凡退しても走者は次の塁に進める進塁打の重要性が語られることがある。しかし、結果的に進塁打となっている場合でも、打者は安打を打とうとしていたが結果として進塁打となっている可能性もある。また、進塁打となっていてもアウトカウントが増える以上は得点確率は下がってしまう場面がほとんどだ。それでも進塁打を狙って打つべきなのだろうか。これらの疑問について考えていく。

 

進塁打の発生しやすい状況

 まずはアウトカウント、走者状況別の凡退に占める進塁打の割合を見ていく。ここでいう凡退とは凡打や併殺打、三振など走塁死を除いてアウトカウントが増えた打席結果を指し、失策出塁や野選出塁のように打者走者が出塁した打席結果は含まない。ただし、犠飛は走者が三塁走者以外の走者がフライ捕球後にタッチアップで進塁した場合には凡打とされることとの均衡上、今回の分析では凡退として扱う(犠飛失策は凡退としない)。また、バントを試みた場合は、凡打、犠打、併殺打、三振のいずれの結果となっても対象から外した。

また、進塁打とは凡退のうち、その時点で最も先頭の塁にいた走者が一つ以上進塁し、かつ併殺打とならなかった場合を指す。したがって、無死一二塁から1死一三塁となった場合や1死満塁から三塁走者が生還し、2死一三塁となった場合も進塁打に含むが、無死一三塁から三塁走者がアウトになりその間に一塁走者と打者走者が進塁し1死二三塁となった場合や無死満塁から三塁走者が生還し併殺打で2死三塁となった場合は含まない。

 以上のような定義に基づいて、2020年から2025年のアウトカウント、走者状況別の凡退に占める進塁打の割合を調べた結果は次のとおりとなった。

左打者、右打者ともに走者二塁の状況が最も凡退に占める進塁打の割合が大きくなった。無死二塁では左打者で39.5%、右打者で35.0%と相当な割合となっている。一方でこれが無死一二塁になると左打者で28.3%、右打者では22.8%と10%以上も割合が小さくなっている。走者が詰まっていて二塁や三塁でフォースアウトが成立してしまうことで、二塁に比べると進塁打が出づらくなっていると考えられる。

 また、走者一塁では無死でも1死でも左打者では凡退の10%ほど、右打者では8%ほどしか進塁打となっていない。外野フライでの進塁はほぼ無理で、内野ゴロでも併殺打や一塁走者がアウトにされることが比較的多いことがその原因だろう。野球中継でも「最低限ランナーを進めるバッティングをしてほしかった。」などと言われることがあるが、走者一塁の状況では凡打で走者を進められる確率は、かなり打力の低い打者の出塁率よりも低く、およそ狙ってやるべきこととは言いがたい。なお、これに関連して右方向へのゴロを打つことで進塁打になりやすいと言われることもあるが、先行研究からは右方向へゴロを打ってもさほど結果は変わらないことが示唆される[1]

 さらに、いずれの状況でも右打者よりも左打者の方が進塁打の割合が大きくなっている。これは一二塁や一三塁で併殺打が成立しづらいことも影響しているだろうが、左打者にとっては引っ張り方向になる右方向へのゴロが多いことも影響しているだろう。

 アウトカウントの違いは多くの状況で凡退に占める進塁打の割合に影響がないが、1つだけ例外がある。それが走者二塁の場合だ。

他の状況では無死と1死とでせいぜい数%しか進塁打の割合は変わらないが、走者二塁については無死では37.2%、1死では30.0%と7.2%もの差がある。先行研究でも走者が一塁や二塁にいる場面では、打者のゴロ打球の分布傾向に変化が見られることが明らかとなっており、打者が状況に応じて意識的にアプローチを変えている傾向が見られた[2]。実際にもそうした例が見られることからすると、無死二塁では打者が特に意識して進塁打になりやすいような打撃をしている可能性がある。そこでアウトカウント、走者状況別に打球の種類や方向に変化が見られるか調べていく。

無死二塁から打者は狙って進塁打を打っているのか

アウトカウント、走者状況別に打球が発生した場合の打球の種類の割合を整理した。打球の分類はゴロ、フライ、ライナー、フライナー(フライとライナーの中間の打球)の4つで左打者、右打者に分けて整理した。

