野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2023”
“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は中堅手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象中堅手に対する7人のアナリストの採点
中堅手部門では近本光司(阪神)が受賞者となりました。近本はアナリスト7名全員から1位票を集め、70点満点での受賞となりました。今年度の本企画における唯一の満票受賞です。ちなみに近本は2020年にもトップになっており、今回の受賞は2度目です。アナリスト市川博久氏からは「ほぼすべての方向の打球を高い割合で処理しており、大きな弱点が見当たらない」とのコメント。アナリスト宮下博志は守備範囲評価の値から「文字通り桁違い」と絶賛の声が出ています。
2位以下には秋山翔吾(広島)、桑原将志(DeNA)、ルイス・ブリンソン(読売)。秋山についてアナリスト道作氏からは、35歳と中堅手としては高齢ながら上位に食い込んだことに驚きの声が上がりました。
5位には岡林勇希(中日)。昨季右翼手で圧倒的な成績を残した選手ですが、中堅ですぐ上位に食い込むことはできませんでした。アナリスト竹下弘道氏からは「やはり中堅は実績のある選手にとっても難所」との声がありました。一方で2位票を投じたアナリスト市川氏は「中堅手としては大きな問題はない」ことを強調しています。
ノミネート外の選手に焦点を当てると、宮下氏の分析では江越大賀(日本ハム)がわずか394.1イニングの出場ながら、近本と同等レベルの守備範囲評価を獲得していたようです。以前より圧倒的な身体能力で評判の高い選手ですが、この数字を聞くとそうした評価も納得できます。
各アナリストの評価手法(中堅手編)
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRでも大きく順位は変わっていません。トップは今回受賞となった近本。UZR9.5は、同じ1111.3イニングを平均的な外野手が守っていた場合に比べ9.5点チームの失点を多く防いでいたことを意味します。
この近本が他選手に大きな差をつけたのが、やはり守備範囲評価RngRです。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。
以下表内の距離、ゾーンは打球がフィールドのどういった位置に飛んだかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な中堅手に比べどれだけ失点を防いだかです。
近本光司(阪神)
トップの近本が得意としているのは後方の打球です。具体的に数値を見ると、フェンスに近い距離8の打球で近本は平均的な中堅手に比べて合計11.5点もの失点を防いでいました。特に左中間への強さは抜群で、この打球に対する処理が他の中堅手との最大の違いです。
秋山翔吾(広島)
UZRで2位に入った秋山ですが、守備範囲評価については0.8と平均レベルでした。具体的に見ると近本同様、フェンス際距離8の打球をアウトにし失点を防いでいたようです。一方で定位置から左右に大きく離れた左中間I・J、右中間Qといったゾーンでは失点を増やしてしまっていたようです。とはいえ35歳のシーズンでこれだけの成果を残せるのは驚異的です。
ルイス・ブリンソン(読売)
ブリンソンの守備範囲評価は3.5。今回のノミネートの中では近本に次ぐ数字を残しています。際立って特徴的な点はありませんが、定位置から後方の距離7・8の打球を比較的得意にしている様子はわかります。
桑原将志(DeNA)
桑原もフェンス際距離8の打球で多くの失点を防ぎました。後方の打球に強かったのは昨季同様です。一方でそれほど深くなくても左右に振られた打球でやや失点を増やしてしまっています。桑原も30歳とそろそろ衰えがパフォーマンスに表れてもおかしくない年齢になってきました。
岡林勇希(中日)
岡林ははっきりとした傾向が出ているわけではありません。フェンス際距離8の打球は強み・弱みになっているエリアが交互に登場し、全般的に強いという結果とはなりませんでした。ただ右中間の打球についてはやや弱点となっている様子が読み取れます。
辰己涼介(楽天)
辰己はこれまで紹介した中堅手とは異なり、はっきりとフェンス際距離8が弱点となっています。定位置のほぼ真後ろにあたるゾーンLやMで失点を増やしてしまっていたようです。辰己は昨季もこの定位置後方で失点を増やしてしまっており、年度をまたいで一貫した傾向が出ています。
中川圭太(オリックス)
中川は辰己と異なり後方の打球で多くのアウトを獲得しています。フェンス際距離8の打球で平均的な中堅手に比べ7.2点多く失点を防ぎました。一方で定位置周辺、またやや前方の打球で失点を増やしてしまっています。基本的なポジショニングがやや後方にあるのかもしれません。
藤原恭大(ロッテ)
今季まさかの守備範囲評価-12.7と大きなマイナスとなった藤原。どういった打球で失点を増やしていたかを見ると、全体的に多くのエリアが平均以下の数字に終わっています。特にフェンス際距離8の打球では合計-8.0点。かなり多く失点を増やしてしまいました。
来季の展望
今季は近本が圧倒的な成績でトップとなりました。ですがこの地位が長く継続できると考えるのは楽観的です。近本もすでに29歳と、守備面で衰えが出ておかしくない年齢になっています。また来季は昨季近本を上回る成績で受賞した塩見泰隆(ヤクルト)も帰ってくるはずです。混戦が期待できるのではないでしょうか。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表