5/31からセ・パ交流戦が始まり、プロ野球の楽しみがまた一つ増えました。両リーグの気になる対戦成績は、6/5終了時点でパ・リーグの18勝17敗1分とほぼ互角。交流戦が始まって以来、1度しか勝ち越していないセ・リーグが今回こそ雪辱を晴らすかにも注目が集まります。


各球団の戦いは「交流戦もペナントレースのうち」という考えに変化はありません。期間中勝率最高球団への賞金などはありますが、そのために先発ローテーションを絞り込み、若手の育成を控えるような戦い方をしてしまうと、その後の公式戦に悪い影響を及ぼしかねません。各球団の指揮官が重要視しているのは、シーズン通しての星勘定とリーグ内のゲーム差でしょう。


従って、交流戦に限定した視点は極力控え、この2週間で起きた各球団の様子を確認してみましょう。





<セ、パ両リーグの順位おさらい>



pict

pict

pict

pict



<セ・リーグ>

セ・リーグは、DeNAの躍進によりペナント争いがますます熾烈なものになって来ました。ただ、投手陣に大きな問題を抱えるヤクルトがやや脱落傾向。この2週間で3失点以内に抑えた試合は無く、先発が勝ち星を挙げたのは5/31の日本ハム戦に登板したデイビーズ投手のみでした。チーム全体のK%リーグ最下位の15.1)本塁打を浴びやすい(HR/FB同最下位の11.4)のが苦戦の要因となっています。山田哲人選手を筆頭に打線は相変わらず好調、リリーフの要となるオンドルセク投手は登板過多も無く順調なため、試合を作る先発投手と中継ぎ役の奮起が待たれるところです。


リーグトップの座は、6/4の1日間を除き広島がキープしましたが、5/26の巨人戦に勝った後は貯金が伸びず。リーグ全体でも、貯金7以上を作った日数は広島と巨人(4/28)のそれぞれ1日のみ。混戦のセ・リーグらしいデータといえますが、戦力をフルに活用している球団もあれば、故障者待ちの状態で今後の伸びしろが期待出来る球団もあります。広島は、岡田明丈投手や中村恭平投手らを辛抱強く起用しながら、ある程度の負けを計算しながら戦っているのが強み。巨人は、右肩痛で離脱していたマイコラス投手が6/5のイースタン公式戦で実戦登板し、今後のプラスになりそうです。


一つ気になる点は、ブルペン陣の整備に苦心している球団がコマ不足を理由にマウンドに送り出す投手を絞り込んでしまう点です。1試合1イニングを限定としても、連続しての登板は3日までが限界としているのが最近のプロ野球。巨人は、5/31のオリックス戦から6/3の日本ハム戦にかけて澤村拓一投手、マシソン投手を4日連続して起用し、6/4の日本ハム戦でも1点リードのまま終盤に突入。本来ならマシソン投手の出番でしたが、高橋由伸監督がマウンドに送り出したのは今季初登板、1軍では2015年3月以来のマウンドとなった西村健太朗投手でした。


この起用に応えようとした西村投手でしたが、死球や内野安打などで無死満塁と絶体絶命のピンチ。しかし、ここから持ち前の速球が効果を現し、無失点のまま9回は山口鉄也投手にバトンタッチ。巨人は守護神とセットアッパーを温存したまま6連勝を飾りましたが、首脳陣としてもギリギリの運用でした。





<パ・リーグ>

パ・リーグは、交流戦直前の一週間でソフトバンクが猛チャージを掛け、首位攻防戦となったロッテ戦に3連勝。この時点でゲーム差は6.0に広がりました。交流戦に入ってから勢いを増した球団はまだ見当たりませんが、ロッテはDeNAとの3連戦にも全敗。6/5現在、パ・リーグで交流戦を唯一負け越している球団です。ロッテはこの2週間、打線がやや低調になりDeNAとの3連戦では指名打者が使えないため、4番のデスパイネをベンチに置かなければならない苦しい状況。投手では、開幕からローテーションを守って来たスタンリッジ投手がファーム降格、抑えの西野勇士投手も救援失敗が2度と、中心選手の足並みが乱れかけています。


