配置転換後、与四球面を改善させ大谷不在を埋める活躍



日本ハムがソフトバンクと熾烈を極めたパ・リーグ首位争いを繰り広げている。最大11.5ゲームもの差を逆転し首位に浮上するなど、シーズン後半の勢いはとどまるところを知らない。この快進撃にはさまざまな要因が考えられるが、その中でも大きな役割を果たしたのが増井浩俊の先発転向だ。序盤、クローザーとして不振に陥り二軍に降格したが、8月に先発として復帰してからは完投、完封を見せるなど見事な投球を続け、一ヶ月以上登板のなかったエース・大谷翔平の穴を埋めてみせた。今回は先発転向によって増井の投球にどのような変化が起こったのか、データから迫ってみたい。


まず実際に投球結果がどのように変化しているかを確認しておきたい。投手の責任が大きい要素である、奪三振・与四球・ゴロの三つの項目でそれぞれどのような結果を残しているかを見てみよう。打席あたりの奪三振の割合を表すK%は先発転向後にダウンしている。救援時と違いスタミナを考慮しなくてはならない状況がこの結果につながっているのかもしれない。次に打席あたりの与四球の割合を表すBB%である。救援時の12.5%から先発転向後は5.2%と半減させている。おそらくこれが先発において成功している最大の要因だと思われる。打球がゴロになった割合を表すGB%は転向後もほとんど変わっていなかった。



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ストライクゾーンに次々と投げ込むスタイルを先発で確立


与四球を減らした原因を考えるためにさらに詳しいデータを見ていく。まずストライクゾーンに投げ込む確率を表すZone%を見ると、35.8%と平均を大きく下回っていた救援時から、先発転向後は43.8%と大幅に上昇。さらに投球の大半を占めるストレートのみに絞ったZone%を見ると、43.4%から56.1%と制球力に明らかな向上が見られる。一方で空振りをとる割合を表すSwStr%に大きな変化は見られず、ボールの質が良くなったというよりは、しっかりと制球できるようになったことが成功につながっていると考えたほうがよさそうだ。


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制球の向上に伴い、相手打者が積極的にスイングしている点も見逃せない。先発転向後は投手不利のカウントが非常に少なくなっている。一人の打者に対し3球投じた時点でどういったカウントになっているかを見ると、救援時は63人の打者に対し、12人が3ボール0ストライクとなっていたが、先発転向後は92人の打者に対し、わずか4度しかその状況を作らなかった。割合で見ると19.0%から4.3%へと激減しており、ストライクをとるのに苦労していない様子がわかる。また、先発転向に際し、救援時には投げていなかったカーブを13.1%の割合で投じており、この緩い球もカウントを整えるのに一定の効果をあげている。





先発時でも球速は安定 大谷、藤浪に次ぐパワーピッチャーに



ここまで増井の先発転向前後での変化を見てきたが、これは単に二軍に降格している間に不調期を抜けただけという可能性もあり、先発に転向したがゆえの成功とは言い切れない。しかし増井は先発への適性も確実に見せている。


増井の先発時におけるストレートの平均球速は148.2キロ。救援時の平均150.0キロには劣るものの、かなり高いアベレージを記録している。今季はじめ先発に転向していた阪神・藤川球児が先発時139.2キロ、救援への配置転換後は145.5キロと大きく差がついていることを考えると、増井の速い球を投げ続ける能力の高さがわかるだろう。


またリリーフ出身のため、プロで長いイニングを投げた経験は少ないが、イニングを経ても球速が落ちる様子は全く見られない。図1は箱ひげ図といい、ここではイニングごとの球速のバラつきを表している。増井の箱ひげ図を見ると、バラつきが非常に小さいほか、どのイニングでも中央値は148キロを超えており、完投した試合の終盤でも高水準のスピードをコンスタントに出し続けている。スタミナ面での不安は全くなさそうだ。今季100イニング以上を投げた投手で先発・増井を超える平均球速を記録しているのは154.1キロの日本ハム・大谷翔平、148.9キロの阪神・藤浪晋太郎のみである。増井は先発としても球界屈指のパワーピッチャーなのだ。



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優秀な先発投手を確保することは非常に難しく、新外国人やフリーエージェントなど外部からの補強に頼っても成功する確率は決して高いとはいえない。補強期間も終了し、外部からの戦力アップが望めない状況で、日本ハムは配置転換のみでエース級の投手を創りだすことに成功した。増井の先発適性を見抜き、本人を説得し、見事に復調させた日本ハム首脳陣の手腕は賞賛に値する。シーズン序盤、独走状態にあったソフトバンクをここまで追い詰めると誰が想像しただろうか。ここから先の勝負がどうなるかはわからないが、現在の状況をつくりだすのに増井の先発転向が非常に大きな役割を果たしたのは間違いない。


※データはすべて9月12日時点

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