野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、2023年の日本プロ野球での野手の守備による貢献をポジション別に評価し表彰する“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表します。これはデータを用いて各ポジションで優れた守備を見せた選手――いうならば「データ視点の守備のベストナイン」を選出するものです。
“DELTA FIELDING AWARDS”について
“DELTA FIELDING AWARDS”は、米国のデータ分析会社Sports Info Solutionsが実施しているデータを用いた選手の守備評価表彰“THE FIELDING BIBLE AWARDS”に倣ったものです。
“THE FIELDING BIBLE AWARDS”は2006年から行われており、この流れを受け米国ではデータ視点で守備を評価する流れが非常に強くなっています。MLBでは近年、ゴールドグラブ賞の選定にデータを考慮するという方針転換が行われました。データの視点で守備を評価することのプライオリティが高くなっていることは確かなようです。
DELTAでは、日本においてもこうしたデータ分析を通じた守備の評価を定着させるため、2016年よりこうした表彰を行っており、今年が8回目となります。今回は7人のアナリストが参加し、2023年シーズンにおける野手の守備について個々の手法で分析・評価・採点を行いました。
セイバーメトリクスの守備指標というと、UZR(Ultimate Zone Rating)が一般的にも知られるようになってきています。こうした指標がある以上、それぞれのアナリストがまた別に分析をやり直し、投票を行う必要はないのではないかと思われるかもしれません。しかし、UZRは守備による貢献を評価するベーシックな手法の1つに過ぎません。グラウンドでは数多くの出来事が発生しますが、それをどのように拾い上げて守備の評価に用いるか、その手法はいくらでもあります。“DELTA FIELDING AWARDS”では、より多角的な視点による分析を評価に反映させるため、このような手法をとっています。
- 過去のFIELDING AWARDSの結果はこちらから
- 2016年
2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
評価の対象選手
2023年に各ポジションで500イニング以上を守った選手
選出方式
7人のアナリストがそれぞれの評価に基づき、各ポジションの対象選手に1位=10点、2位=9点……10位=1点、11位以下は0点といったかたちで採点。合計点がポジション内で最も高かった選手を選出
参加アナリスト
・岡田 友輔(@Deltagraphs)
・道作
・佐藤 文彦(@Student_murmur)
・市川 博久(@89yodan)
・宮下 博志(@saber_metmh)
・竹下 弘道(@RCAA_PRblog)
・二階堂 智志(@PennantSpirits)
“DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手
それでは受賞者を発表していきます。
捕手部門では日本一を達成した阪神の坂本誠志郎がトップ評価を得ました。坂本には7人のアナリストのうち6人が1位票を投じ、70点中63点を獲得しています。
捕手については、本企画の2018年よりDELTA取得の投球データを使ったフレーミング(ストライクコールを呼び込む捕球)もアナリストによっては評価対象としています[1]。
坂本はこのフレーミングの分野で圧倒的な好成績を収めました。例年阪神では梅野隆太郎がこの分野で高評価を収めていましたが、今季に関しては坂本が大きく上回ったようです。2位には僅差で大城卓三(読売)、3位には中村悠平(ヤクルト)と続きました。
また例年、本企画で世間での評価ほどには振るわない甲斐拓也(ソフトバンク)ですが、今季は4位と上位につけています。例年低迷するフレーミング指標に明確な改善が見られたようです。どのような改善が見られたのか、詳細は後日、別記事で紹介いたします。
- 【捕手部門】歴代受賞者
- 2016年 若月健矢(オリックス)
2018年 小林誠司(読売)
