各球団、現在は来季に向けて補強を具体的に検討している最中だろう。数ある補強チャンネルの中でも今年はFA市場に注目が集まる。権利行使可能な選手の陣容が例年以上に豪華であるためだ。先日は、それら選手たちにどの程度の価値があるのかを客観的に測る“FA選手ランキング”を作成した。

ただこれはあくまでフラットな視点での評価。当然ながら球団によって状況は異なる。本企画では各球団の状況を踏まえた上で、どの選手の獲得に動くべきか検討を行っていく。そしてその検討も2パターンを用意した。1つは無制限に資金があることを前提とした「理想的なシナリオ」、もう1つは各球団の予算を踏まえた「現実的なシナリオ」である。今回はソフトバンク編だ。
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野手のニーズを確認

まず総合指標WAR(Wins Above Replacement)をポジション別に見ることで、野手の現状戦力を確認しよう。WARは2.0がリーグ平均という目安で見てほしい。0.0がリプレイスメント・レベル(代替可能選手)だ。

野手は各ポジション、リプレイスメント・レベルを割っておらず、選手層の厚さがうかがえる。今季は長年課題となっていた二遊間がリーグ最高の傑出度を記録。今オフは大きな貢献を果たした今宮健太との契約が切れるが、それ以外の選手でも、三森大貴牧原大成周東佑京野村勇と陣容が充実してきた。また外野についても現有戦力に加え若手が台頭。戦力は一定以上のレベルを保っている。

ただソフトバンクのような常勝球団の場合、求めるレベルも高いはずだ。平均的なポジションのレベルをより引き上げるために、二遊間、外野に補強を行ってもよいだろう。特に打力のある選手は不足している。後述する投手力不足をカバーするためにも、より野手戦力を分厚くするという選択肢もある。

一方ではっきりと弱点になっているのが捕手である。捕手は2017年以降甲斐拓也がレギュラーに定着し、他球団にアドバンテージを作ってきた。しかし今季はその甲斐が打撃面で大不振に。結果、捕手は弱点になってしまっている。また甲斐は球界随一の守備力をもつと評価されている捕手だが、例年データ分析による評価で見た場合それほど秀でているわけではない。捕手はソフトバンクの中では比較的補強効果の高いポジションと言えるだろう。若手の渡邉陸もいるが、どれほどの選手になるかは未知数と考えるべきだ。

他にあえて挙げるならば一塁手だろうか。今季は中村晃が多く務めたが、一塁全体のWARは1.1とやや寂しい数字に終わってしまった。また中村晃については実はFA権を取得済み。今オフに契約が切れるため退団のリスクもある。ただ守れる選手も多いため捕手に比べると問題は小さいのではないだろうか。

野手まとめ:捕手。平均ポジションにさらに上積みをもたらすのであれば二遊間、外野。特に打力のある選手が望ましい

投手のニーズを確認

長年、他球団に投手力で差をつけてきたソフトバンク。だが今季はその分野でオリックスに非常に大きな差をつけられた。優勝を逃した大きな原因と言っていいだろう。さらに今オフはエース・千賀滉大海外FA権行使が決定的。今季チーム全体で記録した投手WARは20.8だが、千賀はそのうち4.9と大部分を占めた。退団となれば大ダメージを受けることになりそうだ。

2022年パ・リーグ投手WAR
球団 先発 救援 投手全体
オリックス 22.0 5.8 27.8
ソフトバンク 14.5 6.3 20.8
西武 14.5 5.6 20.2
日本ハム 16.1 3.4 19.9
ロッテ 16.2 3.7 19.9
楽天 12.0 6.0 18.2

成績予測システム“D-CAST”を使い、千賀が抜けた前提で来季のローテーション予想を見てみよう。予測値を見ると、トップの東浜巨のWARが2.0。続く石川柊太が1.9、大関友久が1.7と、ローテーション上位の投手ですら先発投手として平均レベルの貢献度にとどまっている。これらから考えると、先発投手のニーズは非常に大きい。チーム最大の補強ポイントと言ってもいいかもしれない。外国人選手獲得も含め補強を検討したいところだ。

一方で救援について深刻に捉える必要はない。ソフトバンクは選手の多さからか最低限の質を備えた投手が多く、極端に劣る投手が登板するリスクは小さくなっている。今季の救援の出来もかつてほど圧倒的でないと感じるかもしれないが、WARは6.3でリーグトップ。求められているのはあくまで先発と認識すべきである。

投手まとめ:先発のニーズは非常に大きい

理想的なシナリオ

ここまでチームのニーズを確認してきたが、それに当てはまる選手が市場にいるかどうかはまた別だ。今オフ市場に出る中で、ソフトバンクのニーズに応えられる選手はいるだろうか。ここではまず今オフにFA移籍可能な千賀、今宮、和田毅、中村晃を対象から除いたうえで、予算を考慮しない理想のシナリオを考えてみよう。

