先日、今季の柳田悠岐(ソフトバンク)が四球を減らしながら好成績を維持している背景として、追い込まれるまで積極的にスイングしにいくアプローチと、より確実に打球を前に飛ばすスイングの2つの変化が起こっていることを紹介しました。今回はこのモデルチェンジに至った原因をまた違った角度から検証してみたいと思います。それは「後続の打者への不安」です。

走者ありで一塁が空いた場面で四球が大幅に減少


柳田の次の打順の打者の成績を2017年と2018年で比較したものを以下の表1に示します。



今季も長打率は一定の数字を残しているものの出塁率は.306と低く、昨季ほどの成績を残せていないことを確認できます。特に内川聖一が柳田の次に打席に立った場合の成績は打率/出塁率/長打率が.226/.265/.321と深刻です。このようなチーム事情があったため、柳田は自分の打席で何とかしたいという気持ちが強くなった可能性が考えられます。

これを間接的に裏付けるデータはいくつかあります。まず、柳田のBB%(打席に占める四球の割合)を、①走者なしの状況、②走者が1塁にいる状況(一塁 & 一・二塁 & 一・三塁 & 満塁)、③走者ありで一塁にいない状況(二塁 & 三塁 & 二・三塁)で比較したものを以下の図1に示します。



走者ありで一塁にいない状況(③)、つまり相手バッテリーが強打者との勝負を避けようとする場面で四球の減少が顕著です。これは柳田が歩かされるのを良しとしていないように見えます。やはり自分の打席で得点を重ねることを強く意識していたのかもしれません。


一塁走者がいない場面で3ボールになるのを避ける柳田


次に、3つの状況別に柳田の打席が打席の何球目の投球で終わったかを見ていきます。





以前分析したように、早めのアプローチと確実に前に飛ばす打撃が今季の柳田のスタイルであるため、①~③のどの状況においても1・2球目で打席を終えることが多くなっています。

しかしその中でも走者を置いた状況での上昇具合は顕著です。走者なし(①)の状況では1・2球目で打席が終了する割合が昨季に比べ8.7%の上昇にとどまっているのに対し、一塁走者あり(②)では11.6%、走者ありで一塁走者なし(③)の状況では15.5%も数値が上がっています。まず走者がいる場面では積極的に仕掛けており、一塁走者がいない状況ではさらに自分が決めようという傾向が強いことがわかります。

ストライク・ボールのカウントの面からも見てみます。以下の表は上記3つの場面でどのようなカウントで打席が終わっているかの表です。昨季に比べると浅いカウントで勝負することが増え、深いカウントで打席を終えることが少なくなっています。特に③走者あり・一塁走者なしの場面ではボール0・1時に打席を終えることが多くなっています。



逆に3ボールなど深いカウントで打席を終えることは非常に少なくなっています。3ボールになるまでに打席を終えた割合を3つの状況別に比べてみます。



走者なし(①)、また一塁走者がいる状況(②)での3ボールになる前に打席を終えた割合は大きく変化がないのに対し、走者あり・一塁走者なしの状況(③)では昨季69.1%だった値が82.4%まで上昇しています。空いている一塁に歩かされる確率が高くなる3ボールになる前に決着をつけようという意思が感じられるデータです。


走者あり・一塁走者なしの状況(③)でのスイング傾向を昨季と比較する


ここまでのデータから、走者あり・一塁走者なしの状況(③)で柳田が昨季より積極的に自分で決めようとしていることは間違いないようです。ではその状況で具体的にどのようにスイングの傾向が違うのか見てみましょう。今回は表2で打席を終える割合が高かったボールカウント0・1に限定して見てみます。



2018年のストライクゾーンの中心に白い部分がありますが、これはデータの空白地で、スイングする頻度が低いわけではないことには注意してください。

2017年と2018年を比較すると、スイング率があまり高くない色の薄い部分(黄緑)の広がり方はあまり変わりませんが、スイング率が高い色の濃い部分(赤)に関しては2018年のほうが広くなっています。3ボールになる前に打席を終えようとしていることはわかっていたため、ボール球にも多く手を出しているのかと想像していましたが、自制をしながらゾーン内の投球のみにスイングを増やしているようです。また全体的に高めのボールに対して多くスイングしている様子もわかります。

ストレートと変化球を区別し、それぞれの見極めを見てみます。



ストライクゾーンへのスイング率は、ストレートと変化球ともに2018年に高まっています。特に変化球のスイング率は10%近く上昇しています。最も顕著なのはボール球の変化球のスイング率が大きく低下していることです。この変化球の見極めの良さが2018年の特徴といえそうです。さきほどの図4で全体的にスイング分布が高めに寄っていたこともこのデータと関わっているかもしれません。

前回の分析とあわせると今季、柳田の四球が減少している要因として以下のものが考えられます。


① 以前より早いカウントで積極的なアプローチを見せている
② 以前よりもミスショットが少なく、前に飛ぶ打球が増えている
③ 自分が四球で勝負を避けられる可能性のある場面でより積極的な打撃を見せている

今回の分析では③の検証をしました。こうしたモデルチェンジの原因が、後続への不安に依るものなのかを実際に確認することはできませんし、もしかすると本人も特に自覚していない可能性も考えられます。

しかし、状況証拠的にデータを集めてみれば、四球で歩かされやすい状況を拒否するかのように打席の早い段階から仕掛けていくというスタイルをとっています。ただし、ボール球となった変化球へのスイング率の低さをみるに、やみくもにどんなボールにも積極的にスイングしているというよりは、きちんとボールを見極めたうえで打ちにいっているようです。今後まわりの打者の状態の変化によりアプローチがどのように変わってくるかにも注目してみたいと思います。



Student @Student_murmur
個人サイトにて分析・執筆活動を行うほか、DELTAが配信するメールマガジンで記事を執筆。 BABIP関連、また打球情報を用いた分析などを展開。2017年3月に[プロ野球でわかる!]はじめての統計学 を出版。


関連記事
四球減少で好成績?柳田悠岐の2018年型モデルチェンジ
優勝、CSへ最終補強 ハムとロッテ、岡大海と藤岡貴のトレードの背景を探る
【データで選出6月月間MVP】広島・丸、出塁率と長打ともに文句なし。西武・菊池は質・量を備えた完璧な投球
先発か抑えか 「最高の投手」に任せるべきは…
【スカウティングリポート2018】上茶谷大河(東洋大・右投手)
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る