2019年 梅野隆太郎(阪神)
2020年 木下拓哉(中日)
2021年 大城卓三(読売)
2022年 大城卓三(読売)
2023年 坂本誠志郎(阪神)
一塁も同じく阪神の大山悠輔が1位となりました。アナリスト7人中5人から1位票を集め、70点満点中68点を獲得しています。大山は2019年の本企画において三塁手部門ですでに受賞していたため、複数ポジションでのトップ獲得となります。
2位には僅差でデビッド・マキノン(西武)。1位票を2票獲得しました。昨年の受賞者ネフタリ・ソト(DeNA)は3位。ほかに一塁で受賞経験のあるダヤン・ビシエド(中日)、中村晃(ソフトバンク)、中田翔(読売)はそれぞれ5位、8位、10位と順位が伸びませんでした。
- 【一塁手部門】歴代受賞者
- 2016年 中田翔(日本ハム)
2017年 ホセ・ロペス(DeNA)
2018年 井上晴哉(ロッテ)
2019年 内川聖一(ソフトバンク)
2020年 ダヤン・ビシエド(中日)
2021年 中村晃(ソフトバンク)
2022年 ネフタリ・ソト(DeNA)
2023年 大山悠輔(阪神)
二塁では吉川尚輝がトップ評価となりました。2020年から昨季までは3年連続で外崎修汰(西武)がトップとなりましたが、吉川が外崎の4連覇を阻んでいます。吉川にはアナリスト7人中4人が1位票を投票。67点を獲得しています。2位となった外崎とは14もの点差をつけており、断トツの成績だった様子が伺えます。侍JAPAN入りを推す声もありました。
3位以下には中野拓夢(阪神)、牧秀悟(DeNA)、山田哲人(ヤクルト)と続きました。中野には1位票も3票と、吉川以上と見るアナリストも少なくありません。
2016-18年に本企画3連覇を果たした菊池涼介(広島)は11人中6位。アナリストからは守備範囲の縮小が指摘されています。外崎の陥落、菊池の順位低下と、二塁手部門は世代交代を強く感じさせるかたちとなりました。
- 【二塁手部門】歴代受賞者
- 2016年 菊池涼介(広島)
2017年 菊池涼介(広島)
2018年 菊池涼介(広島)
2019年 阿部寿樹(中日)
2020年 外崎修汰(西武)
2021年 外崎修汰(西武)
2022年 外崎修汰(西武)
2023年 吉川尚輝(読売)
三塁は栗原陵矢が受賞となりました。アナリスト7人中6人が1位票を投じ、ほぼ満点の69点を獲得しています。今季は打撃不振や故障離脱に苦しみましたが守備に関しては極めて優れており、少ない出場機会ながらチームの失点を数多く防いでいたようです。アナリストからは「他を寄せつけない圧倒的な守備範囲」という声も聞かれました。
昨季受賞の安田尚憲(ロッテ)は2位。最も大きく評価が分かれたのが佐藤輝明(阪神)で、1位票と9位票が混在していました。評価が割れた結果5位に落ち着いています。
また今回対象とならなかった門脇誠(読売)の三塁守備を絶賛する声も出ています。
- 【三塁手部門】歴代受賞者
- 2016年 松田宣浩(ソフトバンク)
2017年 宮﨑敏郎(DeNA)
2018年 松田宣浩(ソフトバンク)
2019年 大山悠輔(阪神)
2020年 岡本和真(読売)
2021年 茂木栄五郎(楽天)
2022年 安田尚憲(ロッテ)
2023年 栗原陵矢(ソフトバンク)
大注目の遊撃には波乱が起きています。遊撃でトップ評価を得たのは長岡秀樹。遊撃部門はこれまで6年連続で源田壮亮(西武)がトップを独占していましたが、今季ついにその牙城が崩れました。長岡はアナリスト7人のうち3人から1位票を集め65点を獲得しています。
さらに驚きなのは源田が長岡に次ぐわけでもないということです。源田は51点を獲得しての4位。多くのアナリストが4〜5位票を投じました。アナリストの中には長らく続いた「源田時代」の終焉を指摘する声も。「歴代屈指の名遊撃手がついにトップを明け渡したという意味で歴史的なシーズン」とのコメントもありました。源田もすでに30歳。加齢の影響が強く出てきたのかもしれません。
源田を上回り2・3位に入ったのは龍空(中日)、村林一輝(楽天)。若い選手が上位に食い込んでいます。源田のほかにも坂本勇人(読売)、京田陽太(DeNA)、今宮健太(ソフトバンク)など、かつて守備指標で上位を席巻した遊撃手が下位に沈んでおり、世代交代を強く感じさせる結果となっています。
- 【遊撃手部門】歴代受賞者
