UZR(Ultimate Zone Rating)
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概要
UZR(Ultimate Zone Rating)とは同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な野手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだかを表す守備の評価指標である。その守備位置の平均的な守備者のUZRはゼロとなり、優秀な守備者は+10や+20といった数値になる。
打球の処理により奪ったアウトの実績を得点(防いだ失点)に換算して守備における野手の貢献を評価するのがUZRの基本的な考え方である。ただし守備位置周辺にどれだけ打球が飛んでくるかは偶然に大きく左右されるため、単に奪ったアウトを数えるだけでは適切な守備の評価にならない。打撃の評価で打席数を揃えて比較するように、守備についても機会を揃えて比較を行う必要がある。
そこでUZRの計算では打球ひとつひとつについてグラウンド上のどこのゾーンに飛んだどのような打球かを記録する作業が行われる(ゴロ・フライ・ライナー等の種類、捕球位置までの到達時間など)。これに基づいて、打球の類型ごとに平均的にどれだけアウトの見込みがあるかが計算され、守備者はそのような「平均的な見込み」との対比で評価される。これによりたまたま飛んできた打球が多かった守備者が高く評価されることを防ぎ、公平な比較を可能としている。
打球処理の評価に加え、内野手であれば併殺処理の評価、外野手であれば送球による刺殺や走者の進塁を抑止した評価などが組み入れられ最終的なUZRの値となる。またUZRは出場イニングが多いほど数字(絶対値)が大きくなるため、出場イニング数が異なる選手同士を比較するには1000イニングあたりの数字に換算したUZR1000や1200イニングあたりの数字に換算したUZR1200が有用である。
- RngR(range runs)
- 打球処理による貢献
- ErrR(error runs)
- 失策抑止による貢献
- DPR(double-play runs)
- 内野手の併殺完成による貢献
- ARM(arm ratings)
- 外野手の送球による貢献
- UZR
- 上記の合計
なお、本サイトにおいて総合評価指標のWARの守備評価はUZRによっている。また類似する指標のDRSとは、細かい計算方法に相違がありつつも基本的な考え方や目的は同じであるという関係にある。
背景
UZRはZR(Zone Rating)の発展版として開発された指標である。米国のデータ会社STATSによって提唱され、セイバーメトリクス研究者のミッチェル・リクトマンが具体的な算出を展開している。
ZRは守備位置の周辺に一定の責任範囲を決めて、そこに飛んできた打球のうちどれだけをアウトにしたかで守備者を評価する指標である。例えば周辺に飛んできた打球のうち70%をアウトにする遊撃手と80%をアウトにする遊撃手とでは、後者のほうが優秀な働きをしたと評価することができる。
ZRはわかりやすい上に有効な指標だが、一定の範囲に含まれる打球を全て同じように扱うところに問題がある。定位置付近に飛んできた打球といっても、定位置から2歩のところに緩く飛んできたゴロと5歩離れたところに鋭く飛んできたゴロとでは難易度が異なる。ZRそのままで評価すると、たまたま簡単な打球が多かった選手が有利になってしまう。こういった問題に対処しより詳細な評価を行うのがUZRである。UZRは全ての打球を均一に扱うのではなく、打球を種類・位置・速度で細分化して守備のプレーひとつひとつを評価する。
UZRの計算ではまずグラウンドを多数の「ゾーン」に分割し、試合の映像を元にそれぞれのゾーンにどれだけどんな打球が飛んだかを集計する。例えばFの方向に距離6だけ飛んだ速度の速いフライ、といったように打球の種類、位置、速度ごとに細かく分類されていく。
そこから各ゾーンにおけるプレーの価値を計算する材料は、その打球が「平均的にどれだけアウトになるか」と「どれだけ得点価値を持っているか」である。例えば三遊間に飛んだある種類のゴロは、リーグ全体のデータを見ると50%の割合で遊撃手に、10%の割合で三塁手によってアウトにされるとする。そうするとこの打球は通常60%の割合でいずれかの守備者によってアウトにされることになる。このとき遊撃手がアウトを成立させたなら、60%(アウトの期待値では0.6)だった確率を100%(アウト数1)にしたということで差分の0.4アウトをプラス評価として遊撃手に与える。この打球の価値が0.72点であれば、0.72点の価値があるアウトを0.4個稼いだのだから、遊撃手は得点の意味では0.72と0.4の積である0.288点だけこのプレーによって失点を防いだことになる。これがUZRによる当該プレーに対するプラス評価である。
