Part1ではNPBにおいてどのような状況でバントが試みられているか、企図率に注目して検証を行った。Part2ではバントを試みた場合の結果に注目して検証していく。
NPBにおける一般的なバント結果
前回と同様に検証の対象とするのは、2019年NPBにおける無死一塁からの投手以外の打者によるバントだ。以下ではバントの結果を以下のとおりに分類して検証していく。
大成功:安打、失策、野選でアウトとならずに出塁した場合
成功:打者走者がアウトになり、一塁走者が進塁した場合
失敗:打者走者か一塁走者のいずれかがアウトになり、走者が二塁以降に進塁しなかった場合
大失敗:打者走者と一塁走者の双方がアウトになった場合
まずは特に条件をつけない場合のバントを試みた結果について見ていく(表17)。
無死一塁からバントを試みると、大成功は5.3%、成功は78.9%であり84.2%の割合で意図していたとおりか、それ以上の結果になっている。
裏を返せば、15%程度は失敗するということだ。バントの有効性に関する議論では、バントの成功率が問題となるが、バント成功率を90%程度とする想定はやや楽観的といえるし、まして100%が成功するという前提をもとにした議論は、その前提たる事実認識に重大な誤りがあるといえる。
一方で、大失敗つまり併殺になる割合は2.4%と極めて低くなっている。同じく無死一塁からバントをしなかった場合の打席(打数ではなく打席数であることに注意)では、12.3%の割合で打者走者、一塁走者ともにアウトになっている(併殺打が記録される場合だけではなく、ライナーやフライでアウトが2つ記録される場合も含む)ことからすると、併殺を回避するという目的だけ考えれば、バントは極めて優れた選択肢といえる。
状況の変化とバント成功率
まずは点差がバント成功率にどのような影響を与えるかから見ていく(表18)。僅差の状況では、守備側が警戒してバントが成功しづらいことはあるのだろうか。
2点以上ビハインドの場面と同点の場面で、成功と大成功を合計した割合が高くなっているが、点差が成功率に影響を与えているという一貫した傾向は見られない。
では、試合の序盤と終盤とで成功率が変わるという傾向は見られるだろうか(表19)。
試合の序盤では90%ほどはバントが成功または大成功となっているのに対し、試合終盤になるとその割合は80%ほどまで落ち込んでいる。バント企図率が高い試合終盤ではバントの成功率が低下するという関係が見られる。
続いて、打者の能力とバント成功率の関係についても見てみる。Part1と同様に wOBA(weighted On-Base Average)
に基づいて打者を3グループに分類して、それぞれのグループでバントを試みた場合の結果を整理した(表20)。
①wOBAの高い打者ほどバントが成功しやすい傾向にある。打力とバントの巧拙に関連性があるのか、wOBAの高い打者がバントをすることは稀であるため守備側の警戒が薄いからなのか、その理由は明らかでないが、このような傾向が見られる。
イニングと打者の能力双方を考慮した場合の結果はどうなるだろうか(表21)。
序盤は打力によらず、比較的バントが成功または大成功となる割合が高い。これに対して、終盤になるに連れて失敗することが多くなっていき、打力による成功率の差も顕著になっている。特に試合終盤での③打力の低い打者によるバントはその約4分の1が失敗している。
次に投手の能力とバント成功率との関係を見てみる。前回と同様に tRA(true Runs Average)に基づいて投手を3グループに分類して、それぞれのグループでバントを試みた場合の結果を整理した。
投手の能力が高いほどバントが失敗する割合が高くなっている。大失敗つまり併殺の割合は増えていないことからすると、守備による影響はあまりなさそうだ。投手の能力が高いほどバントを成功させることも難しいといえるのか、投手の能力が高い場合には攻撃側のバントが増えるために、より警戒されやすいということなのか、これらの数字だけではわからないが、能力の高い投手の場合はバントが選択されがちだが、バントの成功率は低くなるということはいえそうだ。
投手の能力に加えて、イニングも考慮要素に加えるとどのような結果となるかも調べてみた(表23)。
tRAがA.3.50未満の投手では序盤から失敗することが多くなっており、終盤でも成功または大成功となった割合が8割を下回っている。B.能力が中程度の投手の場合は、序盤から終盤にいくに連れてバントが失敗する割合が増えている。C.能力が低い投手の場合は、中盤に失敗する割合が増えているものの、終盤でも9割近い割合で成功または大成功となっている。
全般的に見ると、バント企図率が高い場面の方が、バント成功率が低いという傾向が見られる。この原因について、よりバントが試みられる場面の方が守備側の警戒が高まっているため、失敗が増えるということがまず思い当たる。ただそれ以外に考えられる原因はないのか、さらに調べてみた。
バント成功率に関係する要因