- 2016年 安達了一(オリックス)
2017年 源田壮亮(西武)
2018年 源田壮亮(西武)
2019年 源田壮亮(西武)
2020年 源田壮亮(西武)
2021年 源田壮亮(西武)
2022年 源田壮亮(西武)
2023年 長岡秀樹(ヤクルト)
左翼は近藤健介が1位となりました。近藤は70点満点中67点を獲得し、最高評価を得ています。UZRの評価でも838.1イニングを守り14.3と左翼手トップの成績を残していましたが、アナリストによる投票でも結果は同様でした。
ただこの左翼は1位争いが最も僅差だったポジション。2位の松本剛(日本ハム)も66点を獲得し、近藤とはわずか1点差でした。1位票と2位票はこの2名がすべて取り合っています。松本は近藤に比べて、送球による進塁抑止貢献が光っていたようです。
下位グループには杉本裕太郎(オリックス)、佐野恵太(DeNA)といった打撃型の選手が並んでいます。ただそれでもアナリストからは「かつてに比べると致命的といえるほど守備力が低い選手はおらず、選手間のばらつきが小さくなっている」というコメントも出ています。
- 【左翼手部門】歴代受賞者
- 2016年 西川遥輝(日本ハム)
2017年 中村晃(ソフトバンク)
2018年 島内宏明(楽天)
2019年 金子侑司(西武)
2020年 青木宣親(ヤクルト)
2021年 荻野貴司(ロッテ)
2022年 西川遥輝(楽天)
2023年 近藤健介(ソフトバンク)
中堅は近本光司が受賞となりました。近本は今回唯一の1位満票。満場一致での選出となっています。ちなみに近本は2020年にもトップとなっており、今回が2度目の受賞となりました。
2位以下は混戦。2位には秋山翔吾(広島)が選出されています。秋山はすでに35歳を迎えた選手だけに、高順位にアナリストから驚きのコメントも上がっていました。また昨季右翼手部門をぶっちぎっての受賞となった岡林勇希(中日)は5位。フルシーズンでの転向初年度とあってか、レベルの高い中堅で上位に食い込むまでには至りませんでした。とはいえ2位票を投じたアナリストもいます。
今回対象にならなかった選手の中では、江越大賀(日本ハム)が近本に匹敵する守備範囲を見せているという声も聞かれました。
- 【中堅手部門】歴代受賞者
2016年 丸佳浩(広島)
2017年 丸佳浩(広島)
2018年 桑原将志(DeNA)
2019年 神里和毅(DeNA)
2020年 近本光司(阪神)
2021年 辰己涼介(楽天)
2022年 塩見泰隆(ヤクルト)
2023年 近本光司(阪神)
右翼は今季タイトル争いにも絡む大ブレイクを果たした万波中正がトップとなりました。万波といえば今季その強肩ぶりに大きな注目が集まりましたが、肩だけでなく守備範囲含め、守備全般で高く評価されています。アナリスト7人中6人が1位票を投じました。
2位にはオリックスのルーキー茶野篤政。万波が逃した唯一の1位票を獲得したほか、2位票を5票集めました。3位以下には野間峻祥(広島)、丸佳浩(読売)、森下翔太(阪神)。柳田悠岐(ソフトバンク)、細川成也(中日)、ドミンゴ・サンタナ(ヤクルト)ら打撃型の選手が下位グループに集中しました。
- 【右翼手部門】歴代受賞者
2016年 鈴木誠也(広島)
2017年 上林誠知(ソフトバンク)
2018年 上林誠知(ソフトバンク)
2019年 平田良介(中日)
2020年 大田泰示(日本ハム)
2021年 岡島豪郎(楽天)
2022年 岡林勇希(中日)
2023年 万波中正(日本ハム)
なお、アナリストの採点、各ポジションについての批評は、後日別記事で公開いたします。どうぞ楽しみにお待ちください。
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2017年
2018年
2019年
2020年
2021年
2022年
[1]DELTA取得の投球データは目視により入力されたものであり、機械的に取得したデータと比べた際には精度の部分で課題を抱えています。そんな中でも、データ入力におけるルールの厳格化、分析時のデータの扱いにおいて注意を払うことを徹底したうえで、フレーミング評価を解禁しています。
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