 無死三塁の場合にゴロ打球の割合が大きくなっている(ただし、無死三塁は機会自体がかなり少ないため数値がぶれやすい)が、無死二塁の場合に他の状況と比べて打球の種類の割合は大きく変わらない。その他の状況でも、目立った変化はない。

 左打者と比較すると無死三塁の他、無死二塁の場合にゴロの割合が大きくなっている。左打者に比べると右打者はゴロの割合が小さく、フライの割合が大きいため、これらの状況は全体のゴロ割合よりも10%ほど大きくなっており、左打者よりも状況別の変化が大きいことが分かる。

 では、打球方向に変化は見られるだろうか。

 無死二塁の状況では反対方向の打球割合が18.7%と平均よりも8%ほど小さくなっており、その分だけ引っ張り方向の打球割合が42.8%まで大きくなっている。それ以外の場合でも無走者の場合や2死の場合では反対方向の打球が増えて、引っ張り方向の打球が減る傾向があり、無死か1死で走者がいる場合にはその反対の傾向が見られる。左打者は走者がいる場合には引っ張り方向(右方向)の打球が増える傾向があるが、無死二塁の場合はその傾向が顕著だ。

 では、右打者の場合はどうか。

 右打者の場合でも、無死二塁の状況では引っ張り方向の打球割合が27.6%と平均よりも8%ほど小さくなっており、その分だけ反対方向の打球が32.6%まで大きくなっている。それ以外の場合では左打者と異なって走者の有無によって打球方向の傾向がはっきりと異なることはないようだ。

 これらの傾向からすると、左打者では無死二塁の状況でゴロやフライの割合には変化が見られなかったが、引っ張り方向の打球が大きく増え、右打者では無死二塁の状況でゴロの割合が増えるとともに、反対方向の打球が大きく増えており、いずれも右方向の打球が増えていること、同様の傾向1死二塁では見られないことも分かった。

 さらに、打球方向と打球の種類とを合わせて整理した結果も見ていく。まずは左打者だ。

 無死二塁の場合には反対方向の打球割合が減っており、引っ張り方向の打球割合が増えているが、その中でも特にゴロ打球が大きく増えている。打球の種類と方向とを別々に見ただけでは分からなかったが、左打者は無死二塁の場合には引っ張り方向(右方向)のゴロの割合が大きくなっていることが分かった。

 では、右打者ではどうか。

 無死二塁の場合には引っ張り方向の打球割合が減っており、反対方向のゴロが増えているが、むしろ反対方向の打球でもフライは減っている。左打者と比較しても、明確に反対方向(右方向)のゴロの割合だけが増えていることが分かった。

 では、実際に無死二塁の場合に右方向のゴロを打つと、進塁打の割合は増えるのだろうか。

 無死二塁では左打者、右打者いずれも右方向のゴロの場合、凡打となってもほぼ100%が進塁打になっていることが分かる。同じゴロ打球でも真ん中方向や左方向ではここまで高い割合とはなっていない。

 これらの結果からすると、右方向のゴロ打球割合の増加は、無死二塁から走者を三塁に進めることを目的に、打者が意図してそのような打球を打とうとしていることがその原因であることが強く示唆される。

無死二塁から進塁打狙いの打撃をすべきか

 では、無死二塁から進塁打狙いの打撃をすべきだろうか。凡打になっても走者が進塁する、それも1死で三塁に走者がいる状況をつくることは得点確率を上昇させるという点では望ましいことのようにも思われる。

 しかし、ゴロ打球は安打になりにくく、長打になることがほとんどないため、一般的に価値が低く、狙ってゴロを打つ打撃は好ましくないとも考えられる。また、何ら制約がなくいわば打者自身にとって最も自然な打撃をするのではなく、引っ張り方向にしろ反対方向にしろ、特定の方向に打球を飛ばすという制約がかかっている状態では良い結果に繋がりづらくなるということも考えられる。

 そこで無死二塁での進塁打狙いが打撃にどのような影響を与えるかを調べていく。

 まずは無死二塁とそれ以外でのwOBAの差を見てみる。

 左打者では無死二塁のwOBAが.312なのに対してそれ以外の状況でのwOBAは.304となっており無死二塁の方が良い結果となっている。無死二塁の方がwOBAが高い理由としては、走者が二塁にいるという守備側の制約があることから、安打や長打が生まれやすいということが考えられる。

