野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は左翼手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象左翼手に対する7人のアナリストの採点
左翼手部門では近藤健介(ソフトバンク)が受賞者となりました。近藤はアナリスト7人のうち4人が1位票を投じ、70点満点中67点を獲得しています。近藤の受賞は初めて。昨季は中堅を守りましたが、競争が激しくない左翼にポジションを移したこともあり、高いパフォーマンスとなりました。
2位は松本剛(日本ハム)。近藤とはわずか1ポイントの僅差でした。3位、4位は大島洋平(中日)、西川龍馬(広島)。過去に中堅でのプレーを経験した4名が上位を占めています。やはり中堅を守るほど能力の高い選手だと、打撃特化型の左翼手とは大きな差がつくのかもしれません。
ただ竹下弘道氏によると、それでも左翼手はかつてに比べると致命的なマイナス評価を出す選手が減少したとのこと。この理由としてデータの定着により守備のマイナスが可視化されたことを指摘しています。これは左翼手に限らず、どのポジションも選手間の差は小さくなっているとのこと。NPBでもデータによる守備評価の広がりはすでに現場に大きな影響を与えているように見えます。
各アナリストの評価手法(左翼手編)
- 岡田:ベーシックなUZR(守備範囲+進塁抑止+失策抑止)をやや改良。守備範囲については、ゾーン、打球の滞空時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手は打球処理を細かく分析。タッチアップの評価も補助的に活用した
- 市川:UZRと同様の守備範囲、進塁抑止、失策抑止の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる評価法を採用。定位置からの距離と滞空時間で区分し分析
- 宮下:守備範囲、進塁抑止による評価
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
UZRの値を見ると、1位から8位までの序列はアナリストによる投票の結果とまったく変わりがありません。やはり1・2位は飛び抜けたかたちで近藤、松本の順でした。近藤は838.1イニングを守り、同ポジションの平均的な選手に比べチームの失点を14.3点減らしたということになります。
この近藤や松本が他選手に大きな差をつけたのが、やはり守備範囲評価RngRです。具体的にどういった打球を得意・不得意としているのか、各選手の処理状況を確認していきましょう。
以下表内の距離、ゾーンは打球がフィールドのどういった位置に飛んだかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な左翼手に比べどれだけ失点を防いだかです。
近藤健介(ソフトバンク)
トップの近藤は全般的に広く打球を処理しています。なかでも特に強みとしているのはゾーンHやIなど、左中間の打球でしょうか。また後方の打球も多く処理し他の左翼手との差をつくっていたようです。近藤は昨季中堅も守っていた選手。中堅に比べ競争力の低い左翼の中ではレベルの違いを見せました。
松本剛(日本ハム)
松本は近藤に比べると定位置から前方に多く失点を防いだエリアが集まっています。内野からも外野からも距離がある、ちょうど中間地点距離5の飛球を多く処理し違いを作っていたようです。
大島洋平(中日)
大島については後方フェンス際距離8の打球、また前方の距離5の打球で大きな加点を得ていました。一方でアナリスト市川博久氏からは「速い打球の処理が難しくなってきている」とのコメントもありました。
西川龍馬(広島)
西川は定位置から左翼線寄りを得意としています。一方で左中間には弱点が生まれていました。これは昨季から同様で、西川の左翼守備の特徴なのかもしれません。
秋広優人(読売)
読売の若手・秋広優人は打撃型の選手とあってかやはりそれほど多くの失点を防げてはいません。定位置周辺の打球があまりアウトにできていないようです。一方でかなり中堅寄りの左中間Iのゾーンで数多く加点を得ており、ただ単純に守備範囲が狭い選手ではない様子も見えています。
シェルドン・ノイジー(阪神)
ノイジーは外野の前方距離5の打球で多く失点を喫していました。また左中間の打球でもアウトをとれずこれがUZRの大幅なマイナスの原因となっています。一方で定位置から左翼線後方の打球には強みを見せています。
杉本裕太郎(オリックス)
杉本は全体的に多くのエリアで失点を増やしてしまっています。その中でも定位置から左翼線方面で多くの失点を喫しているようです。距離7ゾーンDは-3.6点と大きく失点を増やしたエリアとなりました。一方で左中間については比較的強いようです。もしかするとポジショニングがやや左中間寄りにある選手なのかもしれません。
佐野恵太(DeNA)
佐野は今季も守備範囲評価で-9.8点と大きなマイナス評価となっています。定位置周辺の打球については平均以上の処理能力を見せていますが、そこから少し離れると途端にマイナスにエリアが続出しはじめます。Dのゾーンで多くの失点を喫しているのは昨季同様でした。
来季の展望
今季は中堅手を経験したこともある選手が上位を占めることになりました。これは実は西川遥輝(現ヤクルト)が受賞した昨季も同様。今季は近藤が受賞となりましたが来季以降も安泰というわけではなく、中堅手の左翼コンバートがあれば趨勢は変わってきそうです。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表