野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2021年の日本プロ野球での野手の守備における貢献をポジション別に評価し表彰する“DELTA FIELDING AWARDS 2021”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。

対象左翼手に対する9人のアナリストの採点


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左翼手部門は荻野貴司(ロッテ)が受賞者となりました。しかしどのような分析を行いこうした評価に至ったかはアナリストごとに異なります。左翼手をどのように分析したか、大南淳の分析を参考として掲載します。2021年左翼手のUZRこちらから。


左翼手参考分析 分析担当者:大南淳



UZRデータによる対象左翼手評価


まず今回私がどのような評価手法をとったかを解説する前に、DELTAが採用するベーシックなUZRで各左翼手の守備貢献を確認していきたい(表1)。

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今回対象となる10選手の中では、西川龍馬(広島)がトップのUZR8.1を記録している。内野では送球難に苦しんだ西川龍だが、中堅も含め外野では一定の成果を残している。守備力の低い選手が集まる左翼では相対的に傑出したかたちだろうか。

2020年の本企画でトップだった青木宣親(ヤクルト)は3位。昨季の左翼UZRが15.3だったため、成績を落としたと見る人もいるかもしれないが、実は守備範囲を表すRngRで見ると、昨季の7.7から今季は5.9とそれほど大きな変化はない。数字の落ち込みはARM(進塁抑止)が7.1から-1.0に低下したことによる部分が大きい。

またそれぞれ2016年、2018年に本企画で左翼手部門1位となった西川遥輝(日本ハム)、島内宏明(楽天)が低迷していることも気にかかる。2人とも年齢を重ねた影響が出ているのか、もしかするとコンディションが良くない中で出場を続けていた可能性を感じさせるデータである。


左翼手別の守備範囲分析


次にこれら左翼手がどのような守備範囲を見せていたかを個別にチェックしていきたい。今回はどういった打球に強いのか・弱いのかを明確化するため、前述した守備範囲貢献RngRを打球エリアごとに分割して表現した。数字は得点・失点の単位になっており、例えば2点であればそのカテゴリの打球処理で平均的な左翼手に比べ2点多く失点を防いでいると考えることができる[1]

フィールドのどのあたりがどの位置にあたるかは以下の図1を参考にしてほしい。

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西川龍馬(広島)

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西川龍はどのエリアでも満遍なくプラスの値を稼ぎ、失点を減らしている。特に距離7・8といった定位置より後ろのほうで失点を防いでいたようだ。また横の動きでみても、CやIといった定位置から左右に大きく離れたエリアで多くの失点を防いでいる。西川龍はまだ26歳とほかの左翼手に比べると若い。若さゆえの機動力がこうした定位置から離れたエリアでの失点抑止につながったのかもしれない。


荻野貴司(ロッテ)

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荻野は定位置からレフト線まで(C~F)の合計RngRが5.1。定位置からライン際で多くのアウトを獲得していたようだ。一方で定位置から左中間方向(G~K)に関しては合計-2.9。平均よりもアウトをとれていない。ややレフト線寄りにポジションをとっているのではと思えるデータだ。


青木宣親(ヤクルト)

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青木は全般的に穴の小さい優れた守備範囲を見せている。ただその中でも、距離4~6の合計が4.8。定位置から前方にあたる打球で多くのアウトを獲得していたようだ。ちなみにこの傾向は昨季とまったく同じである。左翼手としての青木特有の性質なのかもしれない。


ゼラス・ウィーラー(読売)

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左翼手としてはじめて500イニングに到達したウィーラーだが、RngRで見ると-0.4と平均レベルの成果を残している。フェンス際にあたる距離8のRngRが1.3と強みを見せていたようだ。特に定位置からレフト線(C~F)にかけてのフェンス際打球で大きな強みを見せている。


西川遥輝(日本ハム)

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西川遥の守備範囲にははっきりした傾向が生まれている。定位置から前方の打球(距離4~6)には強みを見せる一方、後方の打球(距離7~8)で大きなマイナスを計上してしまっている。ちなみに西川遥は昨季本企画に中堅部門で対象選手となっていたが、そこでも前方には強いが後方に弱い傾向を見せていた。西川遥特有の性質なのかもしれない。このオフに日本ハムを退団となった西川遥だが、獲得を試みる球団は頭に入れておきたいデータだ。またその性質とは別に、今季は左翼を910 2/3イニング守り、RngRが-0.3。1127イニング守り、RngRで13.0を記録した2016年から大きく数字を落としている。この頃に比べると走力に陰りが生まれているのだろうか。


島内宏明(楽天)

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島内は2018年から左翼UZRが17.4→8.8→7.9と高水準で推移してきた選手だが、今季は-0.6と大きく数字を落とした。まだ31歳とそれほど高齢ではないことを考えると、今季はコンディションが悪かったのではないかと疑いたくなる数字だ。

