野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“デルタ・フィールディング・アワード2025”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介しながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は右翼手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象右翼手に対するアナリスト6人の採点
右翼手部門は万波中正(日本ハム)が57ポイントを獲得しての受賞となりました。1位票を6人中5人から集め、これで受賞は3年連続です。アナリスト市川博久氏は万波の10点以上プラスを稼いだ守備範囲を高く評価しています。道作氏は「まだ25歳であることからどこまで継続できるのか注目したい」とコメント。右翼手として確固たる地位を築き上げています。
2位は森下翔太(阪神)。すべてのアナリストから3位以上の高評価を受け、1位の万波まで3票差と接近。機械学習を用いたアナリスト宮下博志は、守備範囲(+3.9)は平均やや上程度だが、アームレーティング(+4.9)が突出していると評価しました。
3位は上林誠知(中日)。近年は故障・不調の影響もあり出場機会に恵まれなかったものの、出場機会を回復させた今季は上位につけてみせました。さすがは右翼手部門2017年、2018年のトップです。ただし4位以下とのポイント差は小さく、後述するUZRも1.3と大きなプラスとはいえません。アナリストの評価でも3位票が3人、6位票が3人と評価手法で大きく割れています。打撃面では17本塁打を記録するなど完全復調しましたが、すでに30歳を迎えていることもあり、さすがに20代前半のシーズンと同じとはいかないのかもしれません。
その上林以上に評価が割れたのが4位の長谷川信哉(西武)。アナリスト岡田が2位票を投じた一方で辻捷右氏は8位と評価。評価手法によって異なる見解が生まれる非常に興味深い結果になりました。
各アナリストの評価手法
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策回避)をやや改良。守備範囲については、打球の滞空時間別に細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:UZRをベースにした。球場と左右打者別に処理した飛球の着弾点座標と経過時間からアウト期待値を求め、それを評価の補助材料にした。またタッチアップの評価も活用している。
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策回避の3項目を考慮。ただし守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置付近からの打球方向を6分割し、距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止評価を機械学習によって算出
- 辻:守備範囲、失策、進塁抑止の3項目で評価。守備範囲は、打球の滞空時間とゾーンで分割して分析し、滞空時間の短い打球に対しては重みをつけて評価
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
ここでもトップは万波。守備範囲評価RngRが11.9と他の選手を圧倒しました。一方で進塁抑止評価ARMは-1.8と昨季の8.6から大幅に低下。代名詞である強肩による抑止力が昨季以前ほど発揮されなかったようです。
万波とは対照的に、森下は進塁阻止ARMが5.2と大幅なプラス。昨季-6.2と大きくマイナスだった守備範囲評価RngRも2.6と改善されています。
また全体を見ると各選手でトップの万波でも9.0。ワーストとなってしまった末包昇大(広島)でも-3.2と、ついている差は大きくありません。採点結果はポイント制のためどうしても差がついてしまいますが、実力は比較的拮抗していたのかもしれません。
各選手が具体的にどのような打球を得意・不得意としているのか処理状況を確認していきましょう。以降の図の値は、平均的な右翼手と比較してそのゾーンの打球処理でどれだけ失点を防いだかを示します。黄色い円に「定」と書かれた印は、おおよその定位置を表しています。
右翼手部門受賞の万波は864イニングを守り、守備範囲評価は11.9。平均的な右翼手と比べ守備範囲でチームの失点を11.9点防いだという評価です。詳しく見ると、定位置から右中間方向への打球で多くの失点を防いでいます。また後方よりは前方の打球をやや苦手としているようです。昨季は定位置後方のフェンス際の打球を苦手としていましたが、改善傾向にあります。守備位置を後ろにとっていた可能性もあります。
ただ、昨年8.6と大幅にプラスだった進塁阻止が-1.8に低下。万波の強肩が周知され、警戒した走者が進塁を試みなくなっている影響はありそうです。実際に補殺数は昨季の11から4に減少。進塁抑止ではなく圧倒的な守備範囲がアドバンテージになったという点で、昨季までの受賞とは異なります。
森下は1036.2イニングを守り、守備範囲評価が2.6。詳しく見ると、昨季特に苦手としていた右翼線寄りの打球処理が改善されています。しかしそれでも-3.0と大きく失点を増やしているエリアがあるようです。このあたりをさらに改善できれば最上位も期待できるかもしれません。
蝦名達夫(DeNA)は687.1イニングを守り、守備範囲評価が1.5。詳しく処理傾向を見ると、右中間方向の打球を得意にしているようです。一方で定位置よりも右翼線寄りの打球を苦手とし、大きく失点を増やしてしまいました。DeNAは中堅手のレギュラー・桑原が西武に移籍。外野が手薄になるチームとしては、蝦名のさらなる成長に期待したいところです。
上林は877.1イニングを守り、守備範囲評価が2.6。右翼線寄りの2か所で失点を多く防ぎました。一方で右中間フェンス際の打球でやや失点を増やしてしまう傾向にあるようです。上林は8月のヒーローインタビューにて、「体がボロボロ」と語りました。もしかすると長い距離を走る必要がある打球の処理にその影響が出ていたのかもしれません。それでも平均よりも多くの失点を防いだ守備範囲は評価されるべきでしょう。
長谷川信哉(西武)は870.1イニングを守り、守備範囲評価が0.2。詳しく見ると、フェンス際の深い打球で失点を増やしてしまったようです。一方で右中間前方の打球を得意とし、全体では平均レベルの守備範囲評価になりました。
トレイ・キャベッジ(読売)は505.2イニングを守り、守備範囲評価が1.2。詳しく見ると、右中間寄りの打球処理で多くの失点を防いでいるようです。しかし、定位置周辺と右翼線寄りの打球処理で失点を増やしてしまいました。前方、後方の打球に関しては得意・不得意の傾向はみられません。守備位置が通常の選手より右中間寄りである可能性も考えられます。
山本大斗(ロッテ)は650イニングを守り、守備範囲評価が2.2。明確に得意または苦手とするゾーンはありません。強いて言及するなら定位置から左右に離れた遠い打球で失点を増やしてしまっているようです。ただ全体としては堅実な働きを見せています。
杉本裕太郎(オリックス)は669.1イニングを守り、守備範囲評価が-0.7。2021年から2023年までは右翼、左翼ともにシーズン換算10点レベルのマイナスを生んでいましたが、今季は大幅に改善されています。2022年と比較すると、定位置から右翼線寄りの打球処理が良くなっているようです。
末包昇大(広島)は912.2イニングを守り、守備範囲評価が-1.3。詳しく見ると、後方の打球全般を苦手にしているようです。しかし前方の打球処理では全体的に失点を防ぐことができています。アナリストの辻捷右氏からは、滞空時間の短い打球に対する数値がよいと指摘がありました。ポジショニングがやや前寄りなのか、あるいは前方に最短で入るルート取りに優れた選手なのかもしれません。
総評
トップの万波は3年連続の受賞。3年連続は右翼手部門では最長の記録です。まだ25歳ということもあり、まだまだ守備力が衰える年齢ではありません。右翼手部門はしばらくの間「万波時代」となるのかもしれません。
ただし先述したように今季は進塁抑止貢献が大幅に低下。走者が万波の強肩を警戒し、走らなくなっている様子を見ると、ここで以前のように大きなアドバンテージを得続けるのは難しくなるかもしれません。そうなると今後連続受賞を維持するには、今季のように守備範囲で大きなプラスを作り続ける必要があります。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2025”受賞選手発表