選手の実力は未熟な若い時代から数年をかけて成熟し、さらに年齢を重ねると力が衰えていく。プロ野球選手のキャリアに対し、漠然とこういったイメージを持っている人は多いのではないだろうか。データ分析を行うと、平均的にどの年齢でどの程度パフォーマンスの変化が起こってくるかの傾向がわかってくる。今回はこういった変化を「年齢曲線」で表現し、分析を行う。



年齢曲線とはなにか


「年齢曲線」とは、年齢ごとの一般的なパフォーマンスの変化を曲線グラフの形に表したものだ。セイバーメトリクスの手法でパフォーマンスを数値化することで、かつては漠然としたイメージで考えられていた概念を具体的にすることができるのだ。

今回は選手の総合的な貢献度を測るWAR(Wins Above Replacement)から、NPBの年齢曲線を求める。ただし、単純に年齢別にWARの推移を集計すると「生存バイアス」と呼ばれる偏りが発生してしまう。

「生存バイアス」とはなにか。ベテラン選手を例に考えてみよう。ベテランとなっても重用される選手は、若い頃に他の選手より優秀な成績を残し、年齢を重ねてもなお起用されるだけの力を持った選手である場合が多い。このような状況でベテランのWARを単純に集計すると、一部の優れたベテランの値のみを集計してしまうことになる。これにより、全盛期を過ぎたベテランに支えられた年齢の平均値 (あるいは中央値) が、ベテラン選手が全盛期だった年齢の平均値を超える逆転現象が発生してしまう恐れがでてくる。

こうしたバイアスを発生させないため、ここでは単純に年齢別のWARの推移を集計するのではなく、年齢別に前年からのWARの増減を計測し、その累積値をベースとした年齢曲線を構成する。計算例として、柳田悠岐(ソフトバンク)のWARの増減を表1に示す。

表1 柳田悠岐の年齢別WAR増減
年齢 WAR WARの増減 WARの増減
累積値
26 5.0 - -
27 10.1 5.1 5.1
28 6.9 -3.2 1.9
29 6.6 -0.3 1.6
30 8.9 2.3 3.9

一番左が年齢、その右にその年のWARが並んでいる(以降、年齢はすべてその年の12月31日時点のもの)。ここでは柳田がWAR 5.0を記録した26歳のシーズンを基準にWARの増減を見ていく。

柳田は27歳のシーズンでWARを10.1にまで伸ばした。基準となる26歳シーズンのWAR 5.0からの変化量は+5.1である。翌年は10.1から6.9にまで低下。前年から-3.2の変化である。ここでは累積値を見ていくため、さきほどの5.1とこの-3.2を足した1.9が26歳シーズンからの累積値となる。このようにしてWARの増減累積値の推移を見ることで、年齢ごとのパフォーマンスの変化を見ていこうという試みだ。

これと同様の計算を、以下の条件を満たす選手を対象に行い、NPB全体の年齢曲線を算出した。


野手
・2年連続で250打席以上

先発投手
・2年連続で先発70投球回以上

救援投手
・2年連続で30登板以上または救援30投球回以上
・先発10投球回以下


野手であれば各球団8~9人、投手であれば各球団5~6人が対象となる。ポジション数、ローテーション、リリーフ枚数を考慮し、年間を通しておおむね主力としてプレーした選手の抽出を目的に条件を設定している。


NPBにおける年齢曲線


下図は、2014年から2018年のNPBにおける年齢曲線だ。21歳のシーズンのWARを0に置き、条件に当てはまった選手の年齢ごとのWARの増減推移を記録。その変化の一覧を年齢ごとに見て、中央値となった選手の値を年齢ごとの代表の値としている。

pict
表2 年齢別WAR増減累積表
年齢 先発 救援 野手
22 0.3 0.7 0.6
23 -0.6 0.6 0.5
24 -0.7 -0.3 1.0
25 -0.9 -0.7 1.0
26 -1.1 -0.7 1.2
27 -0.4 -0.7 2.3
28 -1.4 -1.2 1.9
29 -0.8 -1.6 1.8
30 -0.4 -1.7 1.0
31 -1.0 -2.6 0.5
32 -1.9 -2.8 0.4
33 -1.9 -2.9 -0.4
34 -2.2 -3.0 -0.8
35 -3.0 -3.4 -0.7
36 -3.5 -3.2 -1.2
37 -4.3 -3.7 -2.7
38 -4.6 -4.0 -2.0
39 -6.3 -3.8 -2.4
40 -5.6 - -2.9