 しかし、それ以上に大きな要因がある。それは無死二塁からヒッティングする打者は打力の高い打者であることが多いという点だ。仮に打力がそれほど高くない打者の場合、無死二塁ではバントをさせられることが相当数ある。必然的に無死二塁からヒッティングをした打者はそれ以外の状況よりも優秀な集団ということになるため、wOBAも高くなる傾向がある。ヒッティングをした打者の平均wOBA(打席数で加重して平均)を無死二塁とそれ以外とで分けて計算した結果は次の通りとなった。

 このようにヒッティングに限定すると左打者、右打者ともに無死二塁の方がそれ以外の状況と比べても優秀な打者が多いことが分かる。そしてこのwOBAと比較すると無死二塁での左打者はほぼ能力と同じくらいの成績を残しているといえる。

 これに対して、右打者では無死二塁のwOBAが.303なのに対してそれ以外の状況でのwOBAは.304とわずかながら無死二塁の方がwOBAが低い。さらにこのときに打席に立っていた打者の平均wOBAは.314。これと比べると10ポイント以上低いwOBAとなっている。左打者と異なり、右打者だけ成績が低下するのはなぜだろう。

 一つ考えられるのは、無死二塁で進塁打を狙うために、左打者は引っ張り方向の打球を増やせばいいのに対して、右打者の場合は一般に引っ張り方向の打球よりも価値が低くなりやすい反対方向の打球を打つことを強いられるという原因だ。

 そこで打球方向と打球の種類ごとにwOBAがどのように変わるか見ていく。

基本的には無死二塁でもそれ以外の状況でも打球方向と打球種別ごとにwOBAが高い打球、低い打球は変わらない。ライナー打球やフライナー打球はどの方向でもwOBAが高く、ゴロ打球は左打者の反対方向がややwOBAが低い以外はいずれの方向でもwOBAが低い。フライ打球については反対方向や中央方向ではwOBAが低いのに対して、引っ張り方向ではwOBAが高くなっている。

 無死二塁の場合、左打者では引っ張り方向のゴロ打球は増えていたが、引っ張り方向のフライ打球やライナー打球も増えていた。これに対して、右打者では反対方向のゴロ打球が増えている一方で、引っ張り方向のフライ打球やライナー打球は減っていた。このことが無死二塁で右打者のwOBAが左打者と異なり、それ以外の状況よりも高くならない理由の一つだろう。

 引っ張り方向のフライ打球、ライナー打球、フライナー打球を合計したPullAir打球の合計を見てもこのことは分かる。

 左打者では無死二塁の方がむしろPullAir打球は増えているのに対して、右打者では無死二塁の方がPullAir打球は減少している。PullAir打球とそれ以外の打球のwOBAは以下のとおりだ。

PullAir打球のwOBAは左打者で.661、右打者では.682なのに対して、それ以外の打球のwOBAはいずれも.300を下回っており、その差は一目瞭然だ。右打者が反対方向のゴロ打球を狙って打つことによるPullAir打球の減少が、無死二塁での右打者のwOBAが高くなりづらい理由の一つになっているといえる。

 もう一つ考えられる理由は、右打者が無死二塁から打つ反対方向のゴロ打球に限定しても、それ以外の状況で打つ反対方向のゴロ打球と比べても価値が低くなっているということだ。表を見比べると、左打者では無死二塁とそれ以外の状況と引っ張り方向の打球のwOBAはそれほど変わらないが、右打者では無死二塁の反対方向へのゴロ打球のwOBAは.174とそれ以外の状況での反対方向へのゴロ打球のwOBA.267を大きく下回っている。反対方向へのゴロ打球を打たなければならないという制約の影響で安打になりやすい打球が減ってしまっていることが考えられる。右打者の反対方向へのゴロ打球は右打者の全打球の5.6%に過ぎない。この割合が無死二塁では2倍以上の13.3%まで大きく上昇している。このような変化からしても、打者にとって最も自然で好結果に繋がりやすい打撃からは離れた打撃を強いられていることが原因とも考えられる。

 このような結果から考えると、価値が高い打球の減少という弊害が生じづらい左打者の進塁打狙いの打撃は大きなデメリットは見当たらないが、価値が高い打球が減少することに繋がる右打者の進塁打狙いの打撃はデメリットが大きい。右打者の場合は進塁打狙いの打撃を行うことは推奨されない。

