野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は一塁手編です。受賞選手一覧はこちらから。

対象一塁手に対する7人のアナリストの採点

一塁手部門では大山悠輔(阪神)が受賞者となりました。アナリスト7人のうち5人が1位票を投じ、70点満点中68点を獲得しています。大山は2019年に三塁手として一度受賞しており、本企画では複数ポジションにまたがっての受賞となりました。

2位には4ポイント差でデビッド・マキノン(西武)。こちらは1位票を2票獲得しました。大山もマキノンもともに一塁だけでなく三塁も守れる選手。より競争力の激しいポジションで通用する守備力がある選手だけに、一塁では上位の守備力になったといえるかもしれません。アナリスト宮下が行った打球処理を捕球と送球に分ける分析によると、捕球までについては2位マキノンが大山を上回っていたようです。

また一般的に名手とされる中村晃(ソフトバンク)中田翔(読売)のポイントが伸び悩んでいるところも面白いところです。中村はこの一塁手部門における2021年の受賞選手。わずか2年の間にパフォーマンスが大きく低下しています。

 
    各アナリストの評価手法(一塁手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。守備範囲についてはゾーン、打球到達時間で細分化して分析。またスクープ(送球のショートバウンド、ハーフバウンド捕球)評価を追加
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け。スクープ評価含む
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZR同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施。スクープ評価も行った

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見るとトップはUZR11.3を記録した大山。マキノンが6.5で2位。アナリストが細かく分析した投票とUZRでそれほど大きな差は見られていません。選手間の差を生んだのはやはり守備範囲評価(RngR)。一塁手というと守備範囲に注目が集まることは少ないですが、やはり他ポジションと変わらずここで差がつきやすいようです。

この最も大きな差がついている守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1と対応して見てください。値は平均的な一塁手に比べどれだけ失点を防いだか。「RngR守備範囲」の欄が合計値です。

これを見ると、各一塁手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。1位の大山はゾーンTやVなど一二塁間、またゾーンXの一塁線ともに他選手以上の処理能力を見せていたようです。定位置にあたるゾーンWの打球も明確に他選手より処理できており、優位を作りました。マキノンも大山ほどではありませんが一二塁間、一塁線ともに高い処理能力を発揮しています。

ネフタリ・ソト(DeNA)頓宮裕真(オリックス)ホセ・オスナ(ヤクルト)は一塁線は平均かそれ以下ですが、一二塁間で強みを発揮。特にオスナは一塁線で極めて大きな損失を記録していますが、一二塁間には全体的に強いようです。オスナのこの傾向は昨季から続いており、ポジショニングが他選手に比べて一二塁間寄りにある様子が伝わってきます。

反対に一塁線で大きな強みを作る一方、一二塁間が大きな弱点となっているのが中村。昨年はどのゾーンに対しても平均レベルに処理できていましたが、今季はかなり極端な傾向が出ています。かなり一塁線に偏った処理傾向はポジショニングの問題かもしれません。全体的な守備範囲評価の低下は加齢やコンディション不良からきていると考えるのが自然でしょうか。

一塁手の捕球能力(スクープ)を評価する

UZRで加味できていない点についても見ていきましょう。一塁手は他のポジションと大きく異なる点として、送球を捕球する機会が極めて多いという事情があります。もちろんノーバウンドの送球についてはプロですからミスはめったに起こりません。しかしショートバウンドやハーフバウンドとなると、プロと言えどすべて捕球できるわけではありません。こういった難易度の高い送球の捕球は一塁手固有の能力と言っていいでしょう。このプレーは“スクープ”と呼ばれます。一塁守備について、このスクープで大きな差がついているのでは?UZRだけでは一塁守備の本質的な部分を捉えきれていないのでは?と疑問に思う人もいるかもしれません。

ただこれについても分析を行ったアナリストはいます。アナリスト二階堂智志はショートバウンド、あるいはハーフバウンドになったケース(タイミングがアウトのもの)をカウントし、それをアウトにした割合を算出。その値からスクープ得点を求めました。要するにショートバウンド、ハーフバウンド捕球で失点をどれだけ防いだか、です。

スクープ得点の順位を見ると中村がトップ。中村はショート、ハーフバウンドの捕球だけで、平均的な一塁手に比べ1.4点失点を防いだと推測されています。ちなみに中村は昨季もこの分野で高評価を得ていました。スクープ能力に長けた一塁手と言えそうです。守備範囲では上位に入ったマキノンもスクープでは下位に沈んでいます。スクープ技術で確かに選手間の差は生まれているようです。これは一塁手だけに特別に求められるスキルです。

ただ一方でこれによりついている得点差は大きくありません。トップの中村とワーストのオスナでもついた差はわずか2点ほど。スクープの巧拙によりシーズンでチームの失点は2点ほどしか変わらないということです。さきほど紹介した守備範囲評価では、トップとワーストで15点以上の差がついていました。スクープは一塁手固有のスキルで重要とされていますが、やはり守備の基本は打球処理。一塁手といえどそこが最重要であることは変わりません。

来季以降の展望

昨年も述べましたが、一塁手は他ポジションに比べ毎年受賞者が流動的なポジションです。契約期間が短い外国人選手が多いことも一つの原因でしょう。ただ今季受賞の大山は現在28歳とベテランが集まる一塁手としては若い選手です。コンバートがなければ一塁部門受賞の常連となるかもしれません。



データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表
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