野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は左翼手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象左翼手に対する9人のアナリストの採点・コメント

左翼手部門は西川遥輝(楽天)が受賞者となりました。アナリスト9人全員が1位票を投じ、90点満点を獲得しています。西川の受賞は2016年以来2度目。中堅ほど競争が激しくない左翼にポジションを移したこともあり、圧倒的なパフォーマンスとなりました。

昨季受賞者の荻野貴司(ロッテ)は2位。3位にも西川龍馬(広島)と、左翼手の中では比較的機動力の高い選手が上位に並んでいます。1位から3位まで、中堅も守る選手が占めたところに、ポジション間の守備レベル差が感じられます。

4位以下には外国人選手がずらり。外国人選手の中ではブライアン・オグレディ(西武)が3位票を4人から獲得するなど、最も高い評価を得ています。ジュリスベル・グラシアル(ソフトバンク)、アダム・ウォーカー(読売)のほか、佐野恵太(DeNA)も下位に沈みました。

    各アナリストの評価手法(左翼手編)
  • 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
  • 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
  • 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
  • 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見ると、西川遥、荻野の2人が図抜けて高い貢献を残していたことがわかります。西川遥は肩の弱さを指摘されることも多い選手ですが、今季は補殺をはじめ、進塁を抑止することも多く、ARM(進塁抑止)で4.8点と大幅な加点を得ました。

進塁抑止で注目されたのがウォーカーです。スローイングにかなりの問題があるとの評価でしたが、やはりARMでは-4.7点と大きなマイナスを食らいました。ただそれでも4.7点と、やはり守備範囲に比べると進塁抑止の影響力が大きくない様子がわかります。

この最も大きな差がついている守備範囲評価RngR(range runs)について、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な左翼手に比べどれだけ失点を防いだかです。

西川遥輝(楽天)

西川遥はどの方向についても全般的に広い守備範囲を見せました。特に左中間後方の打球では他選手にはっきりした違いをつくっていたようです。昨季は後方の打球に弱みを見せていましたが、今季そうした傾向は見られませんでした。

荻野貴司(ロッテ)

荻野は後方やレフト線全般で好成績を残しています。ただどちらかというと、やや前目の打球に対しては失点を防げていなかったようです。

西川龍馬(広島)

西川龍はレフト線、また前方で大きな加点を得ています。ただ弱点もあり、左中間深くの打球は処理できていませんでした。また、定位置付近でもややマイナスが大きくなっています。

ブライアン・オグレディ(西武)

オグレディは定位置付近では着実に打球を捌いていたようです。一方でやや苦手としていたのが、定位置から後方の打球。フェンス際にあたる距離8では全般的にマイナスを記録しました。

ジュリスベル・グラシアル(ソフトバンク)

このあたりからかなりマイナスのゾーンが広くなっています。グラシアルは定位置から前方、また左中間の打球の処理で後れをとっていたようです。定位置から離れるほどにマイナスのゾーンが増えるあたりからも、守備範囲の問題が見えてきます。

アダム・ウォーカー(読売)

進塁抑止では苦戦したウォーカーですが、守備範囲についてはそれほど悪くありません。特に左中間では他選手に明確な差をつける守備力をみせていました。一方でレフト線は大の苦手。レフト線の打球だけで、他選手に極めて大きな差をつけられています。

佐野恵太(DeNA)

2020年2021年とフェンス際にあたる距離8の打球で大きな損失を喫していた佐野。だが今季はその深さの打球は一定の処理能力を見せていたようです。しかし、レフト線への弱さは今季も同様。特にDのゾーンではかなり多くの失点を喫してしまいました。

致命的な守備力の左翼手が減少

今季はランキング上位を中堅手からの転向勢が占めることになりました。ただUZRのランキングを見ても、上位と下位の差はそれほど大きいわけではありません。竹下弘道氏は守備面で致命的な弱点をもった左翼手がかつてに比べると減少している点を指摘。「UZRの普及もあってか、“守備に目をつむって打撃力だけで起用できるライン“が思ったよりも手前にあることにどのチームも気付いた感がある」とコメントしています。外野では最も打撃専用のポジションと見られている左翼手。このポジションに対する認識も、徐々に変わってきているようです。

過去の受賞者(左翼)
2016年 西川遥輝(日本ハム)
2017年 中村晃(ソフトバンク)
2018年 島内宏明(楽天)
2019年 金子侑司(西武)
2020年 青木宣親(ヤクルト)
2021年 荻野貴司(ロッテ)

データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表
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