野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2022年の日本プロ野球での野手の守備による貢献をポジション別に評価し表彰する“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。


“DELTA FIELDING AWARDS”について

“DELTA FIELDING AWARDS”は、米国のデータ分析会社Sports Info Solutions[1]が実施しているデータを用いた選手の守備評価表彰“THE FIELDING BIBLE AWARDS”[2]に倣ったものです。

“THE FIELDING BIBLE AWARDS”は2006年から行われており、この流れを受け米国ではデータ視点で守備を評価する流れが非常に強くなっています。MLBでは近年、ゴールドグラブ賞の選定にデータを考慮するという方針転換が行われました。データの視点で守備を評価することのプライオリティが高くなっていることは確かなようです。

DELTAでは、日本においてもこうしたデータ分析を通じた守備の評価を定着させるため、2016年よりこうした表彰を行っており、今年が7回目となります。今回は9人のアナリスト(DELTA社より3名と協力アナリスト6名)が参加し、2022年シーズンにおける野手の守備について、個々の手法で分析・評価・採点を行いました。

セイバーメトリクスの守備指標というと、UZR(Ultimate Zone Rating)が一般的にも知られるようになってきています。こうした指標がある以上、それぞれのアナリストがまた別に分析をやり直し、投票を行う必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、UZRは守備による貢献を評価するベーシックな手法の1つに過ぎません。グラウンドでは数多くの出来事が発生しますが、それをどのように拾い上げて守備の評価に用いるか、その手法はいくらでもあります。“DELTA FIELDING AWARDS”では、より多角的な視点による分析を評価に反映させるため、このような手法をとっています。

過去のFIELDING AWARDSの結果はこちらから
2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年

評価の対象選手

各ポジションでシーズン500イニング以上を守った選手。

選出方式

9人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、対象選手に1位=10ポイント、2位=9ポイント……10位=1ポイント、11位以下は0ポイントといった形で採点し、合計ポイントがポジション内で最も高かった選手を選出。

参加アナリスト

・岡田 友輔(@Deltagraphs
・道作
・Jon
・佐藤 文彦(@Student_murmur
・市川 博久(@89yodan
・宮下博志(@saber_metmh
・竹下 弘道(@RCAA_PRblog
・二階堂 智志(@PennantSpirits
・大南 淳(@ominami_j


“DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手

それでは受賞選手を発表していきます。

捕手:大城卓三(読売)

捕手では読売所属の大城卓三がトップ評価を得ました。大城はアナリスト9名のうち6名が1位票を投じ、90点満点中82点を獲得しています。昨季に続き2年連続のトップとなりました。

捕手については、本企画の2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(多くのストライクを奪うための捕球)もアナリストによっては評価対象としています[3]

大城はこのフレーミングで優れた数字を記録していたようです。大城以外では昨季に続き、梅野隆太郎 (阪神)、木下拓哉 (中日)らが高評価を得ています。大城については、一般的に打力のイメージが先行していますが、もっと守備面で評価されるべき選手なのかもしれません。

捕手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(捕手)
2016年 若月健矢(オリックス)
2018年 小林誠司(読売)
2019年 梅野隆太郎(阪神)
2020年 木下拓哉(中日)
2021年 大城卓三(読売)

一塁:ネフタリ・ソト(DeNA)

一塁ではDeNA所属のネフタリ・ソトがトップの評価を得ました。ソトはアナリスト9名のうち7名が1位票を投票。90点満点中87点を獲得しています。ソトは昨年の投票では10人中8位。決して優れた成績を残しているわけではありませんでしたが、一気に順位を上げてきています。

2位には鈴木大地(楽天)。受賞経験のあるダヤン・ビシエド選手(中日)、中村晃(ソフトバンク)はそれぞれ3位、4位に終わりました。ただ他ポジションに比べると、評価は団子状態に近く、特別大きな差はついていません。

一塁手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(一塁)
2016年 中田翔(日本ハム)
2017年 ホセ・ロペス(DeNA)
2018年 井上晴哉(ロッテ)
2019年 内川聖一(ソフトバンク)
2020年 ダヤン・ビシエド(中日)
2021年 中村晃(ソフトバンク)

二塁:外崎修汰(西武)

二塁では外崎修汰がトップ評価となりました。これで外崎は3年連続で二塁手部門1位に。他の二塁手に差をつけるプレーを見せ続けているようです。アナリスト9人のうち7人が1位票を投じ、88点を獲得しています。

また2位には三森大貴 (ソフトバンク)、3位には吉川尚輝 (読売)と若い選手が上位に入りました。三森はアナリスト2名が1位票を投じています。いずれも守備範囲の面で他選手に大きな差をつけていたようです。一方、過去に1位経験のある菊池涼介 (広島)や阿部寿樹 (中日)は中位に沈んでおり、世代交代を感じさせる結果となっています。

二塁手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(二塁)
2016年 菊池涼介(広島)
2017年 菊池涼介(広島)
2018年 菊池涼介(広島)
2019年 阿部寿樹(中日)
2020年 外崎修汰(西武)
2021年 外崎修汰(西武)

三塁:安田尚憲(ロッテ)

三塁では安田尚憲がトップ評価となりました。昨年は11人中9位と低い評価でしたが、一気に順位を上げています。安田にはアナリスト9名中5名が1位票を投じ86点を獲得しました。

