野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“デルタ・フィールディング・アワード2024”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は遊撃手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象遊撃手に対する6人のアナリストの採点

※初出時、アナリスト宮下の採点に記載誤りがございました。読者のみなさまに深くお詫び申し上げます。全体の順位や合計ポイントに変更はございません。
(誤)村林一輝への宮下の採点が6位
(正)村林一輝への宮下の採点が8位

遊撃手部門では矢野雅哉(広島)が受賞者となりました。矢野はアナリスト6人中5人から1位票を集めています。矢野といえば三遊間の深い打球もアウトにしてしまう広い守備範囲が非常に多くのファンの印象に残っているでしょう。各アナリストもこの守備範囲を高く評価したようです。1位票を投じたアナリスト宮下からは「守備範囲だけでなく併殺評価でもトップ。文句なしの総合1位」とのコメントも。

2位はかつて本企画を6年連続で受賞していた源田壮亮(西武)。源田に1位票を投じたアナリスト市川氏は「上位に大きな差がない中、失策回避の差で源田がトップ。とはいえ全盛期に比べると守備範囲は狭くなっている」とコメントしています。また、機械学習による守備評価を用いたアナリスト宮下は源田をまさかの7位に。31歳を迎えてなおトップクラスの守備力を維持しているのは流石ですが、やはり一時期の圧倒的な存在感は失いつつあるようです。

3位以降は 友杉篤輝(ロッテ)門脇誠(読売)と続きます。ここまでの投票結果に大きな差は見られず。上位グループとそれ以外ではっきりと評価が分かれた印象です。アナリスト佐藤氏は「速度の速い打球の処理能力に優れていた」として、友杉に2位票を投じました。門脇は昨季少ないイニングで圧倒的な存在感を見せましたが、今季は若干伸び悩んだでしょうか。

5位は今宮健太(ソフトバンク)。名手として知られる今宮も既に33歳。やはり遊撃として傑出した成績を残すのは厳しくなってきているようです。とはいえ、源田と同様にこの年齢でも平均以上の評価を得ているのは流石の一言。守備範囲を高く評価した宮下氏は今宮に2位票を投じています。

6位以降は水野達稀(日本ハム)村松開人(中日)といった今季のブレイク組が並んでいます。8位は村林一輝(楽天)。村林は昨年2人のアナリストから1位票を獲得しましたが、今季は大きく評価を落としました。

下位グループには木浪聖也(阪神)長岡秀樹(ヤクルト)紅林弘太郎(オリックス)が続きます。昨年、源田の連続受賞をストップさせた長岡はまさかの10位に。アナリスト道作氏はこの結果に驚きつつも「年齢的もまだ若く、弱点も絞られているため改善は可能」とのコメント。この部分については後ほど説明します。

    各アナリストの評価手法(遊撃手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲、併殺完成評価を機械学習によって算出
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

UZRの値でトップとなったのは矢野。1066イニングを守り、同ポジションの平均的な選手に比べ11.5点分の失点を防いだという評価です。昨年受賞者の長岡は対象11名のうちワーストのUZR-9.2。守備範囲評価RngRの大きなマイナスが響く結果となりました。

このように、UZRの評価で最も大きな差がつくのが守備範囲評価です。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。以降、選手ごとに表示される図はどのゾーンの打球処理を得意・不得意としていたかを表したものです。値は平均的な遊撃手と比較してどれだけ失点を防いだかを示します。

矢野雅哉(広島)

矢野の守備範囲評価は7.1。定位置付近ではマイナスとなっている一方、定位置から遠くのゾーンでプラスを稼いでいるのが特徴的です。特に定位置から三遊間側に大きく離れたゾーンF、二遊間側に大きく離れたゾーンOでも大きな失点抑止を記録。派手な守備の印象はデータ面からも裏付けられています。

源田壮亮(西武)

源田の守備範囲評価は4.7。まだまだハイレベルな守備力を維持しているのは流石というところでしょうか。ゾーン別に見ると定位置から二遊間寄りの打球で多くの失点を防いでいます。これは例年どおりの傾向です。一方で、市川氏からはかつて得意としていた三遊間のゾーンで失点を増やしている点が指摘されています。以前に比べると三遊間で追いつけない打球が増えてしまっているようです。

友杉篤輝(ロッテ)

友杉の守備範囲評価は遊撃手トップとなる10.4。この分野だけでいうと矢野を上回るパフォーマンスを見せました。ゾーン別の処理傾向を見ると、定位置あたりにほぼ唯一マイナスがあるものの、三遊間、二遊間問わず、両方向で抜群の打球処理能力を発揮しています。まだ一般的な評価はそれほどまでに高まっていませんが、すでにリーグ最高レベルの名手と言って差し支えない守備力を見せています。

