアウトを見込める打球については安定しているが、難易度の高い打球に対しては一気に処理割合を落とす。守備範囲には限界があるが、手の届く範囲では堅実なタイプといえる。
500イニング以上を守った評価対象者の中では、阿部慎之助(読売)の守備範囲はかなり限定されている。本職ではないとはいえ、故障を疑いたくなるようなレベルにある。2016シーズンの読売はチームとしてのゴロの処理割合が一気に悪化したが、ファーストの守備は大きなマイナスを計上しており、2017シーズンの課題となっている。
各カテゴリのパフォーマンスを失点に換算しなければならないが、各イベントのRun Valueから、カテゴリ別にアウトを獲れなかった場合の値を求めた。
基本的にゴロ打球が対象となっているため、カテゴリ別で大きな差とはなっていない。60-90%、90-100%などアウト割合が高いカテゴリのRun Valueが幾分高くなっている。これは、アウトを見込める打球=定位置付近の打球となり、一塁線に近い打球になるからだ。アウト割合は高いが、この打球をアウトにできなかった場合、定位置(一塁線に近いゾーン)に近いため二塁打などの長打になりやすいのは想像できるかと思う。
各選手のカテゴリ別の成績をファーストの平均と比較し、表6で求めた「アウトを獲れなかった値」と掛け合わせ、失点抑止面の評価としたのが表8になる。
どのカテゴリでも好成績を残したロペス、内川、中田が高評価となっている。ただ、最も差がつくと見込んだ守備範囲であったが、極端に数字で劣っていた阿部を除くと、それほど大きな差はついていない。
ファーストの捕球評価
ファーストの評価に、最後に加えてみたのが捕球能力である。UZRでは打球処理面に焦点を当てる部分が大きいが、特にゴロ処理におけるファーストの捕球能力についての評価項目はない。今回はファーストの捕球能力の位置づけを考えてみたい。
まず、「打球処理者がファーストに的確な送球をした」場合、アウトにおける貢献についてファーストの貢献はほぼ考慮しなくてよいだろう。これは、プロ野球におけるファーストであれば、最低限の捕球能力が備わっており、的確な送球の捕球をミスするレベルの人材は自然と淘汰される(=いない)はずだからだ。
一方、「送球が乱れファーストの捕球次第でアウトの割合が変化する」ようなケースについては、何らかのクレジットをファーストに付与すべきだろう。
UZRの評価では、アウトあるいはセーフになったクレジットはすべて打球処理者に振り分けられる。捕球能力を厳密に評価するなら、打球処理者に全クレジットされていた貢献を、捕球者にシェアする必要がある。もちろん、アウトになった場合だけではなく、送球を捕れずセーフになったケースでのマイナスも、ファーストが受け持つということだ。
ただ、このアウトにおける責任(貢献)の分担には注意が必要だ。基本的にファーストは、打球処理者の送球を受けることしかできず、打者走者が到達する前に送球が来なければ、ボールを捕ろうが捕れなかろうが、それをアウトにすることはできない。
ファーストの捕球能力をクローズアップすべきなのは、「打球処理者がアウトになるタイミングでファーストに送球」し「その送球が乱れた場合」に限られる。必然的にファーストにコントロールできる部分は小さい。これは、盗塁阻止において主体となるのは投手で、捕手がコントロールできる割合が限定的である関係とよく似ている。
「乱れた送球」をショートバウンドした送球としてカウントし、ファーストがそれをうまく処理しアウトにしたケースを集計したのが表9になる。ショートバウンドの送球が記録されたケースでは、6割ほどしかアウトにつながらない。機会数に大きな差があるのは、内野陣の送球スキルの違いが表れている可能性もある。
捕球面ではビシエドや阿部が高い割合で打球処理者(送球者)を助けている。守備範囲で芳しくなかった阿部だが、捕手として培った経験が生かされているのではないかと思うほどだ。守備範囲面で優れていた内川や中田は外野からのコンバート組という共通点があるのも面白い。外国人選手を含め、ファースト(あるいは多く捕球をした経験)としてのキャリアがよく表れる部分なのかもしれない。
トップのビシエドはファースト全体の平均に比べ、およそ5個アウトを増加させた計算で、失点に換算すると3.5点ほど失点を抑えた計算になる。失点を抑える割合としては、バントよりも影響が大きく、守備範囲よりも影響が小さいというレベルだ。
ファーストの総合評価
ここまで、ファーストの「バント処理」「守備範囲」「捕球能力」が失点に与える影響について考えてきた。これまでの三要素に加え、UZRの併殺評価(DPR)を加え、総合評価とした。
トップは守備範囲から捕球、併殺、バント処理などファーストとしてオールラウンドな貢献を果たしたロペスだ。UZRではロペスと遜色ない数字だった中田と内川は、捕球面でのマイナスが響き次点となっている。
捕球面を評価することでビシエドは評価を上げている。ファースト全体ではトップと最下位で17.1点の差が生じる結果となった。内野手としては最も攻撃力を誇るポジションで、守備力で生み出せる利得は、ほかのポジションと同じように限界がある。今回はUZRとは異なる評価体系としたことで、一部選手の評価が変化したことは前向きにとらえるべきだろう。
最優秀守備者には、中田翔(日本ハム)を選出
採点者が1位としたのは中田、ロペス、内川、ゴメスの4選手。その点では比較的ばらつきが出た。高い順位で安定し、ポイントを伸ばした中田を最優秀守備者に選出したい。