読売から戦力外通告を受け自由契約となった村田修一。昨季は代打でシーズンをスタートしたが、後半には三塁に定着した。まだレギュラーとして貢献できるという声もあるが、年が明けてもいまだ所属先は決まっていない。どうして村田に声がかからないのだろうか。このような疑問を解くため、ここ数年の成績から現在の村田にどこまでの活躍が期待できるのか考えてみたい。

平均的な一塁、三塁手レベルの打撃だった2017年の村田


まずは2017年の村田の打撃成績を見てみる。


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規定打席には満たなかったものの、400を超える打席に立ち、出塁率.331、長打率.423、総合的な打撃力を表すwOBA(weighted On-Base Average)では.334という成績を残した。これは12球団平均の出塁率.319、長打率.382、wOBA.319をそれぞれ上回っており、村田は出塁の面でも長打の面でも平均的な打者より優れているということができる。

ただし、これだけでは村田がレギュラーとして優れた打力を有しているということはできない。レギュラーとして試合に出るのであれば、比較の対象となるのはすべてのポジションの平均的な選手ではなく同じポジションの選手である。全選手の平均には遊撃や捕手、代打や投手の打席も含まれており、村田が守る一塁や三塁よりも平均が低くなっている。そこでそれらのポジションの平均とも比べてみた。


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一塁手の平均出塁率、長打率、wOBAは、.326、.420、335。三塁手は、.321、.408、.329である。これらと村田の成績とを比較すると、村田の総合的な打撃力は平均的な一塁手と同程度、平均的な三塁手をわずかに上回る程度のものだったといえる。仮に村田が400打席に立ったとすると、平均的な一塁手が400打席に立った場合と比較して0.6点ほど得点を減らし、平均的な三塁手が400打席に立った場合と比較して1.5点ほど得点を増やすことができた計算になる。

以上のような比較から、2017年の村田の打撃成績は、平均的な一塁手や三塁手と比較しても遜色ない程度ではあったものの、上積みをつくることは期待できないものだったといえる。このことは、守備による失点抑止が大きくマイナスになれば、レギュラーとして起用してもそのポジションが弱点となってしまうことを意味する。


ここ数年の成績から分析する


もっとも、2017年の成績だけを見て、村田の打撃力を判断するのは早計ともいえる。2017年だけが何らかの影響で成績を落としたに過ぎず、万全の状態であれば、あるいは不運に見舞われなければ、より高い成績を残せた可能性もあると考えられるためだ。そこで、2014年から2017年の成績も確認してみる。


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村田は、2014年と2016年は規定打席に到達している。2015年は前後の年と比較してもかなり成績を落としており、これが原因で400打席に満たない出場にとどまった。2016年はリーグでもトップクラスの打撃成績を残しており、今後もこの年と同水準の成績を残せるのであれば、所属するチームにとっては攻撃面で大きなプラスになるだろう。しかし4年間の成績からすれば、打撃面で所属チームに大きな貢献があったのは2016年だけで、その他のシーズンでは一塁、三塁を守る選手としてはあまり大きな得点貢献がなかったといえる。

さらに、これから村田を獲得しようとする球団は加齢による衰えも考慮しなければならない。そうすると、2016年と同水準の成績を期待して村田にオファーを出すのはあまり分のいい賭けとはいえないだろう。

もう少し細かな指標から村田の打撃面でのアプローチに変化がないかを確認してみる。


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打席のうちの三振の割合を表すK%は、大きく成績を落とした2015年以外は平均と比較してかなり少ない。好調だった2016年も特段三振が減っているということはなかったようだ。四球の割合を表すBB%は、どのシーズンも平均よりやや少ない程度の水準である。好調でも不調でも四球で出塁を稼ぐといった傾向は見られない。

また、スイングの状況を表したデータを見ると、ストライクゾーン、ボールゾーンともに比較的積極的に打ちにいく傾向にあるようで、これらも4年間を通じてほとんど変化はない。スイングしたうちボールがバットに当たった割合を表すコンタクト率を見ると空振りをすることは少なく、特にボールゾーンの投球に対してコンタクトする能力は平均的な打者と比較しても優れているようである。村田というとその長打力が注目されることが多いが、パワーヒッターのイメージとは異なり空振りは少ないようだ。

ただし、2015年に関しては他のシーズンと比べてスイングした場合に空振ることが多かったようで、こうした部分からも例年と比較して打撃に狂いが生じていた可能性がうかがえる。

以上のようなデータから見ても、2017年の村田の成績はここ数年の中で特に不調だったとまではいえない。したがって、やはり2017年の成績と比較してあまり過大な期待をすることはできないと考えられる。


