勝利期待値(勝利確率)
概要
特定の試合状況(イニング・点差・走者・アウトカウント)において、チームにどれだけ勝利の確率が見込まれるかを数値化したもの。試合開始の時点では両チームにそれぞれ50%の勝利確率が見込まれ、回が進み点差が開くほど優位なチームの勝利確率は100%に近付いていく。
試合における勝利期待値の推移は観戦の際の目安として活用されるほか、選手がもたらした勝利期待値の増減は活躍度合いを把握するのに有効であるためWPAという指標として利用される。また勝利期待値の原理自体はより一般的に、打者の勝負強さに関する研究や救援投手の貢献度を評価する手法に役立てられている。
背景
得点期待値はイニング・点差を考慮に入れないものであるため、初回の本塁打も9回裏の逆転本塁打も同じように扱われる。これに対して勝利期待値では、イニング・点差を踏まえた上でその試合の勝利の見込みがどれだけあるかを測定するため、重要な局面での活躍を数値として描写し測定することができる。
例えば1回裏同点無死一塁からのツーランホームランは後攻チームの勝率を58.3%から73.5%に高める。この本塁打の勝利期待値で測った価値は差分の0.152である。これに対して同じツーランホームランでも、9回裏1点ビハインド無死一塁からの逆転サヨナラホームランは33.4%の勝率を100%に高めるため、0.666の価値がある(数字はThe Hardball TimesのWPA Inquirerより、平均得点4.5の設定のもの)。このように試合展開に応じてチームの勝利の見込みを捉え、その変動でプレーのインパクトを評価することができるのが勝利期待値の特徴である。
その時点のチームの勝利の見込みやプレーが勝利に与えたインパクトが定量的に可視化されるのは面白く誰の目にもわかりやすいツールであるため、1回から9回までの勝利確率の推移を表したグラフなどは観戦のお供としても利用される。
勝利期待値は歴史的には「勝負強さ」に関する研究と親和性が高い。打席に入った状況を考慮しない評価と同じ働きでも重要な場面での活躍が高く評価される勝利期待値による評価とを対比されることによって、ここぞという場面で継続的に高いパフォーマンスを発揮する選手がいるのかどうかを分析することができるのである。勝利期待値に基づく評価が継続的に高い打者がいればその打者は勝負強いと考えることができるが、多くの研究により、このような傾向はほとんど見出せないとされている(平たく言えば、セイバーメトリクスでは「勝負強さ」という能力はほぼ存在しないと考えられている)。
また、救援投手の評価においても勝利期待値の原理は重要な要素となっている。初回と終盤では同じ1点を防ぐのでも勝利に対する重みが異なるが、救援投手にとっては重要な場面で失点を防ぐということこそがその役割となる。このため勝利期待値に基づいて「局面の重要度」を示すLeverage Indexという指標が存在し、救援投手が防いだ失点にこのLeverage Indexを加味することによってより的確に救援投手を評価することができる。
注意点
一般的に、勝利期待値は平均的な戦力を仮定した場合のものである。実際にはチームの戦力差により具体的な試合状況における勝利の見込みは数値と異なる場合がある。
勝利期待値を計算する方法は、過去のデータによる方法と、数理的な計算による方法がある。過去のデータによる方法は実際にあるイニング・点差・アウト・走者状況からどれだけ勝利があったかを集計して期待値を得る。この場合、出現しにくい状況に関してはサンプルサイズが足りず適切な期待値が導かれないおそれがある。これに対して数理的な計算による方法は、打者が出塁する確率・出塁した場合に走者が進塁する確率など仮定を与えて数学的に各状況の勝利期待値を計算する方法である。この場合サンプルサイズの問題は生じないが、与える仮定によって計算結果が変わり得る。