野手、先発、救援ともにベテランの年齢に近づくにつれパフォーマンスが下がっており、NPBでもやはり加齢がパフォーマンスに与える影響を感じさせる。ただその中でも野手と投手では傾向に少し違いがあるようだ。

野手はおおむね27歳前後で最高のパフォーマンスを発揮し、そこから徐々に値を下げていく。一方、投手は20代前半からパフォーマンスが低下し続けている。サンプルサイズに差はあるが、このような旬の違いはMLBでの先行研究とおおむね合致する。


How do baseball players age? (Part 1)
https://tht.fangraphs.com/how-do-baseball-players-age-part-1/

How Do Pitchers Age?
http://www.philbirnbaum.com/aging2.pdf



野手のピークは20代後半


野手のWARは、攻撃によるWAR、守備によるWARの2つに分けることができる。これらカテゴリ別にも年齢曲線を見て、年齢ごとのパフォーマンスの変化を分析していく。


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まず、さきほども説明したように攻撃、守備の総合である野手WARは26歳から29歳にかけてピークが出現している。その構成要素である攻撃WAR(紫)は29歳前後にピークを迎え、そこから数値を下げていく。攻撃と守備の合計である野手WARは攻撃WARとよく連動しており、WARの構成要素として打撃が大きな比重を占めている様子がわかる。

一方、守備WAR(緑)には大きなピークが現れていない。セイバーメトリクスによる研究の世界では、守備は打撃以上に早い年代で、加齢によるパフォーマンス低下がはじまるという考え方が一般的である。しかしこのグラフに関してはそのような傾向が見られない。これに関してはサンプルサイズの小ささが要因の1つだと考える。さらに多くのシーズンでデータを集めると、加齢が守備WARに与える影響がよりはっきりと見えてくるようになるのではないだろうか。

総合的に見ると、野手は20代前半で成績を伸ばし、20代後半でピークを迎え、30前後を境に下降する。一般生活においても30代は肉体的な衰えを実感しやすい年代と考えられるが、トレーニングを積んだ野球選手であっても例外ではないようだ。

2018年の野手WAR上位10人をピックアップしても、全員が30歳以下と、年齢曲線上のピークに近い選手で占められている。

表3 2018年の野手WAR上位10人
選手 球団 年齢 WAR
柳田 悠岐 H 30 8.9
山田 哲人 S 26 8.4
丸 佳浩 C 29 7.1
浅村 栄斗 L 28 6.6
坂本 勇人 G 30 6.3
秋山 翔吾 L 30 6.2
平田 良介 D 30 6.2
源田 壮亮 L 25 6.0
山川 穂高 L 27 5.8
鈴木 誠也 C 24 5.6

ただこういった世代の集中は、非常に優れた選手が多い世代が、現在全盛期を迎えているためという理由もある。例えば柳田、山田哲人(ヤクルト)、丸佳浩(広島)、坂本勇人(読売)、秋山翔吾(西武)といった面々は毎年上位を独占しており、球史を見渡しても非常に優れた選手である。彼らがピークを大きく過ぎても上位に君臨する可能性は十分に考えられる。


広島の3連覇はタナキクマルのピークで迎えた


2016-18年の広島は、圧倒的な野手の力によってセ・リーグ3連覇を達成した。野手陣の中核を担ったのは田中広輔菊池涼介、丸の同学年トリオ、通称「タナキクマル」である。

過去4年間、このトリオはそれぞれ1シーズンにおけるWARの平均が4.0以上、丸に至っては7.0以上と非常に高いレベルで安定した活躍を見せていた。これから数年間ピークを迎える26歳の時点で優秀なトリオを抱えることができた結果、広島に黄金期が到来したと考えることができる。

表4 広島の同学年トリオ 田中、菊池、丸のWAR推移
年度 年齢 田中 菊池 3選手合計
2015 26 4.0 2.7 5.4 12.1
2016 27 3.9 7.1 6.6 17.6
2017 28 5.9 3.9 8.9 18.7
2018 29 3.4 2.8 7.1 13.3
※3人は同学年だが、菊池のみ早生まれ。ここでの年齢は田中、丸にあわせている。