ここで、元々三塁手にも10%はアウトを成立させる見込みがあったが、遊撃手がアウトを成立させたからといって三塁手がマイナス評価を受けるわけではないことに注意が必要である。これは「打球の奪い合い」による評価の歪みを少なくするための計算上の工夫で、近くを守る守備者の能力によって各人の評価が左右されないようになっている。外野への緩いフライなどを考えてもこの方式は重要である。
一方この三遊間への打球がヒットになってしまった場合、遊撃手と三塁手の両方にマイナス評価が与えられる。まずチームとして見ればこの打球で通常0.6アウトを獲得できるはずだったのだからアウトを奪えなければ0.6アウトの損失となる。そして、50%が遊撃手に期待されることから0.6アウトの損失の83%(50%÷60%)は遊撃手の責任、残りの17%(10%÷60%)は三塁手の責任になる。
遊撃手はアウト数では0.6に0.83を乗じた0.5のマイナスであり、これに得点価値0.72を掛け合わせた0.36が得点の単位でのマイナス評価になる。三塁手も同じように、チームとした失った0.6アウトの17%を責任として被り、0.072点のマイナス評価となる。これがUZRのマイナス評価である。
このような方式で、UZRは打球の分類ごとにアウトの見込みと得点の価値を算出しそれに基づいて選手の各守備プレーを評価する。一般的にどれだけアウトが見込まれるかという平均的な水準を比較対象とするため、選手ごとにプラス評価・マイナス評価を集計したUZRの値は「同じ守備機会を同じ守備位置の平均的な選手が守る場合に比べてどれだけ失点を防いだか」という意味の数字になる。
上記の通り計算の過程はやや複雑になるが、突き詰めれば単にアウトを奪った実績を評価する指標であり、その基本的な発想はより単純な指標であるRFなどと変わらない。選手ごとに機会の不平等が生じるのを避けるために打球ごとに細かく「平均的なアウトの見込み」を割り当てて評価しているに過ぎず、複雑なのはその計算を実現する技術的な過程である。
なお、UZRは内野手を評価する際にはゴロの打球のみを対象としている。内野フライはほとんど100%アウトになるものであり、たまたま誰のところに飛んできたかによって評価が歪む結果になるだけと判断されるためである。他方、外野手ではフライとライナーが対象になる。投手と捕手は、打球処理による評価が難しいためUZRによる評価は行われない。
打球処理以外の部分としては、内野手は併殺処理の評価が行われている。外野手に関しては送球による刺殺のほか肩の強さによる「進塁抑止」効果の評価も組み込まれている。
計算のより詳細な過程については「守備評価に対する基礎的な考え方」を参照。
注意点
・UZRはあくまでも同じ守備位置の中での比較である。したがって遊撃手の+5と右翼手の+10を比較して後者の方が守備力の優れた野手だと論じることはできない。
・守備の指標は打撃の指標に比べて能力を推定するにはより大きなサンプルサイズが必要である。ある年のUZRが高かったからといって翌年も高い保証はなく、能力を推定するには最低限3年程度のサンプルは必要だとされる。
・現状当サイトに掲載しているUZRは、米国で算出されているUZRと完全に同じ計算方法で算出されているわけではない。
DRSとの違い
UZRとほぼ同じコンセプトに基づく守備指標として、米国のデータ会社BIS社によるDRS(Defensive Runs Saved)がある。米国で算出されているUZR・DRSを前提とすると、UZRとDRSは、UZRは打球のデータを複数年(6年)で集計しているのに対してDRSは対象となる1年で集計している、DRSの方がより細かいゾーンの区分を採用している、パークファクターの適用方法やその他取り入れる細かな要素に差がある、といった違いがある。ただし基本的な目的や考え方は共通しており、どちらが優れているといった関係ではないものと考えられている。現状、FanGraphsに掲載されているWARはUZRを守備評価として採用されており、Baseball-ReferenceのWARはDRSを採用している。
参考サイト
Background to UZR, Part. 1
Background to UZR, Part. 2
Similarities and Differences: UZR and Dewan +/-
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