野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は右翼手編です。受賞選手一覧はこちらから。


対象右翼手に対する9人のアナリストの採点・コメント

右翼手部門は岡林勇希(中日)が受賞となりました。アナリスト9人全員が1位票を投じ、90点満点を獲得しています。先日、ゴールデン・グラブ賞を獲得しましたが、本企画ではそれ以上の評価を得ていると言えるかもしれません。竹下弘道氏は「どんな評価法をとっても1位になるのでは」と最大級の賛辞を送っています。

2位以下を見ると、こちらも若手の万波中正(日本ハム)、3位佐藤輝明(阪神)、4位愛斗(西武)と、20代の選手がずらり。そして9人のうち30代の選手4名がそのまま下位4名となりました。年齢がランキングに大きな影響を与えている点は、中堅手部門と同様です。アナリスト市川博久氏は、全体的にマイナス評価の選手が多く、レギュラー陣があまり守備で良い働きを見せられていなかった点を指摘しています。

    各アナリストの評価手法(右翼手編)
  • 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
  • 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
  • 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
  • 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見ると岡林の圧倒的なパフォーマンスがよくわかります。岡林のUZRは21.3。2位の万波とくらべても10以上の差が開いています。しかも岡林のこの数字はシーズンフル出場の目安である1200イニングの3分の2にも出場していない中での数字です。フル出場すればさらに大きな差が開いていた可能性が高そうです。

岡林が特に大きな差をつけたのが守備範囲評価RngR。プラスを2桁作れる選手がいない中、23.2もの数字を残しています。これは平均的な右翼手に比べ、23.2点多くチームの失点を防いだことを意味します。圧倒的です。

ではこの最も大きな差がついている守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な右翼手に比べどれだけ失点を防いだかを表しています。

岡林勇希(中日)

岡林はあれだけの数値を記録しただけに全体的に失点を防いでいます。ただその中でも右中間深めの打球に対しては抜群の処理能力を発揮。中堅手と守備範囲が重なるQのゾーンでも、多くの加点を得ています。複数のアナリストから来季の中堅コンバートに期待する声も挙がりました。アナリスト竹下氏は、「今季の活躍がフロックでなければ中日再建の要になる選手かも」と期待を寄せています。

万波中正(日本ハム)

万波は2位に入りましたが守備範囲評価は4.6。特別大きなプラスを作っていたわけではありません。具体的に見ると、得意・不得意なエリアにはっきりした傾向は見い出せませんが、強いて言うなら定位置付近がマイナス、定位置から離れるほどプラスを得ているようです。

佐藤輝明(阪神)

佐藤は定位置から後方の打球に対し強みを発揮。特にフェンスに近いゾーンでは数多くの失点を防いでいるようです。

楠本泰史(DeNA)

楠本は傾向がはっきりしています。右中間の打球に対し多くの加点を得ている一方、ライト線の打球ではマイナスが大きくなっています。前方・後方ではなく。左右の処理に特徴がありました。

愛斗(西武)

愛斗は定位置からライト線の打球に対し、強みを発揮。しかし定位置から右中間寄りはマイナスのエリアが広がっています。

レオネス・マーティン(ロッテ)

マーティンは楠本と対照的で、ライト線で多くの加点を得る一方、右中間でマイナスが大きくなっています。特にフェンス際深い打球に対し、十分な対応ができていなかったようです。

柳田悠岐(ソフトバンク)

柳田は定位置周辺はよく処理できていますが、前後左右に動くと、近いエリアでもマイナスが広がっていました。ちなみに柳田は今季左膝に故障があったことが報道されています。もしかするとその影響が守備範囲に出ていたのかもしれません。

杉本裕太郎(オリックス)

杉本も全体的にマイナスのエリアが広がっています。定位置付近でも、定位置から離れても、打球処理が十分ではなかったようです。杉本は昨季ブレイクを果たした選手ですが、すでに31歳。守備力を大幅に落とし始めてもおかしくない年齢ではあります。

グレゴリー・ポランコ(読売)

ポランコも全般的に守備範囲に問題が出ています。一部、加点を得ているゾーンはありますが、前後左右問わず青いマイナスのエリアが広がっています。

読売は左翼手編、中堅手編で取り上げたアダム・ウォーカー丸佳浩も下位に沈んでいました。チームの外野全体のUZRは-27.4。外野守備力の改善は必要になってきそうです。

来季以降の展望

岡林が来季以降も右翼にとどまるなら天下が続くだろうという予測を行ったアナリストもいます。ただ今季の起用を見ても、大島洋平の年齢を考えても、今後岡林は中堅での起用が増えていきそうです。もし本格コンバートとなれば、来季以降右翼手の争いは全くわからなくなります。

過去の受賞者(右翼手)
2016年 鈴木誠也(広島)
2017年 上林誠知(ソフトバンク)
2018年 上林誠知(ソフトバンク)
2019年 平田良介(中日)
2020年 大田泰示(日本ハム)
2021年 岡島豪郎(楽天)

データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • Pocketに追加

  • 関連記事

  • DELTA編集部の関連記事

  • アーカイブ

執筆者から探す

月別に探す

もっと見る