今季大きな注目を集めた村上宗隆 (ヤクルト)は3位。1位票を投じたアナリストもおり、守備面でも高い評価を得たようです。

昨年の三塁手部門では、茂木栄五郎(楽天)と宗佑磨(オリックス)が僅差で争いました。しかし今年は茂木が2位、宗は7位。ともに順位を落としています。特に宗はUZRの評価でも昨季の11.9から-4.6へと数字が大きく低下しており、守備面での貢献が小さくなっていたようです。

三塁手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(三塁)
2016年 松田宣浩(ソフトバンク)
2017年 宮﨑敏郎(DeNA)
2018年 松田宣浩(ソフトバンク)
2019年 大山悠輔(阪神)
2020年 岡本和真(読売)
2021年 茂木栄五郎(楽天)

遊撃:源田壮亮(西武)

遊撃では源田壮亮がトップ評価となりました。源田はこれでルーキーイヤーから6年連続で1位。チームメイトの外崎とは、二遊間で3年連続ダブル受賞となっています。守備面では文句なしで12球団トップのコンビと言えるのではないでしょうか。

ただ2位以下は例年とは大きく異なるメンバーに。2位には長岡秀樹 (ヤクルト)、3位には土田龍空(中日)、4位には上川畑大悟(日本ハム)と、今季一軍に定着した選手が一気に上位に食い込みました。

一方、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(読売)、大和(DeNA)ら、かつてリーグをけん引した遊撃手は中位から下位に沈む結果に。最も競争力の高いポジションということもあり、激しい世代交代が起こっています。

遊撃手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(遊撃)
2016年 安達了一(オリックス)
2017年 源田壮亮(西武)
2018年 源田壮亮(西武)
2019年 源田壮亮(西武)
2020年 源田壮亮(西武)
2021年 源田壮亮(西武)


左翼:西川遥輝(楽天)

左翼は西川遥輝がトップ評価になりました。全アナリストが1位票を投じ、90点満点での選出となりました。西川遥の受賞は2016年以来2度目。ここ数年はUZRの評価も芳しくありませんでしたが、移籍1年目で能力の高さを見せつけました。

また2位には荻野貴司(ロッテ)、3位には西川龍馬 (広島)と、中堅も守れる機動力のある選手が名前を連ねています。これは西川遥も同様です。アナリストからは、かつてのように守備面で明確に大きな問題を抱えた左翼手が見られなくなってきた旨も指摘されました。ここ10年ほどで大きく状況は変わっているようです。

左翼手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(左翼)
2016年 西川遥輝(日本ハム)
2017年 中村晃(ソフトバンク)
2018年 島内宏明(楽天)
2019年 金子侑司(西武)
2020年 青木宣親(ヤクルト)
2021年 荻野貴司(ロッテ)

中堅:塩見泰隆(ヤクルト)

中堅ではヤクルトをリーグ優勝に導いた塩見泰隆がトップとなりました。塩見には1位票が5票投じられ、合計80ポイントを獲得しています。ただ他ポジションに比べると票は割れており、塩見には4位票や5位票も入りました。分析手法によって大きく差が出たようです。2位には髙部瑛斗(ロッテ)。アナリスト2名が1位票を投じました。

また、中堅も遊撃同様、守備面で競争が激しいポジションだけに、世代交代が起こっています。かつては名手級と評価された大島洋平(中日)や丸佳浩(広島)は8人中なんと7位、8位。多くのアナリストから加齢が守備力に与える影響の例として、指摘が挙がりました。コンバートのサインと見るべきかもしれません。

中堅手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(中堅)
2016年 丸佳浩(広島)
2017年 丸佳浩(広島)
2018年 桑原将志(DeNA)
2019年 神里和毅(DeNA)
2020年 近本光司(阪神)
2021年 辰己涼介(楽天)

右翼:岡林勇希(中日)

右翼は今季ブレイクした岡林勇希がトップとなりました。岡林はアナリスト全員が1位票を投じ、満票での受賞。UZRでも圧倒的な値を記録しましたが、アナリストによる分析でもその評価は変わらなかったようです。「どんな分析方法を使っても1位になるのでは」と、そのパフォーマンスの傑出について驚きのコメントも出ています。

また右翼部門は2位票も集中しました。2位は万波中正(日本ハム)です。打撃に注目が集まる選手ですが、意外にも守備力も高く評価されているようです。3位には佐藤輝明(阪神)、4位には愛斗(西武)と続きました。

また柳田悠岐(ソフトバンク)や杉本裕太郎(オリックス)、グレゴリー・ポランコ(読売)は下位に低迷。このポジションも年齢の影響が色濃く出たランキングとなりました。

右翼手編の採点・分析はこちらから

過去の受賞者(右翼)
2016年 鈴木誠也(広島)
2017年 上林誠知(ソフトバンク)
2018年 上林誠知(ソフトバンク)
2019年 平田良介(中日)
2020年 大田泰示(日本ハム)
2021年 岡島豪郎(楽天)


なお、アナリストの採点、各ポジションについての批評は、後日別記事で公開いたします。どうぞ楽しみにお待ちください。

過去のFIELDING AWARDSの結果はこちらから
2016年 2017年 2018年 2019年 2020年 2021年

  • [3]DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。そんな中でも、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、フレーミング評価を解禁しています。
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