はじめに
今回は広島の福井優也投手について分析します。2015年にまずまずの成績を残し、2016年は飛躍を期待された福井投手ですが、序盤は出遅れ気味で一度二軍に降格します。7月末に復帰後、安定した投球を続けていた矢先、8月最終日の登板直前に傍脊柱筋筋膜炎により抹消となってしまいました。
故障の深刻さと離脱期間はわかりませんが、幸いチーム状況には余裕があり、プレーオフを見越した調整と前向きに考えるのが良いかと思います。
前・後期での成績の比較
さて、福井選手の今季は、シーズン中盤の降格していた時期を挟んで、前期(3/27-5/8)と後期(7/28-8/24)といった形で分けることができます。今回はこの前期と後期で成績を比較し、苦しんだ前期に対し、復調した後期にどのような変化があったのかを見ていきます。
前期と比較すると、後期は防御率と被本塁打率(HR/9)が良化しました。一方で、与四球率(BB/9)は高くなっています。福井投手はプロ入り以来、制球の問題を抱えていますが、成績の安定した後期であっても、特に四球が減少したということは無いようです。
こうした成績の変化の背景に何があるのかを、球種から見ていきたいと思います。福井投手の球種別のデータをまとめたものを以下の表1に示します。
前期と比較すると、後期はストレートの割合は同程度で、シュートとカットボールの割合が減少し、その分フォークボールの割合が増えていることを確認できます。
Pitch Valueに目を移すと、全体的にマイナスだった前期の得点価値が、後期には平均並みからプラスに転じています。その中でも得点価値の大きいフォークが、後期の福井投手の強みといえます。以降、このフォークについて分析していきます。
フォークの投球位置と投球内容
それでは、福井投手のフォークについてまずは投球座標をプロットしたものから、前期と後期の内容を比較したいと思います。
まずは、左打者に対するフォークについて、図2-1に前期、2-2に後期のデータを示します。
図を見た特徴として、前期に多く見られた低めの空振りが後期は減少しています。一方、前期のストライクゾーン高めのヒットは後期に減少しています。
続いて、右打者に対するフォークについて、図2-2Aに前期の図2-2Bに後期のデータを示します。
大きな違いはないように見えますが、後期は右打者の内角高めのボールとなるフォークが多いほか、全体的にファウルをよくとっているのがわかります。
こうした図は、直観的に傾向を掴むには適していますが、前期と後期で投球数が異なるので、見逃しや空振りといった投球内容の内訳の変化を理解することには向きません。そこで、前後期で投球内容を比較したものを図3に示します。
左打者の投球内容は、後期では、前期よりも空振りが減少し、ファウルとOut(凡退)の割合が増えています。右打者では、空振りの減少はわずかですが、被安打が大きく減少し、やはりファウルとOut(凡退)の割合が増えています。
この結果より、前期は空振りを取るのに使っていたフォークが、後期ではファウルでカウントを稼ぎ、凡退に打ち取る役割に変化しているといえます。
広島 福井の幻惑フォークを分析という記事で、広島の畝投手コーチは、福井投手のフォークの落差が以前ほどは無くなったこと、そのため打者を幻惑するためにフォークを使うようになったと指摘しています。この「幻惑」の具体的な効果が、ファウルでカウントを稼ぎ、凡退に打ち取る役割だったといえると思います。
まとめ
怪我の功名といえるのか、以前ほど空振りを取れなくなったフォークを活用することで、7月後半からの福井投手の活躍を後押ししたというのは、野球の奥深さが表れていて面白いデータなのではないかと思います。せっかく身に着けたこのスキルを活かすべく、まずは故障からの復帰を待ちたいと思います。