守備から独立した投手評価(DIPS)
概要
守備の影響から独立した投手の成績、あるいはその考え方や算出方法をDIPS(Defense Independent Pitching Stats)と呼ぶ。分析家のボロス・マクラッケンが「グラウンド上に飛んだ打球がアウトになるかどうかは投手ごとに安定しておらず運の影響が大きい」という発見に基づいて提唱した。基本的には、守備の関与する被安打を平準化する形で投手の成績を補正して算出する。DIPSにはその考え方に基づいた派生的な計算式が数多く存在し、一般によく利用されるのはトム・タンゴによるFIPやグラハム・マクリーによるtERA(tRA)である。
背景
ボロス・マクラッケンは、奪三振・四球・被本塁打に関しては同じ投手であれば年をまたいでも一貫した傾向があるのに対して、本塁打を除く被安打に関しては極めてばらつきが大きいことを発見した。この発見に基づき、本塁打以外の被安打の多さは運であるとして無視し、奪三振・四球・被本塁打のみによって投手を評価するDIPSを提唱した。
投手にとって被安打の多さがただの運であるとするボロス・マクラッケンの主張は、ヒットを打たれるのは投手の責任であり力のある投手は本塁打以外のヒットも打たれにくいという従来の感覚・常識に反していたため激しく批判された。しかし現在では原則として正しい理論であるとして受け入れられている。
ボロス・マクラッケンの理論に対してはいくつかの指摘もある。例えばトム・ティペットはマクラッケンの主張を批判的に検討した結果、ナックルボーラーなど一部の投手のついてはBABIP(本塁打以外の打球が安打になった割合)が低い傾向にあることを指摘した。トム・タンゴらは各種の要因がBABIPに与える相対的な影響の度合いを計測した結果「運44%・投手28%・守備17%・球場:11%」の割合で影響があるという結論を得ている。従って現在のセイバーメトリクスは投手にとってのBABIPが「完全に」運や守備によって決定されるものであるとは考えていない。
いずれにせよ重要なことは、投手は従来考えられていたほどBABIPを支配できるわけではなく、むしろ投手以外の要因が大きいこと、そしてそのことを踏まえなければ適切な投手の評価や未来の予測は行えないということである。この意味でDIPSの理論はセイバーメトリクスにおいて極めて重要なものである。
関連リンク
Introduction 05. 「投手の評価(Fielding Independent Pitching)」