エリア別に見ると、極端に良い・悪い傾向は出ていない。昨季はレフト線や距離7・8といった後方の打球で多くの失点を防いでいたが、今季はそれが失われたようだ。


栗原陵矢(ソフトバンク)

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栗原はレフト線(C~F)に強い一方、左中間(G~K)に弱い傾向がはっきりと出ている。荻野同様、ポジショニングにやや偏りがあるのかもしれない。

栗原については秋季キャンプ中に、藤本博史新監督が左翼に専念させる方針を明かした[2]。だが栗原は右翼含めた両翼の守備で優秀といえるほどの結果が出ていない。一方で三塁では今季160イニングとサンプルサイズは小さいものの、UZR5.2と優れた値を残した。栗原個人の貢献度を最大化することを考えると、現時点で三塁出場の選択肢を捨てるのはもったいない選択にも思える。


吉田正尚(オリックス)

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吉田はエリア別に見ても特別な傾向を見出しにくい結果に終わっている。ここまでキャリア6年で左翼を3158イニング守り、UZRはほぼ平均レベル。NPBにおける平均的な左翼守備者の代表といってもいいかもしれない。


ジェリー・サンズ(阪神)

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このあたりからはRngRで大きなマイナスを記録した選手たちになる。サンズは定位置からレフト線(C~F)の打球でマイナスがやや大きくなっている。ただ一方で定位置から左中間(G~K)の打球には、相対的に優れた数字を残していた。これは実は昨年と同じ傾向である。


佐野恵太(DeNA)

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佐野については左翼UZRが昨季の-2.9から-15.3に大きな落ち込みを見せた。エリアの傾向を見ると、昨季同様フェンス際にあたる距離8の打球で多くの失点を喫していたようだ。ただ昨季はその分を前方の打球への強みで相殺していたが、今季は前方でも大きなマイナスをつくっている。チーム内の外国人選手との相対関係はあるが、一塁などほかのポジションでどの程度の守備力を発揮できるか見てみたい選手だ。


評価方法の解説 ~UZRを換算することについて~


ここからは筆者がどのような手法を用いて分析・採点を行ったかを解説していく。

筆者は今回、昨季とほとんど同じ発想で評価を行っている。昨季の評価手法はDELTAのUZRをベースに、イニング換算の部分に改良を行ったものだった。あらためて考え方について解説していこう。この章については昨季と同様の考え方であるため、記憶がある読者は読み飛ばしてもらっても構わない。

本企画において毎年アナリストによる分析・評価が行われるが、最終的な採点は大きく2つの方向性に分かれる。イニング換算を行うか、行わないかである。

FIELDING AWARDSの対象選手は野手であれば各ポジション500イニング以上となっている。ただこの中には当然、500イニングの選手もいれば1200イニング以上守った選手も混ざっている。最終的な評価・採点を行う際には、これらを同列に評価しなければならない。

イニング換算を行わない場合、その年に防いだ失点数が高かった順に順位がつけられることになる。より失点を減らすことが守備の目的である以上、防いだ失点の多さ=守備貢献の高さと考えるのは極めて妥当だ。しかし、この手法では出場時間は少ないものの非常に高いパフォーマンスを見せていた選手に高順位をつけるのは難しくなる(当然、出場機会の少ない選手の出場機会を換算して評価を与えるべきではないという考え方もある)。

一方、イニング換算を行った場合、そうした出場機会の少ない選手に高評価を与えることができるが、過大、あるいは過小に評価してしまうリスクは上がる。短いイニングでのパフォーマンスはサンプルサイズが不足しており、選手本来のパフォーマンスを反映しきれていない可能性があるためだ。また、実際には存在していない貢献をその選手の評価としてしまってよいのかという問題もある。

イニング換算を行うか行わないか。このどちらをとるかはアナリストによって分かれるところである。

私はこの企画がはじまってから、基本的にイニング換算を行う方針をとっている。これは500イニング以上という最低ラインを設けているため、換算を行っても極端な結果にはならないであろうという予測、またほかのアナリストと差別化し、多角的な分析を企画に盛り込もうと考えたためだ。ただ換算を行う際にイニングを用いる手法は、厳密にいうと適切ではない。

まずなぜ換算を行う必要があるのかというところから考えてみたい。換算を行うのは、守備機会を均一化した状態で比較を行うためである。

野球における率系の指標は機会に対してどれだけのパフォーマンスをあげたかという構造になっている。打率であれば、打数(機会)のうち、どれだけ安打(パフォーマンス)を放ったかという構造である。