何よりも優先すべきは森友哉(西武)の獲得だ。先発が最大の補強ポイントと述べたことと矛盾するように感じるかもしれない。ただ先発については今後も獲得のチャンスが数多くあるはずだ。外国人投手にリソースを割く手もある。一方、このレベルの捕手が市場に出ることはめったにない。森は日本プロ野球史に残る打てる捕手で、かつ今後長期にわたり活躍が期待できる稀代の選手だ。最大の弱点・先発の補強をすっ飛ばしてでも確保を狙いたい。

その次に補強したいのはやはり先発だ。ただ千賀を除いた上で考えると、候補は非常に少ない。FAランキング8位の西勇輝(阪神)は既に残留が濃厚なようだ。権利を行使するならぜひ狙いたかった。その次の候補となると、9位の菅野智之(読売)、11位の田中将大(楽天)、15位の岸孝之(楽天)らが挙がる。もちろん補強できれば望ましいが、現在のところ宣言を行う報道は出ていない。またベテラン投手ということもあり、獲得したとしてもかつての力は期待しづらそうだ。だがここは理想を語る場であるため、リストに加えておこう。

他の選択肢はどうだろうか。市場に出る選手の質まで考慮した場合、先発より優先度を高めたいのが近藤健介(日本ハム)の獲得だ。野手のニーズを確認した項で述べたとおり、ソフトバンクの外野はすでに一定の質を備えている。ただ求めるレベルが高いチーム状況を考えると、近藤の加入はそれほど悪い選択ではないはずだ。コストパフォーマンスという点で、劇的に優れた成果は出しづらいかもしれないが、パフォーマンス面のみを見た場合、上積みの確度は極めて高い。また今オフのFA補強で弱点の先発を補いにくい状況を考えると、打撃でより大きな差を作るチーム構成とするのも悪くないはずだ。

    2022年オフにおけるソフトバンク理想のFA補強優先度(自チーム選手除く)
  • 1.森友哉
  • 2.近藤健介
  • 3.(上記2名どちらかの獲得に失敗するなら)菅野智之or田中将大or岸孝之

このリストにFA権を取得しているソフトバンク所属選手を加えた場合、以下のような優先度となる。森の獲得はやはり最優先。またチーム状況から考えると近藤獲得よりも千賀残留による上積みのほうが大きいだろう。

    2022年オフにおけるソフトバンク理想のFA補強優先度
  • 1.森友哉
  • 2.千賀滉大
  • 3.近藤健介
  • 4.今宮健太
  • 5.中村晃
  • 6.和田毅
  • 7.(森、近藤どちらかの獲得に失敗するなら)菅野智之or田中将大or岸孝之

現実的なシナリオ

ただこれまで述べたのはあくまでも理想的なシナリオ。予算の都合、またルールの問題から全選手の獲得は難しい。今オフのソフトバンクにはどれほど予算の余裕があるだろうか。DELTA独自の年俸予測システムから、ソフトバンクの2023年総年俸がどれほどになるかを推定してみよう。

これで見るとソフトバンク現状戦力の2023年総年俸予測は56.0億円。最も高かった2021年と比べると、予算にはまだ10億円強の余裕がある。またこれはFA権を取得選手の残留を前提としたデータだ。千賀の年俸もこの中には含まれている。そう考えると、千賀の残留に加えて、森、近藤のダブル獲得も十分検討できそうだ。資金力のあるチームだけに、理想と現実のギャップは小さい。

またFAでは獲得人数に制限が設けられている。FA宣言を行う選手が20名以下の場合、他球団から獲得できる選手2人まで。今オフも宣言選手は20名以下となることが濃厚だ。そうなると、森、近藤を獲得した上で他の選手も、ということはできない。

ただしCランクの選手については、この制限が適用されない。そしてCランクの可能性があると報道されているのが岩貞祐太(阪神)だ。岩貞は今季救援を務めたが、これはチーム事情によるもの。先発を務める能力は現在も十分持っている投手だ。かつてFAで獲得した中田賢一のように、Cランクでも投手力向上につながる補強になるのではないだろうか。

もしこうした補強が実現できるのであれば、ソフトバンクは今後、2010年代以上の黄金時代を迎えることになるかもしれない。

    2022年オフにおけるソフトバンクの現実的なFA補強
  • 1.森友哉
  • 2.千賀滉大
  • 3.近藤健介
  • 4.今宮健太
  • 5.中村晃
  • 6.和田毅
  • 7.岩貞祐太

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