野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データで選ぶ守備のベストナイン
“DELTA FIELDING AWARDS 2023”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は遊撃手編です。受賞選手一覧は
こちらから。
対象遊撃手に対する7人のアナリストの採点
遊撃手部門では長岡秀樹(ヤクルト)が65ポイントを獲得して受賞となりました。長岡はアナリスト7人のうち3人から1位票を獲得しています。これまで入団から6年連続でトップだった源田壮亮(西武)はなんと4位。歴代屈指の名手がついに首位から陥落することとなりました。源田についてアナリスト市川博久氏は「全盛期に比べると力を落としている」とコメント。ただ「トップではなくなったものの依然として守備範囲は広い」との評もありました。
長岡に次ぐ2位、3位に入ったのは龍空(中日)、村林一輝(楽天)。特に龍空は現在20歳とまだ若く、現在22歳の長岡とともに今後の遊撃を守備面でリードしていくことになるかもしれません。アナリスト道作氏からは「歴史的な名手候補」とのコメントがありました。打撃で結果を残し出場機会が増えれば、来季遊撃手部門受賞の有力候補となりそうです。
一方、長岡や龍空同様若い選手の代表格である紅林弘太郎(オリックス)は、12人中8位。ゴールデン・グラブ賞では受賞した源田にわずか1票差で迫りましたが、本企画での評価は振るっていません。
源田同様、坂本勇人(読売)、京田陽太(DeNA)、今宮健太(ソフトバンク)ら、かつて名手として鳴らした選手たちは下位に沈む結果となりました。打撃以上にアスリート能力が求められるのが守備です。身体的な衰えが守備指標に表れたのかもしれません。アナリスト竹下弘道氏によると「名手がぽっと出の若手に守備指標であっさり負ける光景は古い時代を遡っても多く見られる」とのこと。長らく続いた「源田時代」が終わり、遊撃は新時代を迎えようとしています。
各アナリストの評価手法(遊撃手編)
- 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
- 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
- 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
- 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
- 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
- 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
- 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
UZRの評価
各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。
これを見るとUZRの評価ではトップは龍空。受賞は長岡となりましたが、ベーシックな評価では龍空がわずかながらに上回っていました。ただ上位4選手は接戦であることはたしかです。
この4選手が他の遊撃手に大きな差をつけたのが守備範囲評価(RngR)。例えば龍空は682.2イニングを他の平均的な遊撃手が守った場合に比べ、守備範囲で10.1点多くチームの失点を防いだということになります。
この最も大きな差がついた守備範囲評価(RngR)について、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。
以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な遊撃手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。
これを見ると、各遊撃手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。
UZRでトップとなった龍空が得意としているのは三遊間の打球。定位置より三遊間寄りの打球で合計10点以上チームの失点を防いだようです。一方、三遊間に比べると二遊間はやや苦手としています。ただそれでも大きなマイナスは作っておらず平均レベルの守備範囲は見せているようです。村林についても龍空と似た傾向でした。
この龍空の三遊間特化のスタイルをより強調したかたちとなったのが“FIELDING AWARDS”受賞となった長岡。長岡も龍空同様かなり三遊間で多くの失点を防いでいます。ゾーンHでは平均的な遊撃手に比べ7.5点もの失点を防ぎました。一方で二遊間については大きなマイナスが出ています。ゾーンLでは平均的な遊撃手に比べ6.8点多くチームの失点を増やしてしまいました。三遊間に強いうえに二遊間も平均レベルにとどめた龍空とはここで違いが生まれています。木浪聖也(阪神)、上川畑大悟(日本ハム)も似たような傾向が出ていました。
源田は龍空らと違い、二遊間で強みを作りました。ゾーンLで多くの失点を防いだのは昨季同様です。三遊間の打球でも平均を上回る処理能力を見せており、やはり衰えたとはいえハイレベルな遊撃手であることを実感させます。
源田同様二遊間に強いものの三遊間が弱点となってしまったのが、藤岡裕大(ロッテ)、紅林、今宮。特に今宮の三遊間は極めて大きな弱点で、ゾーンG、H、Iで合計17点以上チームの失点を増やしてしまっています。もともとのポジショニングが二遊間寄りにあるうえ、身体的な衰えが大きく出た結果こうした数値となってしまっているのかもしれません。かつては広い守備範囲で名を轟かせた選手ですが、守備指標はコンバートを推奨するアラートを鳴らしているように見えます。
「源田時代」が終焉? 新時代に突入か
アナリスト道作氏は今季を「歴代屈指の名手・源田がUZRでトップを明け渡した歴史的なシーズン」と評しています。それほどまでに入団以降の源田の存在は圧倒的でした。ただそんな源田も30歳を迎えさすがに衰えを隠せていません。来季以降の巻き返しに期待したいところですが、数年前ほどの傑出を残すのは難しいかもしれません。来季以降も候補の一人ではあるでしょうが、圧倒的な有力候補というわけにはならないでしょう。長岡、龍空、村林らと源田が横並びで争っているという図が現状認識が適切かもしれません。
またここにノミネートされていない選手が来季一気に上位にくる可能性も大いにあります。今季500イニングには届きませんでしたが遊撃、三塁で驚異的な守備を見せた門脇誠(読売)、ファームで優れた守備成績を残し続けている森敬斗(DeNA)あたりは隠れた候補と言えるかもしれません。レギュラーを獲得できれば一気に上位に食い込んでくる可能性がありそうです。
最後に、今季は長年読売の遊撃を務めてきた坂本がシーズン途中に三塁にコンバートされました。阿部慎之助新監督は坂本の三塁起用を来季も継続する方針を示しており、今季が遊撃手として最後のノミネートとなるかもしれません。
坂本は結局2016年にスタートした本企画で現状一度も受賞とはなっていません。ただ毎年上位には食い込み続け、安達了一(オリックス)、源田の2人がいなければ、何度も受賞していてもおかしくない成績を残しています。データで見ることでよりその価値の大きさがわかる守備でした。2015年のUZR29.7は1.02がデータを掲載している2014年以降で見たときの最高値。安達も源田も1年でこれほどの傑出を見せたことはありません。惜しくも受賞とはなりませんでしたがその功績を称える意味でデータを紹介させていただきます。
データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2023”受賞選手発表