順位づけにあたってはUZR値を軸に、「処理したフライのアウト獲得の難易度」と「タッチアップ阻止の難易度」を評価し、それをもとに得点化を行いました。これをUZRと合わせて評価しています。まずはこの分析を紹介し、続いてランキングの検討をしたいと思います。
UZRの算出においても、フライ処理によるアウト獲得の難易度は評価に反映されますが、今回は別の方法でこの難易度を求めて得点化してみました。以下、その方法を解説していきます。
図中のオレンジで示した領域(ゾーンV・距離7)が右打者の際に最もアウト率が高く、水色で示した領域(ゾーンT・距離7)が左打者の際に最もアウト率が高くなっています。
この2つの領域に着弾した打球の座標データを拾い出し、その平均値を求め、これを基準点としました。この基準点は、「最もアウトを取るのが容易なポイント」とし、「基準点から遠い位置の打球ほどアウトを取ることが難しくなる」という考え方をしました。
守備領域の区分
次に、基準点を中心として守備領域を以下の図2-1に示すように4つに区分しました。図中の赤と青の点が、右打者と左打者の基準点となります。このポイントから座標上で45°のラインをクロスさせ、以下の4つの守備領域に分類しました。
①一塁線側・前
②一塁線側・後
③センター側・前
④センター側・後
以降は、この4つの守備領域での打球処理をそれぞれ集計します。図では例として右打者の区分を示していますが、実際には左打者も同様に区分して打球を分類しています。
アウト獲得の難易度の計算
4つに区分した守備領域への打球について、以下の図2-2に示すように、「基準点からの距離」と「打球の滞空時間」からアウト獲得の難易度の計算式を求めました。
用いたデータは2015年から2020年までのNPBのゴロを除く打球(エアボール)です。DELTAではエアボールを対空時間別にフライとライナー、その中間的なフライナーに分類していますが、今回の分析では区別なくまとめています。
フライキャッチの得点化
アウト獲得の難易度の計算式を元に、右翼手が処理した打球の難易度を求めました。この難易度に対して、
・アウトを獲得した場合:1-難易度
・アウトを獲得できなかった場合:-難易度
という得点化を行いました。難易度の高い(アウト率の低い)打球をアウトにするほど高得点に、難易度の低い(アウト率の高い)打球をアウトにできないほどマイナスが大きくなるという得点化です。長くなりましたが、この得点化処理を4つの守備領域で行い集計したものが以下の表2になります。
表2 フライキャッチの得点化
選手 |
球団 |
左打者 |
右打者 |
計 |
一塁線側 |
センター側 |
一塁線側 |
センター側 |
前 |
後 |
前 |
後 |
前 |
後 |
前 |
後 |
大田泰示 |
F |
4.3 |
1.8 |
2.8 |
1.3 |
2.9 |
-0.9 |
-0.5 |
2.5 |
14.2 |
松原 聖弥 |
G |
1.1 |
4.0 |
0.0 |
2.6 |
1.4 |
1.5 |
1.8 |
0.1 |
12.4 |
L・マーティン |
M |
3.5 |
-1.4 |
-2.5 |
-2.1 |
2.3 |
0.0 |
2.8 |
0.0 |
2.6 |
栗原 陵矢 |
H |
0.4 |
0.2 |
-0.8 |
-0.7 |
-1.8 |
0.1 |
0.8 |
-0.3 |
-2.0 |
鈴木 誠也 |
C |
1.5 |
-2.6 |
1.9 |
-1.3 |
4.8 |
-0.9 |
3.5 |
-4.4 |
2.5 |
糸井 嘉男 |
T |
-0.7 |
-0.7 |
-0.7 |
-0.8 |
-1.2 |
0.9 |
5.1 |
-0.6 |
1.2 |
木村 文紀 |
L |
0.9 |
-0.5 |
-1.8 |
-3.4 |
4.1 |
-2.0 |
-1.8 |
0.1 |
-4.3 |
合計値はUZRと相関する結果となっていました。守備領域ごとの数字を細かく見ると、左打者に対し、大田選手はどちらかというと前の領域で、松原選手は後ろの領域で得点を稼いでいることがわかります。
タッチアップ阻止の難易度の評価と得点化
タッチアップでホームに突っ込む走者と、外野手からの返球によって生じるクロスプレーは試合を盛り上げるシーンですが、今回の注目点はそこではなく、タッチアップでの進塁を抑止する能力を評価しようという試みです。
