野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は三塁手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象三塁手に対する7人のアナリストの採点

三塁手部門では栗原陵矢(ソフトバンク)が受賞者となりました。2020年、2021年と外野を中心にシーズンを過ごしましたが、今季は三塁に専念。結果的にアナリスト7名のうち6名から1位票を集め、70点満点中69点を獲得しています。打球処理を「捕球」と「送球」に分けて評価したアナリスト宮下博志の分析では、栗原はその両部門でトップに立つ圧巻の内容だったようです。

実は栗原は2021年の時点で少ない三塁出場の中で素晴らしい守備指標を叩き出しており、アナリストからも三塁手として評価の高い選手でした。昨年の本企画でも来季以降上位争いに食い込む可能性がある選手として名前を挙げていましたが、その期待通りに初めてのノミネートにもかかわらず受賞となりました。

2位には昨年受賞の安田尚憲(ロッテ)。全アナリストから3位以上の票を集め、58ポイントを獲得しました。受賞こそなりませんでしたが高い評価を得つづけています。アナリスト宮下によると、捕球評価は平均であるものの送球評価が高く上位にランクインしたとのことです。ハイレベルな送球が安田の強みです。

ほかには清宮幸太郎(日本ハム)は8位となりました。アナリスト宮下の評価では捕球は平均レベルですが、送球でのマイナスが大きく下位に沈んだようです。とはいえ本職一塁手のコンバート1年目としては上々の出来と言えるのではないでしょうか。

村上宗隆(ヤクルト)は10位。昨季は9人中3位と三塁守備でも上位につけていましたが、今季は11人中10位にまで後退しています。アナリスト道作氏はWBCにより例年より早くシーズンを迎えた影響を指摘しています。

石川昂弥(中日)は11人中最下位という結果に終わってしまいました。この石川に注目したのがアナリスト竹下弘道氏です。竹下氏は通常打撃指標にかけられるパークファクター(球場)補正を、守備にも応用し選手評価を行いました。この球場補正で見ると中日の本拠地バンテリンドームナゴヤは三塁手にとって守備指標を伸ばしやすい球場で、補正をかけた結果石川はさらに評価を落とす結果となってしまったようです。竹下氏からはコンディションが万全でなかった可能性を指摘されています。

また今回の三塁手部門ではノミネートされた選手よりも、対象外選手のほうが優秀な傾向があったとアナリストの道作氏と市川博久氏から指摘がありました。その代表が門脇誠(読売)です。三塁守備は309イニングとシーズン4分の1程度しか守りませんでしたが、そのわずかなイニングで三塁UZR(Ultimate Zone Rating)は11.7と強烈なスタッツを残しました。門脇は遊撃でも優秀なスタッツを記録しており、仮にユーティリティ部門が設けられていれば最有力候補だったかもしれません。

    各アナリストの評価手法(三塁手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見ると対象選手トップは9.6を記録した栗原。アナリストが細かく分析した投票でトップでしたが、それはUZRの時点と変わっていなかったようです。2位はアナリストの投票とは違って佐藤龍世(西武)が入っています。

この栗原と佐藤が他選手に大きな差をつけたのが守備範囲評価(RngR)。栗原はこの評価で9.0、佐藤は7.7を記録しました。平均的な三塁手が同じイニングを守った場合に比べ、守備範囲によってチームの失点をそれぞれ9.0点、7.7点防いだことを意味します。

この最も大きな差がついた守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な三塁手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。

これを見ると、各三塁手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。1位の栗原は三塁線の打球、またはFやGなど三遊間の打球ともにまんべんなくプラスを作っています。どちらの打球に対しても広い守備範囲で多くアウトを獲得していたようです。UZR2位の佐藤も栗原同様、両方向に強みを見せていました。

ただそれ以外の選手となると両方向に強い選手は見られません。3位の安田は三遊間がやや弱いように見えます。スピードのある選手ではないだけに、遊撃の前まで出ていってカットするようなプレーは得意ではないのかもしれません。

4位の宮﨑敏郎(DeNA)はベテランらしい堅実な守備が評価される選手です。やはり定位置周辺にあたるDやEではかなりの好成績を収めています。正面の打球は確実に捌けている様子がうかがえます。一方で左右に少しでも振られると処理が追いついていない様子もわかります。このあたりはベテランゆえに守備範囲の問題が出ているのかもしれません。本企画2017年の受賞者ですが、さすがに加齢の影響が出ているように見えます。左右に振られると弱みを見せるという点で、石川や村上についても似たような結果が出ています。

逆に定位置の打球が確実に処理できていないのが清宮や岡本和真(読売)です。特に岡本はほぼ定位置真正面のDのゾーンで大幅に失点を増やしてしまっています。失策の評価はこの中に含まれていないため、失策以外で定位置真正面の打球が多く安打になっているということになります。もしかするとかなり特徴のあるポジショニングをとっているのかもしれません。

来季以降の展望

栗原は今季シーズン3分の2程度の出場でトップとなりました。もしフルシーズンを三塁で過ごせばさらに優れたスタッツが期待できる見込みで、来季以降も有力な候補となりそうです。

しかし今回3位に入った佐藤は栗原以上に少ないイニングで優れた値を記録した選手です。こちらも来季常時出場となれば数字を伸ばしてくる見込みは大きく、有力候補になりそうです。

ただ三塁は他からの移動も多いポジションです。例えば今季遊撃からコンバートされた坂本勇人(読売)も来季は三塁でシーズンを通してプレーする見込みが高そうです。衰えたとはいえもともとレベルの高い遊撃の選手だけに、三塁手の中に入るとレベルの違うプレーを見せる可能性も十分あります。来季三塁手部門の楽しみなポイントです。



データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表
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