ただこのトリオのWARも一般的な年齢曲線に近い推移を辿っている。3選手合計のWARは27歳から28歳にかけて、17.6、18.7とピークに到達したが、29歳を迎えた昨季は3選手揃って低下し13.3。30歳手前は年齢曲線でも下降線に入るが、3選手もその動きにあわせるようにパフォーマンスを落としていた。

昨季、広島はセ・リーグ3連覇を果たしたが、勝率や得失点差は2016-17年の優勝に比べて低くなっていた。投手陣の苦戦が主な要因だが、タナキクマルの成績低下も他球団に差を縮められる一因となっていたようだ。

表5 広島の年度別勝率・得失点差
年度 勝率 得失点差 野手WAR 投手WAR
2015 .493 32 18.4 27.3
2016 .631 187 30.1 28.3
2017 .633 196 37.0 28.7
2018 .582 70 26.4 20.5


ピークを維持する先発。若さが武器の救援


投手のWARは野手と異なり、21歳から大きく伸びる傾向が見られなかった。また、先発と救援でも若干異なる年齢曲線を描いている。

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先発は20代前半から30歳前後までピークに近いWARを維持しており、30歳を少し過ぎた年齢からWARが大きく低下する。明確なピークの山は見当たらない。先発は若くからパフォーマンスを発揮しやすく、30歳までは安定しやすいようだ。

対する救援は、20代前半から一貫してWARが減少し続けている。先発に比べても30代前半でのマイナスがかなり大きく、若ければ若いほど優秀なWARを記録しやすいようだ。野手や先発以上に若さが求められるポジションといえるだろう。

年齢曲線を額面通りに受け取るならば、先発は比較的衰えにくく、救援は衰えやすいといえる。しかし、力を落とした先発が救援で起用されるケースなどに代表されるように、先発と救援ははっきりと分けられるものではない。年齢曲線の差を単純に受け取るのはやや危険だ。




FA権取得年齢と年齢曲線のギャップ


選手がFA権を取得する年齢は、最速でも25歳、大卒なら28歳である。ルーキーから常に一軍で活躍し続ける選手は稀なため、多くの場合20代後半~30代前半でFA権を取得する。FAは成熟したピークの選手を獲得できると考えがちだが、年齢曲線に照らし合わせると、選手のほとんどはピークを過ぎており、移籍後にキャリアハイのパフォーマンスを望むのは楽観的である。全盛期からやや落ちるレベルを想定するのが現実的だろう。

西武から楽天に移籍した浅村栄斗は28歳の昨季、キャリアハイを記録した。年齢曲線からしてもまだしばらくピークに近い状態を維持できる年齢であるため、健康な状態であれば移籍後も高いパフォーマンスを期待しやすいといえる。

表6 浅村栄斗のWAR推移
年齢 WAR WARの増減 WARの増減
累積値
24 2.6 - -
25 4.1 +1.5 +1.5
26 6.5 +2.4 +3.9
27 5.2 -1.3 +2.6
28 6.6 +1.4 +4.0

かつて浅村よりさらに若い27歳でFA権を取得した稀有な例が、2015年の坂本勇である。しかし、彼はFA宣言をせず読売に残留した。坂本勇は翌2016年、28歳のシーズンにキャリアハイのWAR 9.6を記録。これは5割のチームを優勝ラインに導けるほどの貢献量である。仮に坂本勇が他球団へFA移籍していた場合、リーグ全体の戦力バランスは大きく変貌していたはずだ。2015年FA市場における最大の勝者は読売だったといえるかもしれない。


まとめ


選手のキャリアを予測する際、年齢による経年変化は欠かせない判断材料となる。今後NPBでもこうした研究を進めることが、より正確に選手の将来を予測することにつながっていくだろう。

また、年齢曲線とのフィッティングやギャップという観点は、編成的な視点で野球を観る人間だけのものではない。年齢曲線とのフィッティングで、若手選手の将来像が少しだけクリアに見えるかもしれないし、年齢曲線とのギャップを生み出すベテラン選手の奮起に、よりエキサイトできるかもしれない。年齢曲線は編成的な視点だけでなく、ファン視点でも楽しみを増やす一助になり得る考え方である。



宮下 博志@saber_metmh
学生時代に数理物理を専攻。野球の数理的分析に没頭する。 近年は物理的なトラッキングデータの分析にも着手。
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