02. 「セイバーメトリクスの意義」
セイバーメトリクスとは野球についての客観的・統計的な研究のことだ。その目的は野球を新たな視点で捉え直して新しい知見を得ること、野球というゲームの構造を解明することにある。具体的にはバントや盗塁といった戦術が本当に有効なものかどうか、あるいはどのような選手がチームの勝利に貢献している選手なのか、といった事柄がセイバーメトリクスの主な研究対象となっている。
セイバーメトリクスの有用性が際立つのは、統計データを使いつつプレーの仕組みを整理し直すことによって戦術の有効性や選手の貢献度の評価を新しい角度から行えるようになる場面だ。
例えば9回裏に先頭打者が出塁すると解説者が「ここは確実にバントを決めることが大切」と言ったりする。あるいは、打率が高い打者は首位打者として表彰される。しかし野球というものについて改めて考えたとき、それらはそもそも、どのような意味があるのだろうか。
当たり前のことのようだが、野球の試合の目的は相手より多くの得点を上げて勝つことであって、バントで確実に走者を進めることや、高い打率を残すことではない。攻撃に関して言えば3アウトを消費するまでになるべく多くの得点を上げることが重要なのであり、進塁の代わりにアウトを計上するバントの有効性は慎重に検討しなければならないし、打率だけでなく長打がどれだけ多いかや四球の多さも得点にとっては重要な要素として考慮しなければならない。
セイバーメトリクスではそうして「アウトを消費する間に奪う得点を最大化する」という野球の仕組みから問題を捉え直して、統計データを使いつつ検討を行っていく。その結果、バントが従来考えられていたほど有効な戦術ではないという結論や、打率よりも長打と四球を考慮するwOBAのほうが選手の得点への影響度をより的確に表すという知見が導かれる。バントを重視しても勝利の見込みが高まるとは限らないし、首位打者というのは何らかの価値判断に基づいて打数のうちに占める安打の割合が高い打者を表彰しているだけであって、必ずしも最も得点に貢献した打者ではない。
このように野球の目的や仕組みを根本から捉え直して適切な評価を考えるのがセイバーメトリクスの基本的な思考様式だ。その際、単なる経験則として「バントをすると得点をとれることが多い」とか「打率が高いチームほど得点が多いはずだ」とするのではなく、経験や常識は一旦おいて、客観的なデータによってそれらの知見を検証・証明するのがセイバーメトリクスの特徴だ。例えば、打率とwOBAのどちらがより得点との結びつきが強いかは、得点との相関関係を示すことによって具体的に把握することができる。
本サイトが提供している指標も多くはこのように従来の評価指標への批判を土台として作り上げられてきたものだ。