5月中旬までは苦しい戦いが続き、一時はリーグ最下位にも転落した西武でしたが、ここに来てようやくチームの歯車が噛み合ってきました。交流戦2日目となった6/1のDeNA戦に先発した菊池雄星投手は、今シーズン2度目の二ケタ奪三振を記録し自身3連勝。その翌日は、プロ2年目の高橋光成投手も自身初の二ケタ奪三振、シーズン2度目の完投勝利を飾り、開幕から不安定だった先発陣を見事に立て直しました。さらに、右内転筋痛によりチームを離れていた岸孝之投手も、6/1のイースタン公式戦で実戦登板を果たし、交流戦にはギリギリ間に合うとの期待もあるようです。


今週の交流戦は、6試合全てパ・リーグの本拠地で行われる予定です。指名打者採用ゲームのため、セ・リーグ各球団は得点力アップに繋がるラインナップを組めるかどうか、パ・リーグ各球団はリーグ勝ち越しのために、ここでアドバンテージを築きたいところでしょう。




<各球団の戦力値>



pict

セ・リーグは、チーム戦力値にも大きな動きが出てきたようです。開幕2試合目から常に得失点差プラスを維持してきた阪神が、5/31の楽天戦に1-9で敗れとうとうマイナスに入ってしまいました。失点の方は5月以降あまり変化が見られませんが、得点は右肩下がりで、金本知憲監督が掲げてきた「超変革」のテーマも一つのピークを過ぎた感がします。反対に、DeNAは5/27の広島戦に6-1で勝ち、開幕戦以来となる得失点差プラスを記録。その後、交流戦に入ってからマイナスに戻ってしまいましたが、6/5のロッテ戦に11-0で大勝したことで現在の得失点差は+7となっています。


ヤクルトが課題としている投手陣のFIPは、守備の関与しない与四球・奪三振・被本塁打という3つの項目から成り立っている指標ですが、この中で特に問題なのが被本塁打です。仮に、一発の被害が両リーグ平均値に落ち着くと仮定したxFIPでは、ヤクルト投手陣の数値は4.51といくらか改善され、チーム平均得点(4.48)とほぼ同等になります。被本塁打の影響は、球場特性に大きく左右されると思われがちですが、12球団の中で最も狭いとされる横浜スタジアムを本拠地としたDeNAは、FIP3.56で両リーグトップの数字。平均失点もセ・リーグでトップと健闘しています。


なお、FIPからxFIPを引いた数字を出してみると、被本塁打による影響の大きな球団と小さな球団との差がはっきりと見えて来ます。球場特性による不利な条件を跳ね返すことは、決して不可能ではありません。


pict


pict

パ・リーグは、ロッテの守備力がかなり落ちてきています。チームUZRは、このレビュー開始当初から9.7→3.4→-7.1→-17.0と右肩下がりで、特に外野手の肩(Arm)と守備範囲(RngR)で大きく後退しています。原因とみられるのは、開幕からセンターを任されていた岡田幸文選手が控えに下がり、4/23から1軍に合流したナバーロ選手の守備範囲も弱点となっています。また、ライトを守る清田育宏選手の肩もマイナスポイントになっており、打撃重視のオーダーが響いている格好です。


Bクラス3球団の中では、西武に上位進出の芽が出てきました。こちらは、浅村栄斗選手の復調と鬼崎裕司選手をショートに固定したことで内野が引き締まり、ひところの失策による影響が薄れたためと思われます。一方で、交流戦から1軍に昇格した森友哉選手は、指名打者のある試合でもライトの守備に就いていますが、守備範囲と肩ともに良い数字とはなっておらず、打撃面での大きなプラスが無いと厳しい起用になるかもしれません。


今後、ソフトバンクを追いかけるのは日本ハムが最も有望でしょう。チーム54本塁打はリーグトップ、守備面でも他の4球団を大きく引き離し、開幕から勝ち星に恵まれなかった大谷翔平投手がようやく調子を上げて来ました。一つ弱点を挙げるなら、オーダーが毎試合固定され、万一レギュラーにアクシデントがあった際リカバー出来るかどうか。中でも、ショートでフルイニング出場を続けている中島卓也選手に代わる選手が見当たらないのは、チームの課題でしょう。