走者を三塁に進められる可能性を高めることを考慮しても進塁打狙いをすべきでないか

 以上のような結論に対しては、走者を三塁に進められる可能性が高まることを軽視すべきではないという反論もあるだろう。そこで左打者、右打者で進塁打になりやすい打球(左打者は引っ張り方向のゴロ打球、右打者は反対方向のゴロ打球)とPullAir打球とでどちらが得点期待値、得点確率を高められるかを比較していく。

 まずは左打者が引っ張り方向のゴロ打球を打った場合のその後の得点、アウトカウント、走者状況とPullAir打球を打った場合のその後の状況を比較していく。

引っ張り方向のゴロ打球では二塁走者が単打で本塁を狙い走塁死するような例外的な場合(1死一塁)を除けば、全ての場合で走者が三塁か本塁までは進んでいる。他方で76.7%が1死三塁となっており、8割近い割合でアウトカウントは増えている。PullAir打球では1死二塁が29.7%とほぼ3割の割合で走者を進めることに失敗しているが、1死三塁を含めて7割は走者を三塁か本塁まで進めることに成功しており、それほど悪い数字ではない。また、55%以上はアウトカウントを増やさずに走者を進塁させることに成功している。

 右打者の場合は以下のとおりだ。

 右打者の反対方向のゴロ打球では1死二塁となってしまった1.5%を除くほぼ全ての場合で走者を三塁か本塁まで進めることに成功している。PullAir打球の場合は1死二塁の割合が40.1%と左打者と比べても10%以上高く、1死三塁の割合は0.6%とほとんどない。これは左打者のPullAir打球ならば右翼手や中堅手がフライを捕球してもタッチアップでの進塁がそれなりに期待できるのに対し、右打者では左翼手が捕球したフライでタッチアップを試みられる場合がほぼ存在しないことによるものだ。ただ、安打となる割合は左打者以上に高く6割近くはアウトカウントが増えていない。

 このような打席後の状況ごとの得点期待値や得点確率の総和はどうなっているか。2020年から2025年までの試合での結果を使用して算出した打席後の得点期待値、得点確率は次のとおりだ。

打席後の得点期待値はもちろん得点確率においても、左打者の引っ張り方向のゴロ打球、右打者の反対方向のゴロ打球よりもPullAir打球の方が良い結果となっている。右打者の場合は、1死二塁の割合が40.1%と走者を三塁に進めることができない割合が4割を超えているのに、得点確率でもPullAir打球の方が有利となることは意外に思われるかもしれないが、同じく走者が三塁以降にいる状況でも、1死三塁と無死一三塁では後者の方が当然に得点確率は高いし、安打で二塁走者が本塁に生還すればその時点で得点確率は100%だ。走者を三塁に進めることに拘泥し、アウトカウントの違いを軽視することは木を見て森を見ない判断に繋がる。

 もちろん、PullAir打球は価値が高い一方でそう簡単に打つことができないという指摘もあるだろう。右打者のPullAir打球は右打者の全打球の16.3%に過ぎない。このことから、全打席PullAirを狙うことは困難で、状況に応じた進塁打狙いの打撃もときとして必要だという意見もあるだろう。しかし、その理屈で言うならば、右打者の反対方向のゴロ打球は右打者の全打球の5.6%とPullAir打球と比較しても圧倒的に少ない。反対方向のゴロ打球が大きく増加する無死二塁に限定しても、13.3%と16.3%には及ばない。全体的な右打者の傾向からすれば、反対方向のゴロ打球を打つことは、PullAir打球を打つことよりも困難とすらいえる。

 やはり右打者の進塁打狙いの打撃は弊害が大きい。

 

※1道作「進塁打に価値はあるのか」『デルタ・ベースボール・リポート2』(水曜社、2018)79頁

※2市川博久「状況に応じた打撃はどこまで可能か」『デルタ・ベースボール・リポート1』(水曜社、2017)40頁

市川 博久/弁護士@89yodan

DELTAデータアナリストを務める弁護士。学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。『デルタ・ベースボール・リポート7』などリポートシリーズにも寄稿。動画配信サービスDAZNの「野球ラボ」への出演やパシフィックリーグマーケティング株式会社主催の「パ・リーグ×パーソル ベースボール データハッカソン」などへのゲスト出演歴も。球界の法制度に対しても数多くのコラムで意見を発信している。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る