守備も同様で、例えば2021年の源田壮亮(西武)であれば、1019 2/3イニングで遊撃UZRが22.9。1019 2/3イニングの機会で、平均的な遊撃手に比べ、22.9点多く失点を防ぐパフォーマンスを見せたということになる。イニングを機会としているため、イニングで換算しているのだ。200打席で20本塁打を放った打者を、600打席であれば60本塁打ペースと考えるのと同様である。

ただ厳密に考えた場合、イニング換算によって守備機会が均一化されるわけではない。守備イニング=守備機会ではないからだ。同じ1000イニングを守った選手が2人いても、同様の守備機会が訪れるわけではない。極端な話をすれば、球界最高の名手・源田が1000イニング以上守っても、遊撃手の守備範囲に年間で1球しか打球が飛ばなければ、UZRは0から大きく動くことはない。こう考えるとイニング換算の問題点が理解できるだろうか。これほど極端なケースはありえないが、同じイニングを守った選手にも、多かれ少なかれ守備機会の差が生まれているはずである。




評価方法の解説 ~被打球の定義~


こうした考えから、筆者は昨季、その選手の守備機会をイニングで考えるのではなく、その選手のポジション周囲に飛んだ打球数で換算を行った。ただ「その選手のポジション周囲に飛んだ打球数」を定義するのは難しい。このとき各打球カテゴリの中で、そのポジションの選手がNPB全体で10以上アウトをとった打球、かつ守備位置責任が10%以上となる打球を各ポジションの被打球とした。詳しくは昨年の分析を参考にしてほしい。

ただ昨年のこの被打球定義は、極めて恣意性が強いものであった。「10以上アウト」や「守備位置責任10%以上」はいわば筆者が大きな根拠なく決めた条件である。

しかし今回UZR算出のロジックをあらためて考え直す中でより適切な条件がわかった。UZRの算出ロジックを分解すると、機会数は「獲得アウト」+「被安打」×「各ポジションの守備位置責任」と考えることができる。UZRはそのうちのアウト割合をベースに貢献度を算出する守備指標だ。この「獲得アウト」+「被安打」×「各ポジションの守備位置責任」を被打球、つまり機会数と考えるのである。算出ロジックから適切な被打球を取り出せたと思ってもらえればよい。これによりさらに適切な被打球換算UZRが算出できるはずである。

今回の対象左翼手について、守備イニングと上記の方法で算出した被打球を比較したものが以下の表3だ。ほとんどイニングと被打球の多さは対応しているが、一部で順が並び替わっている。青木と荻野では、青木のほうが守備イニングは多かったが、被打球で見ると荻野が上回っていたようだ。こうした選手については被打球換算によって、より適切に選手の守備力を測ることができるようになるかもしれない。

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ちなみに、より打球が多く飛ぶ遊撃について同様の表を見てみると、イニングと被打球の並び順でずいぶんと差が生まれていた(表4)。やはり同じイニングを守る選手でも打球を浴びる数にはかなりの差があるようだ。他のポジションについて換算評価を行う際にも十分有効な手法であると考える。

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被打球で守備機会を均した2021年左翼守備評価


左翼手について、UZRを被打球換算した最終評価は以下の表5のとおりとなる。換算は最も被打球が多かった佐野の303球にあわせている。残念ながらイニング換算したUZR/1200と被打球換算のUZRで結果はまったく入れ替わっていない。それどころか1~3位の西川龍、荻野、青木はイニング換算を行っていない生のUZRと同様の並びとなった。評価手法の変更がそれほど大きな変化を生まなかったのは残念だが、逆にイニングでも一定の質をもった換算ができる証とも考えられる。

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また評価手法の話から離れると、一時期の左翼手部門の守備は圧倒的にパ・リーグの選手が優勢になる傾向があった。これは指名打者制のないセ・リーグでは打撃特化の選手を左翼に置かざるをえないため、マイナスが膨れ上がるという状況だったと推察する。しかし昨季、そして今季とそういったセパ格差は薄れているように見える。これをもってセ・リーグでも左翼守備を重視されるようになってきたとは言わないが、そういった事実があるのは確かだ。


[1] 筆者は昨年も同様の手法で分析を行ったが、2021年7月に行った集計ロジック改修により、RngRにおける失策の扱いに変化が生まれている。外野手にとってそれほど大きな変化を生むものではないが、昨年の記事と単純比較できるものではないことに注意してほしい。
[2] ソフトバンク栗原、来季は左翼に専念へ 藤本監督「一つのポジションで打つ方に専念して」 https://www.nishinippon.co.jp/nsp/item/n/835847/



2021年受賞者一覧

過去のFIELDING AWARDS左翼手分析はこちら
2020年(青木宣親)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53668
2019年(金子侑司)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53582
2018年(島内宏明)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53463
2017年(中村晃)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53326
2016年(西川遥輝)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_04.html

大南 淳@ominami_j
ストップウォッチによる時間計測など、地道なデータ収集からの分析に取り組む。
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