<5月までの起用年齢まとめ>



先月5月28日に㈱水曜社より「 プロ野球を統計学と客観分析で考えるセイバーメトリクス・リポート5 」が発行されました。この中で、筆者は「起用年齢から見たプロ野球育成とポジション争いの構図」のコラムで、各球団のスタメン平均年齢を算出しました。起用に拘ったのは、監督や球団がどの選手をレギュラーとして使うか方針を見据えるためで、今後のチーム運営に大きな影響を及ぼすだろうと感じたからです。


詳しくは本書をご覧いただくとして、今季も既に2ヶ月以上が経ち球団ごとに特色が出る頃です。従って、5月終了時点での野手に限定し、今季の起用年齢についても同じような調査を行いました。解説は球団単位で行っています。




2016/5/31までのスタメン起用年齢

pict


<ソフトバンク>

1軍は+0.7歳、2軍は-0.3歳という結果です。1年前と全く同じ選手を起用するだけで1歳分上昇するので、1軍は昨季とほぼ同じメンバーで戦っていることが見えて来ます。外国人選手の年齢は考慮していないので、李大浩選手(現MLBマリナーズ)が抜けたDHの穴を国内選手で埋めた分は29.2歳(2015年)から29.8歳(2016年)と、ほぼ変化はありません。若返っているのは、昨季細川亨選手が39試合にスタメン出場した捕手で、今季はその細川選手が1軍未昇格な点が最も変化した点といえるでしょう。開幕当初、工藤公康監督が斐紹選手を育てようとしたのも、新旧交代の目玉でした。



<日本ハム>

2軍も含めれば、12球団で最も若い野手陣がお馴染みになっている日本ハム。1軍は、ソフトバンクと同じように1年前と顔ぶれがほぼ変わらない+1.0歳、2軍はこれ以上若返りが不可能に見えるほどの基準だったため+0.5歳です。1年前とのわずかな違いは、昨季外国人選手が2名だったのに対し、今季はレアード選手1人。その穴を埋めているのが、昨季はシーズンを通して野手スタメンが22試合だった大谷翔平投手が、今季は既に23試合。今後も同じペースで出続けるかは定かではありません。2軍は、平沼翔太選手ら高卒1年目の新人を率先して起用していますが、3年前のドラフト1位渡邉諒選手が故障続きで、例年ほど育成が順調でない面もあります。



<ロッテ>

1軍は-0.7歳と若返り、2軍は+0.9歳と上の世代交代が進んでいます。この年齢バランスを生み出しているのが今江敏晃選手(現楽天)の退団と、福浦和也選手とサブロー選手の2軍待機、そして平沢大河選手の育成です。1軍で今シーズン、サードを守る中村奨吾選手、細谷圭選手、高濱卓也選手らの平均は26.3歳。昨シーズンの今江選手(32歳)から5歳以上も若返っています。一方、ファームでは待機戦力として福浦選手、サブロー選手らがチーム試合数の半数近くでスタメン出場。大幅な年齢上昇を、平沢選手の起用で抑えている格好です。



<西武>

1軍の起用年齢が大幅に上昇したのは、昨シーズン131試合にスタメン出場した森友哉選手が2軍で調整していた関係と、それ以外にも若手の投入が見られなかったためです。ただ、元のチーム状態が比較的若い選手で構成されているため、ベテラン依存のチームになる一歩手前で踏みとどまっています。2軍では、新人の呉念庭選手がチーム3番目に多く起用され、6/2に初の1軍昇格を果たしましたが、わずか1日の登録で出場機会はありませんでした。今後チームの鍵を握る選手になる可能性もあるため、残念に思うファンは多かったことでしょう。



<オリックス>

昨シーズンとほぼ変わらない1軍の起用年齢ですが、フル出場を果たしているのは糸井嘉男選手と西野真弘選手の2人のみで、それ以外の選手は調子によって使い分けて来ました。腰痛で離脱している吉田正尚選手の出場機会が増えていれば、起用年齢はもう少し若くなっていたはずでした。2軍では、高校卒入団の選手を中心とした起用を試み、2010年以降はほぼ毎年若返っています。首脳陣としては、そろそろ結果が欲しい時期に差し掛かっています。



