野球のデータ分析を手がける株式会社DELTAでは、先日、データ視点の守備のベストナイン“DELTA FIELDING AWARDS 2022”を発表しました。ここでは投票を行ったアナリストが具体的にどのような手法で分析を行ったか、またその分析からの感想を紹介していきながら、具体的に分析データを見ていきます。今回は二塁手編です。受賞選手一覧はこちらから。


対象二塁手に対する9人のアナリストの採点

二塁手部門は外崎修汰(西武)が受賞者となりました。アナリスト9人のうち7人が1位票を投じ、90点満点中88点を獲得しています。外崎の受賞はこれで3年連続。セイバーメトリクスの視点では、頭一つ抜けた評価を得続けています。

2位は三森大貴(ソフトバンク)。守備力に特別秀でたイメージがないかもしれませんが、2人のアナリストから1位票を獲得するなど、高評価を得ています。アナリスト宮下博志の評価では、突出した守備範囲を記録。採点は2位となりましたが、イニングあたりの評価ではトップだったようです。

今季で10年連続のゴールデン・グラブ賞獲得となった菊池涼介(広島)は5位。本企画では2018年を最後にトップ評価を得られていません。8位の安達了一(オリックス)も、かつては遊撃部門で圧倒的な成績を残した選手でした。アナリスト岡田友輔は、かつての名手が下位に沈み、運動能力の高い若手が上位に来るシビアな現実を指摘しています。

アナリスト道作氏は、ランキング上位・下位の開きが遊撃手以上に大きかったことを指摘。近年、日本球界では山田哲人(ヤクルト)、浅村栄斗(楽天)、牧秀悟(DeNA)など二塁に強打の選手を配備する傾向が強くなっており、これにより守備得点に開きが出やすい状況になっているとのことです。確かに10年前から比べると、ポジションに対する認識が大きく変わったと言えるかもしれません。

    各アナリストの評価手法(二塁手編)
  • 岡田:UZR(守備範囲+併殺完成+失策抑止)を改良。送球の安定性評価を行ったほか、守備範囲については、ゾーン、打球到達時間で細分化して分析
  • 道作:過去3年間の守備成績から順位付け
  • Jon:UZRを独自で補正。打球の強さにマイナーチェンジを行うなど改良
  • 佐藤:基本的にはUZRで評価。ただ値が近い選手はゴロのアウト割合を詳細に分析し順位を決定
  • 市川:守備範囲、失策、併殺とUZRと同様の3項目を考慮。だが守備範囲についてはUZRとは異なる区分で評価。併殺についてもより詳細な区分を行ったうえで評価
  • 宮下:守備範囲は捕球、送球に分けて評価。これに加え、米国のトラッキング分析をフィードバック。打球が野手に到達するまでの時間データを利用し、ポジショニング評価を行った
  • 竹下:UZRを独自で補正。球場による有利・不利を均すパークファクター補正も実施
  • 二階堂:球場による有利・不利を均すパークファクター補正を実施
  • 大南:出場機会の多寡による有利・不利を均すため、出場機会換算UZRで順位付け。ただ換算は一般的に使われるイニングではなく、飛んできた打球数で行った

UZRの評価

各アナリストの採点を見たところで、いま一度、UZR(Ultimate Zone Rating)で行ったベーシックな守備評価を確認しておきましょう。

これを見ると外崎のUZRは15.4。アナリストが細かく分析した投票でトップでしたが、それはUZRの時点と変わっていなかったようです。特に大きな差がついているのが守備範囲評価(RngR)。この守備範囲で外崎は13.3点と高い値を記録しました。これは同じイニングを守った平均的な二塁手に比べ、守備範囲によってチームの失点を13.3点防いだことを意味します。下位の選手とは20点以上の差がつきました。

この最も大きな差がついている守備範囲評価RngRについて、具体的にどういった打球で評価を高めているのかを確認していきましょう。

以下表内のアルファベットは打球がフィールドのどういった位置に飛んだものかを表しています。図1の黄色いエリアが対象のゾーンです。対応させて見てください。値は平均的な二塁手に比べどれだけ失点を防いだか。右端の「RngR守備範囲」欄が合計値です。

これを見ると、各二塁手がどういったゾーンの打球に対し強みを発揮していたかがわかってきます。1位の外崎はS、Tといった一二塁間の打球処理でそれぞれ5.0点と断トツの数字。また定位置からやや二塁ベース寄りPの打球でも高い処理能力を発揮していました。一方で二塁ベース付近のNやOについては平均以下。一般的な二塁手より、やや一塁寄りに守る傾向があるのかもしれません。浅村も似た傾向にあります。

一方で対照的なのが菊池。二塁ベース寄りに強い一方、一二塁間の打球では大きな損失を記録しています。以前も取り上げましたが、二塁ベース寄りのポジショニングをとる傾向は継続しているように見えます。守備範囲が広いはずの菊池のUZRが振るわないことに疑問を持つ人は、一二塁間の打球に注目してみると良いかもしれません。それほど一塁寄りでもない打球が数多く右翼に抜けているようです。

二塁ベース寄り、一二塁間と幅広く満遍なく高得点を記録したのが三森。運動能力の高さゆえの結果でしょうか。アナリスト竹下弘道氏は「打撃も素材が良く、ポスト柳田時代を迎えるソフトバンクの稼ぎ頭になるかもしれない」と期待を寄せています。吉川尚輝(読売)も三森同様どの方向にも万能な守備範囲。アナリスト宮下の分析では、ポジショニングによる得点が二塁手トップ(0.8点)だったようです。

前年から大きく貢献を落としたのが中村奨吾(ロッテ)。昨年は一二塁間を中心に高得点を記録しましたが、今季は全般的にマイナス。特にその一二塁間の数字が振るっていません。もしかすると故障など、コンディション不良の影響が守備力に出たのかもしれません。

変化する二塁手像。来季以降の展望

かつて二塁手といえば小技も使える守備型の選手が守るポジションでした。しかしここ数年だけを見ても、二塁手を取り巻く状況は劇的に変わっています。2014年、NPB二塁手全体の犠打は291でしたが、今季はわずか155とほぼ半減。昨季に至っては114しかありませんでした。小技だけでなく、シンプルな打力が求められるようになっています。今後もこの傾向は加速していきそうです。その中で二塁守備をどのレベルで求めるかも変わっていくでしょう。

今回トップとなった外崎もこの12月には30歳を迎えることになります。守備力の低下もそう遠くない将来に訪れるでしょう。2位の三森も出場機会を増やしそうです。来季は今季以上に読みづらい展開となるのではないでしょうか。

過去の受賞者(二塁手)
2016年 菊池涼介(広島)
2017年 菊池涼介(広島)
2018年 菊池涼介(広島)
2019年 阿部寿樹(中日)
2020年 外崎修汰(西武)
2021年 外崎修汰(西武)

データ視点で選ぶ守備のベストナイン “DELTA FIELDING AWARDS 2022”受賞選手発表
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