内野守備はゴロ処理で低迷が続く


続いて守備についても直近4年の成績を見てみる。


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主に守っていた三塁のUZR(Ultimate Zone Rating)を見ると、いずれのシーズンでも12球団の平均的な三塁手と比べて失点を増やしてしまっていた。ゴロの処理範囲による得点(RngR)でのマイナスが大きいことからも、守備範囲がかなり狭まっていることは否定できない。2017年はある程度の水準までは回復しているものの、それでもUZRの値はマイナスであり、シーズンを通してレギュラーとして起用する場合には5点から10点程度のマイナスは覚悟しなければならないだろう。

なお、2016年と2017年の村田の三塁守備についての詳細な分析は、1.02 Fielding Awards 20161.02 Fielding Awards 2017を参照してほしい。それらの結果からも村田の守備は12球団の平均的な三塁手の水準には至らないといわざるをえない。

一塁での守備はどうだろう。2014年から2016年までは、ほとんど一塁守備についておらず、2017年でも200イニング程度であるため、あくまで参考程度にしかならないが、一塁手としても守備範囲は狭いようだ。このため三塁ではなく一塁を中心に起用したとしても、守備面ではマイナスとなってしまう可能性は高いと考えられる。

したがって、三塁と一塁どちらで起用するにせよ守備でのマイナスをある程度は覚悟しなければならず、打撃面で大きなプラスをもたらせない以上はレギュラーとしての起用をためらわせる事情になるだろう。

レギュラーレベルでなくとも戦力的価値はある


最後にリプレイスメント・レベルの選手と比べた際の価値を示すWAR(Wins Above Replacement)を見てみる。


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直近4年の村田を見てみると守備負担の軽い三塁を中心に守っていたことと、その中でも平均的な水準に満たなかったことから、守備面は幅の大きさは異なれど例年大きなマイナス評価になっている。

打撃面では2016年を除いては得点貢献がそれほど大きくなく、走塁による得点貢献も毎年マイナスであるため、打撃と走塁をあわせた攻撃面が守備でのマイナスを覆すほどのプラスにはなっていない。

結果として2016年を除くとWARは-0.5~0.5の範囲に収まっており、リプレイスメント・レベルの選手と比べてもほとんどチームに貢献できていなかったといえる。このような状態でありながら少ない年でも400打席近く村田を起用せざるを得なかった読売の戦力不足もうかがえる。

ただし、この結果をもって村田に戦力としての価値がないと判断することはまだ早い。リプレイスメント・レベルとは確かに「容易に代替可能な選手のはたらきと同水準」であるとか「最低年俸で獲得できる選手と同水準」などと説明され、そこを下回る選手は戦力的に価値がないとの評価がなされてしまいがちである。

しかしながら現実にWARを算出してみると、WARが-1.0近くあるいは-2.0前後まで及んでしまう選手が毎年何名かは出てしまうのである。これは、リプレイスメント・レベルを下回っていながら、かなりの出場機会を与えられる選手がいたことを意味している。

このような事態が起こる理由として、個々のポジションに限ってみるとリプレイスメント・レベルの選手すら確保することが困難なチームが存在しているという点が考えられる。実際にWARが0を大きく下回る選手は野手でしばしば見られるが、投手ではほとんど見られない。投手は先発、救援の差異はあれど1つのポジションにかなりの人数が存在するため、代わりとなる選手が探しやすい。一方野手は1つのポジションに限定すると一軍での起用に耐えられる選手は多くても3名程度に限られるため、編成の失敗や予期せぬ故障があった場合リプレイスメント・レベル以下の選手を起用せざるを得ない状態が発生しやすいのだ。

すでに述べたように、リプレイスメント・レベルに満たない選手を控えに抱えている、あるいは故障が発生したことによってそのような状態になってしまうということは、多くの球団であり得ることである。村田を獲得すれば、一塁、三塁でこのような事態が発生することを防止できるだろう。そういった意味で、ある程度の実績があり、2018年の活躍についても予測をしやすい村田を控え選手として獲得することには意味がある。

また、一塁や三塁の水準からすれば、それほど優れているとはいいがたい打力も代打要員と考えれば、それなりには魅力的であろう。

以上のことからすると、村田を獲得するメリットしては、


  1. ①一塁や三塁の選手層を厚くできる
  2. ②代打要員を確保できる
  3. ③確率はそれほど高くないものの2016年と同水準のはたらきをする可能性もある

ということになるだろう。球団側にとってこれまでネックであった高額な年俸を支払う必要もなくなっており、選手層の薄いチームがリスクを回避するために村田を獲得するという選択はそれほど悪くないのではないだろうか。



市川 博久@89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。 その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。

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