<楽天>

1軍の平均起用年齢30.2歳は、昨シーズンから見れば若干下がりましたが、それでもリーグで最も高齢なオーダーです。今シーズンで41歳になる松井稼頭央選手に代わる選手が見当たらず、今江敏晃選手の加入も年齢を抑えるとは逆の方向に走りました。今後、オコエ瑠偉選手の起用回数が多くなれば平均値がかなり下がるものと予想され、同じ新人の茂木栄五郎選手とともに将来のチームを背負う期待が集まることでしょう。



<ヤクルト>

昨シーズン、リーグを制した関係もあって1軍の起用年齢は+0.9と、ほぼ同じメンバーが出場している状態です。心配な点は、2軍の起用年齢が高いにも関わらず1軍への戦力補充がされていないこと。ファーム全体では新旧交代が進められ、新人の廣岡大志選手、山﨑晃大朗選手の2名がチームスタメン出場の上位を独占中。長期的展望では、着実に変化の兆しを感じさせます。



<巨人>

1軍の起用年齢は昨シーズンと変わらず、両リーグで最も高い数値を出していますが、1年前と比較して-1.6歳とかなり世代交代が進んでいる印象です。大きな要因は、高橋由伸監督と井端弘和コーチの現役引退、阿部慎之助選手の1軍合流が大幅に遅れたことで、必然的に若手を起用しなければオーダーが組めない事情もありました。ただ、その阿部選手が1軍に戻って来て、立岡宗一郎選手や重信慎之介選手らの若手も苦戦中と、今後はベテランの起用が進む可能性はあります。2軍では、世代交代に見合った起用がなされているのは岡本和真選手くらいで、若手の過半数はこれから実績を作る選手たち。新しい畑を耕し始めた状況といって良いでしょう。



<阪神>

昨シーズンは巨人とほぼ一線に並び、球界で最も起用年齢の高い球団の一つでしたが、今シーズンはDeNAに次ぐリーグ2番目に若いオーダーに変身。反対に、2軍は起用年齢の最も高い球団となっています。しかし、期待していた若手の伸び悩みにより、開幕当初は2軍でプレーしていた上本博紀選手、俊介選手らが続々と1軍に昇格し、今後の展開は全く読めません。球団にとっての理想は、若返りを果たしつつチームが勝ち進むことでしょうが、果たして上手く行きますでしょうか。



<広島>

1軍の起用年齢は+0.3歳、2軍は-0.8歳とチームは成熟期になりつつあります。本書でも書きましたが、伝統的に若手へシフトする決断の早い球団で、今季39歳になる新井貴浩選手を4番で起用するのは極めて稀なケースです。その新井選手と、捕手の石原康幸選手のスタメン機会を抜くと、チームの起用年齢は26.9歳となり、実際にはかなり若いチームというのが見えて来ます。今シーズンも鈴木誠也選手、安部友裕選手らが台頭し始め、野手に関しては球界有数の戦力と見て間違いないでしょう。



<中日>

本書に記載したデータの範囲では、1軍の起用年齢が30歳を下回ることはありませんでしたが、今シーズンようやくその壁を破ろうとしています。右手有鉤骨骨折で長期離脱となったしまった高橋周平選手が戻って来ると、チームは本格的に世代交代が進むことになるでしょう。2軍では、高校卒の若手が少ない関係上、起用年齢はかなり高いものになっていますが、実際にはプロ経験年数の少ない選手が中心。ここ1、2年の間に大きく成長する選手が出て来る可能性はあります。



<DeNA>

1軍に関しては日本ハムをも超える若さで、さらにその若手が戦力として計算出来るようになってきました。逆に、肝心な場面で落ち着きのあるプレーが出来るベテランの存在に欠け、現在の好調が若さから生み出されたものだとしても、今後については未知数な部分が大きい点は否定出来ません。また、同世代でポジションが重複する若手も多く、調子の波によって選手を入れ替えるようなことがあると、レギュラー固定が難しくなるだけでなく、起用面でも難しくなります。これを避けるには、出来る限り早い段階で選手を見極めること、チームの弱点を補うためトレードを視野に入れることでしょう。強い球団を作るには、ただ若いだけでなくチームのバランスも重要になってきます。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る