門脇誠(読売)

門脇の守備範囲評価は7.5。ルーキーイヤーの昨季から存在感のある守備を見せていましたが、やはりその能力は本物のようです。ゾーン別に見るとはっきりとした弱点は見当たらず、広範囲で優れた処理能力を見せています。矢野同様、定位置から離れたゾーンで多くの失点を防ぎました。特に三遊間の打球に強かったようです。

水野達稀(日本ハム)

水野の守備範囲評価は3.8。二遊間寄りのゾーンLだけで5.9点分の失点を防いでおり、二遊間の打球処理を得意にしている様子がわかります。一方、定位置から三遊間の打球ではややマイナス。他の遊撃手に比べポジショニングが二遊間寄りにあるのかもしれません。

今宮健太(ソフトバンク)

今宮の守備範囲評価は-1.2とほぼ平均クラス。とはいえ昨季は全体ワーストとなる-10.4を記録しており、33歳という年齢を考えると驚異的な復調と言えます。

二遊間方面、特にゾーンLで驚異的な処理能力を見せています。投手の背後の打球処理は今宮の大きな特徴です。一方、定位置から三遊間のゾーンでは大きく失点を増やしています。そもそもかなり二遊間寄りに位置取っているのか、定位置周辺の打球が外野に抜けるケースもかなり多いようです。今宮というと強肩が売りで、一塁までの遠投でアウトを奪うイメージを持っている人も多いかもしれません。そういった印象とは逆の面白い傾向が出ています。

村松開人(中日)

村松の守備範囲評価は0.1。昨季は二塁手として守備範囲評価9.8を記録しましたが、遊撃では平均クラスの評価に終わっています。定位置から離れたゾーンでは平均以上の処理能力を見せていますが、定位置付近では若干マイナスとなりました。名手揃いの遊撃の中では大きな存在感を見せるレベルには至っていません。

村林一輝(楽天)

村林の守備範囲評価は-5.0。平均を下回る結果に終わりました。ゾーン別の処理傾向を見ると、他の多くの遊撃手が二遊間寄りに強みを見せる中、三遊間のゾーンG、Hで圧倒的な強みを発揮しています。どちらも全体トップとなる数字です。一方でそれ以外のゾーンはすべて平均以下。特に二遊間のゾーンLでは-9.1点と多くの失点を喫してしまいました。センターに抜けるゴロ安打がかなり多かったようです。三遊間寄りにポジショニングをとる傾向が強い選手なのかもしれません。

木浪聖也(阪神)

木浪の守備範囲評価は-4.2。定位置周辺の打球では平均クラスかそれ以上の処理能力を見せていますが、定位置から離れたゾーンでは軒並みマイナスとなっています。特に三遊間方向のゾーンG、Hだけで-3.9点を記録してしまいました。すでに30歳を迎えている選手だけに、他の遊撃手との機動力の違いが出てしまっているのかもしれません。

紅林弘太郎(オリックス)

紅林の守備範囲評価は-9.4。すでに一定の守備評価を得る選手ですが、UZRの評価では平均を下回るシーズンが続いています。

ゾーン別に見た時、平均以上の処理能力を見せたのは二遊間寄りのゾーンKのみ。他のゾーンではすべて平均以下となっています。特に苦手としているのが定位置から三遊間寄りのゾーン。この傾向は昨季にも見られていました。

長岡秀樹(ヤクルト)

長岡の守備範囲評価は-9.4。昨季は優れた守備力を発揮しましたが、今季は一転ワーストクラスの成績に落ち込みました。

ゾーン別の傾向を見ると、明確に二遊間の打球を弱点としています。同じ弱点を持っていた村林以上の弱さです。ただ他のゾーンにおいてはむしろ平均以上の処理能力を見せています。これは昨季も同様の傾向でした。道作氏は「年齢も若く、弱点が絞られているため改善は可能」とコメント。この弱点を改善できれば、ふたたびトップクラスの守備成績を収めるかもしれません。

来季の展望

名手が揃うポジションとあって接戦が予想されましたが、今年は矢野が圧倒的な評価を得る結果となりました。25歳とまだまだ若く、来年も最有力候補に挙がるのではないでしょうか。

ただかつての「源田時代」ほどに矢野だけが飛び抜けている状況ではありません。友杉、門脇、昨季受賞の長岡など、複数の若手がしのぎを削っているほか、名手・源田、今宮も未だ健在。「ポスト源田時代」はしばらく複数の有力選手がトップを争う様子が続きそうです。



データ視点で選ぶ守備のベストナイン “デルタ・フィールディング・アワード2024”受賞選手発表
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