全体的な傾向
選考にあたっての考え方は、ショートに関する分析(https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_05.html)を参照。
サードには、10点以上のプラスを記録した選手がおらず、飛び抜けて守備での貢献が大きかった選手はいなかった。これは選手ごとの差が小さい年だったという面もあるのだろうが、ここ数年の傾向から考えると、同じ内野でも処理が可能な打球の量、併殺に関与できる機会などがセカンドやショートに比べ少なく、差をつけることが難しいポジションという性質があり、それが影響しているのかもしれない。
また、今回試みたライナー処理による評価であるが、それほど大きな影響はなかった。ショートでは5点近いプラスを計上した選手もいたが、それと比べても限定的な影響しか見られない。ショートに比べても打者に近く、短時間で反応しなければライナーの捕球が不可能なため、優秀な選手とそうでない選手の差がつきにくかったことが原因かもしれない。
表2は、全サードのゾーン別のライナー打球のアウト割合である。ショートは半数以上の打球をアウトにできたゾーンが4つあったのに対し、サードでは3つ。「確実に捕球できるため差がつきにくい定位置付近のゾーン」と、「短時間では反応できずほとんどの選手が捕球できないため差がつきにくいゾーン」ばかりであったことが、結果が違った理由だと思われる。
個別の選手の守備について
松田宣浩(ソフトバンク)が、7.1点分の得点貢献でトップとなった。ライナーの処理範囲はほぼ平均程度の数字だが、ゴロの処理範囲、失策回避、併殺奪取の各要素でポイントを重ねてトップとなった。これに続くレアード(日本ハム)も松田と同じようにしてポイントを重ねている。両名ともに攻撃面では優秀な成績を残しているが、守備においても平均以上の成績を記録していることは、両チームの大きな強みになっているだろう。
高橋周平(中日)も全体ではプラスとなっている。数字が伸びなかった理由としては守備に就いたイニング数が600イニング程度しかなかったことが大きい。ただし、ゴロの処理範囲で、わずかながら平均を割る結果となっており、守備イニング数の増加が、守備による貢献の増加に繋がるかどうかは不透明である。
今回は順位をつけるためこれらの選手にも序列をつけたが、高橋以下4選手はいずれも平均程度の守備力であり、その守備力にはほとんど差がないと思われる。
大きくマイナスを計上してしまった選手
他のサードに対し、明確に守備力で差があると見られるのが村田修一(読売)である。ただ一人10点を超えるマイナスを計上してしまっている。その最大の要因は、ゴロの処理範囲で10点を超えるマイナスを計上してしまったことだ。今回評価の対象としたサードの中では最年長で、30代後半に入っている唯一の選手であり、身体能力の衰えから守備範囲が狭まっている可能性は否めない。
過去にも、現役晩年にショートからサードにコンバートされた選手に宮本慎也(当時ヤクルト)がいたが、当時の年齢は30代後半から40代に差し掛かっていた。このときもやはり守備範囲が狭まっており、他球団のサードと比べても処理した打球の数で明らかに劣っていたが、ゴールデングラブ賞を獲得していた。守備での得点貢献とのミスマッチが生じていたのは記憶に新しい。
平均的なゴロ打球処理と松田、村田との比較
表3は、全サードの距離2(ほぼ定位置から前の打球)、距離3(定位置からやや後方)のC(三塁線付近)からI(ほぼショートの正面付近)までのゾーン(図1参照)に飛んできたゴロ打球をアウトにした割合である。
全サードの平均からわかるのは、距離2のゴロ打球については、かなり広いゾーンで9割前後のアウトを獲得できているということである。ショートの正面付近のゴロ打球も、サードがカットして処理していることがうかがえる。これに対して、距離3の打球については、定位置付近のD、Eゾーンから左右に離れるにしたがってアウト割合が減っていっている。また、CゾーンとF、Gゾーンでは三遊間寄りのF、Gゾーンの方が急激にアウト割合が下がっていることからすると、全体的なサードの傾向としては、三遊間を抜かれるデメリットを受け入れて、長打になりやすい三塁線寄りを抜かれるのを防ごうとしている様子がある。
表4は同じように松田のアウト割合を整理したものである。松田は距離2の打球については平均とほとんど変わらないアウト割合となっている。一方で距離3の打球では大きな差が出ている。松田は三遊間寄りのF、G、H、Iゾーンで平均よりも高い割合でアウトを獲得できており、ここが他の選手との差となったことがうかがえる。
表5は村田のアウト割合を整理したものである。村田も距離2の打球については平均とほとんど変わらないアウト割合となっている。しかし、距離3の打球では大きな差が出ている。村田は定位置から三遊間寄りのFゾーンからアウト割合が著しく低下し、三遊間の打球処理で大きく差をつけられているほか、三塁線付近のゾーンでも苦戦。他の選手に大きく離される要因となったことがわかる。
図2は、全サードと松田、村田のゾーンごとのゴロ打球の処理状況をまとめたものだ。サードの守備力を分ける大きな要因となりうるのは、「平均より強め」「定位置から左右に離れた打球」に対しての対応であると思われる。打球に対して素早く反応し、捕球位置まで移動できる脚力の重要性をうかがわせるが、そうだとすれば加齢にともなう脚力の低下が、守備力に大きな影響を与えることとも繋がる。
以上のように、サードの評価についてはゴールデングラブ賞とは、特にセ・リーグの結果が大きく異なることとなった。松田とレアードがやや抜けているものの、その差はそれほど大きくなく、この2選手と村田以外はあまり差がなかった。ただし、2016年に1000イニング以上を守った3選手がいずれも30代であり、20代半ばの選手が守備に就くことが比較的少なかったため、若く身体能力の高い選手がサードで長いイニングを守ることになれば、もう少し大きな差が生まれる可能性はありそうだ。
最優秀守備者には、松田宣浩(ソフトバンク)を選出
採点者6名のうち、5名が1位、1名が2位とした松田を最優秀とした。