以下の図3は、走者が三塁にいる状況で生まれたエアボールが捕球され、タッチアップした(Go)際の捕球位置と、しなかった(Stop)際の打球の捕球位置を示しています。
基本的には、より遠くに飛んだ打球ほどタッチアップ(Go/赤)しています。しかしタッチアップするか、しないか(Stop/緑)の境界が明確に分かれているわけではなく、両者が重なる部分があります。この情報を用いることで、タッチアップを阻止する難易度を評価することが可能であると考えました。
今回は、打球の捕球位置のホームベースからの距離を算出し、この距離からタッチアップを阻止する難易度の計算式を求めました。計算式を求めたのは、二塁から三塁、三塁から本塁の2種類のタッチアップです。この計算式から右翼手が捕球した打球のタッチアップ阻止の難易度を求めました。この難易度に対して、
・タッチアップを阻止した場合:1-難易度
・タッチアップを阻止できなかった場合:-難易度
という得点化を行いました。難易度の高い(タッチアップ阻止確率の低い)打球で阻止するほど高得点に、難易度の低い(タッチアップ阻止確率の高い)打球を阻止にできないほどマイナスが大きくなるという得点化です。この得点化を集計したものが以下の表3になります。
表3 タッチアップ阻止の得点化
選手 |
球団 |
二塁→三塁 |
三塁→本塁 |
計 |
左打者 |
右打者 |
左打者 |
右打者 |
大田 泰示 |
F |
-0.3 |
-3.3 |
1.9 |
0.3 |
-1.4 |
松原 聖弥 |
G |
-0.1 |
-1.2 |
3.3 |
-0.2 |
1.8 |
L・マーティン |
M |
1.3 |
-1.3 |
3.2 |
0.2 |
3.4 |
鈴木 誠也 |
C |
-0.2 |
-0.7 |
1.7 |
-1.5 |
-0.7 |
栗原 陵矢 |
H |
-0.1 |
0.0 |
1.2 |
0.3 |
1.4 |
糸井 嘉男 |
T |
0.0 |
-0.4 |
1.4 |
0.1 |
1.1 |
木村 文紀 |
L |
0.0 |
-1.0 |
3.1 |
1.3 |
3.4 |
レオニス・マーティン選手と木村文紀選手が高得点という結果です。これが、2人の肩の強さを警戒した抑止力によるものなのか、それともたまたま走らなかったケースが多かったためか、というのは来年以降のデータも見た上での継続的な評価から判断すべきで、あくまで守備評価の方法論の補足的な情報として紹介します。
順位の決定にあたって
ランキングの過程で考慮した点についていくつか挙げておきます。トップは大田選手としましたが、次点の松原選手も今回のような形の難易度を考慮したフライキャッチの評価を見ると近い得点になっています。守備イニングが少ない中で、同等の得点を稼ぎ出したことを考慮して松原選手をトップとしようかとも考えましたが、実際に長いイニングに出場したことも貢献と考え、大田選手を1位にしています。
また、マーティン選手(3位)と栗原選手(4位)はUZRの値も近く評価を逆転させようかとも思いましたが、今回の難易度を考慮したフライキャッチの評価ではマーティン選手のほうが高かったため上位としています。
おわりに
UZRは図1で示したようにゾーンごとに打球を分類し評価していきますが、今回はそれに処理した打球の座標情報を元に評価した分析を加えました。今後も、UZRの評価を補完するような役割を担うことを目指して、分析方法などを工夫していければと思います。
2020年受賞者一覧
過去のFIELDING AWARDS右翼手分析はこちら
2019年(平田良介)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53579
2018年(上林誠知)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53461
2017年(上林誠知)
https://1point02.jp/op/gnav/column/bs/column.aspx?cid=53322
2016年(鈴木誠也)
https://1point02.jp/op/gnav/sp201701/sp1701_02.html