野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は二塁編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象二塁手に対する7人のアナリストの採点

二塁手部門では吉川尚輝(読売)が受賞者となりました。吉川はアナリスト7人のうち4人が1位票を、残りの3名も2位票を投じました。70点満点中63点を獲得しています。広い守備範囲が各アナリストから指摘され、アナリスト道作氏からは侍ジャパン入りを推す声がありました。

昨季まで3年連続でトップに立っていた外崎修汰(西武)は2位に。1位からは落ちましたが依然として高順位をキープしています。外崎とパ・リーグのゴールデン・グラブ賞を争った中村奨吾(ロッテ)は11人中10位だったため、本企画では大きく評価が開きました。

菊池涼介(広島)の連続受賞を破り、セ・リーグでゴールデン・グラブ賞を獲得した中野拓夢(阪神)は3位でした。ただ中野についてはアナリスト内でも大きく評価が割れています。11人中6位と評価するアナリストがいた一方、3名のアナリストが1位票を投じました。アナリスト竹下弘道氏は球場補正を行い評価を行った結果、中野が大きく数字を伸ばし1位になったとのことです。どうやら甲子園で内野手は守備貢献を落としやすい傾向があるよう。中野はそうした環境にもかかわらず健闘したようです。またアナリスト市川博久氏からは併殺奪取であの菊地を大きく上回る貢献を見せたというコメントがありました。

今季でゴールデン・グラブ賞の連続受賞が途絶えた菊池は守備範囲に問題を抱えているようです。守備を「捕球するまで」と「捕球して以降(送球)」に分けて評価を行ったアナリスト宮下博志によると、菊地は捕球して以降については0.7点平均より失点を防いでいる一方、捕球するまでは-3.6点と、そもそも打球に追いつけていなかったようです。かつて守備範囲の広さで鳴らした菊池も、加齢による衰えが深刻化してきています。どんな名手も年齢には逆らうのが難しいのです。

    各アナリストの評価手法(二塁手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見るとUZRトップは12.0を記録した吉川。アナリストが細かく分析した投票でトップでしたが、それはUZRの序列と変わっていなかったようです。特に大きな差がついているのが守備範囲評価(RngR)。この評価で吉川は10.6と高い値を記録しました。平均的な二塁手が同じイニングを守った場合に比べ、守備範囲によってチームの失点を10.6点防いだことを意味します。下位の選手とは20点以上の差がつきました。

この最も大きな差がついた守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な二塁手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。

これを見ると、各二塁手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。1位の吉川は二塁寄り、一二塁間ともに満遍なく高い打球処理能力を見せているようです。平均より悪かったゾーンは一つもありません。

吉川以外の選手は強みがどちらかに偏っています。牧や菊池が得意としているのは二塁寄り。二塁周辺では多くの失点を防ぎましたが、一二塁間では失点を増やすケースが目立ちました。牧、菊池ともに、昨季からこの傾向は変わっていません。菊池については長年この傾向が続いています。かつては一二塁間で作った損失を二塁寄りの打球に対する強みでカバーできていましたが、それが間に合わなくなってきているようです。

反対に外崎、山田哲人(ヤクルト)三森大貴(ソフトバンク)小深田大翔(楽天)は一二塁間に強い傾向を見せていました。中野は定位置周辺の打球では素晴らしい処理能力を見せていますが、定位置から離れるとやや失点を増やしてしまっています。中野も一二塁間の打球がネックとなっていました。

中日の新人・福永裕基は定位置周辺では安定的に打球を処理できています。ただ少し定位置から離れると二塁寄り、一二塁間問わずかなり処理能力が落ちるようです。守備範囲の面ではプロの二塁手にやや違いを見せつけられる格好となっています。

来季以降の展望

昨季まで3年連続トップと二塁手部門を席巻してきた外崎が今季ついに首位から陥落となりました。外崎も今年の12月には31歳を迎えます。さすがに加齢による衰えがきているのかもしれません。守備力は20代の中盤には衰えだすというのがセイバーメトリクスの分析による通説です。それを考えると外崎はこの年齢でよく保てているほうかもしれません。

ただ今季トップとなった吉川もすでに28歳。そろそろ衰えがきてもおかしくはありません。外崎の時代が終わり吉川の時代に移ったように感じられるかもしれませんが、この年齢からこの地位を守り続けるのもまた難しそうです。来季以降も混戦となるのではないでしょうか。ここに名前のない若手がその他選手をごぼう抜きし、一気に1位になるような展開も十分ありえそうです。



データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表
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