まずは無死一塁でバントを試みた場合に、どのポジションがどの程度の打球を処理しているかを調べてみた(表24)。
投手が半分以上の割合で処理をしており、次いで捕手、一塁手、三塁手と続いている。3バント失敗で三振となっているのは全体の2%ほどである。
では、どの守備位置の野手が捕球するかによって、成功率に変化はあるだろうか(表25)。
大まかに言うと、投手または一塁手が捕球した場合には成功する割合が高く、捕手または三塁手が捕球した場合には成功する割合が低くなっている。概ね走者一塁時のバントのセオリーと一致する。また、捕手が捕球した場合には、併殺打となる割合が6.7%と比較的高く、三塁手に捕らせるよりも危険だといえる。
以上のように、誰にバントを捕球させるかによって、バントの成功率が大きく変わることがわかった。こうした要素が状況ごとのバント成功率の違いに関わっているかを調べてみた(表26)。
投手や捕手が打球を処理する割合の変化は一貫していないが、序盤から終盤にいくに連れて、一塁手が捕球する割合が減り、三塁手が捕球する割合が増えている。終盤になるほどバント成功率が下がっている要因の一つにはなっていそうだ。
次に3バント失敗での三振となった割合についても見てみる(表27)。
終盤ではバントを試みたときの4%で3バント失敗での三振となっている。これに対して、序盤や中盤では3バント失敗での三振となっていることが一度もない。終盤になるほど守備側も簡単にはバントをやらせないといった事情が影響している可能性はあるものの、そもそも3バントに及ぶ割合が序盤、中盤と終盤で変わっている可能性も疑われる。なお、この可能性については、後ほど詳しく述べる。
続いて、打者の能力の影響についても整理した(表28、表29)。
打者の能力が高いほど投手や一塁手が捕球した割合が高く、捕手や三塁手が捕球した割合が低くなっている。また、①打者の能力が高いグループでは3バント失敗での三振が一度もないのに対し、②能力が中程度または③低いグループではそれぞれ2%ほど3バント失敗での三振となっている。
守備側の警戒が薄いことがその原因かもしれないが、こうしてみると打力とバントの巧拙との間に関連性があるということも考えられる。
続いて、投手の能力との関係も見てみる(表30、表31)。
一塁手がバントを捕球する割合はほとんど変化しないが、投手の能力が高いほど投手がバントを捕球する割合が低く、捕手がバントを捕球する割合が高くなっている。また、3バント失敗での三振となる割合も投手の能力が高くなるにしたがって高くなっている。
こうした結果からすると、投手の能力が高くなるほどバントも難しくなっているということもうかがえる。
攻撃側の選択の結果という可能性
しかし、打者や投手の能力の問題だけではなく、バントが難しい状況にもかかわらず、あえてバントを選択しているために、成功率が下がっているという可能性もある。上記の結果でも、バント企図率が高いケースでは、3バント失敗での三振となる割合が高くなっているが、そもそも3バントをしなければ、3バント失敗での三振となることもない。試合の終盤や打者の能力が低い場合、投手の能力が高い場合にはカウントが2ストライクとなっても、バントを選択する可能性が高いということはないだろうか。
まず、カウントごとのバント成功率を見てみる(表32)。Part1でも述べたが、ここでいうバント失敗には、2ストライクからのファウルボール以外のファウルボールやバントの構えからの空振り、バットを引いての見逃しでカウントを悪くさせた場合は含めていない。
0ストライクや1ストライクではバントが成功または大成功となる割合はさほど変化がないのに対して、2ストライクからのバントでは成功または大成功となった割合が51.9%まで低下している(なお、失敗の内訳はすべて3バント失敗による三振である)。このような結果を前提とすれば、0ストライク、1ストライクからのバントと2ストライクからのバントでは成功が見込まれる確率が大きく異なるといえる。確実にアウトカウントが1つ増える上に、半分近い確率で走者が進塁できないという選択をすることには、躊躇する場面が多いだろう。
では、状況によって3バントを選択する割合に変化が生じるのだろうか。イニングの変化に伴う、バント全体に占める3バントの割合を調べてみた。(表33)
序盤は3バントを試みることがまったくないのに対し、終盤になるとバント全体の7%ほどが3バントとなっている。おそらく、序盤では2ストライクとなった時点で、バントを諦めるのに対し、終盤になると2ストライクでもバントを試みていることが原因だろう。
では、打者の能力による変化はどうなっているか(表34)。
①wOBA.350超のグループでは、3バントが1回しかないのに対し、それに満たない②③グループではそれぞれ10回を超える。ただし、②wOBAが.310~.350のグループの方が、③wOBAが.310以下のグループよりも3バントの占める割合が高くなっており、中程度以下の打力があっても3バントをするかしないかの選択に影響はないようだ。
最後に投手の能力による変化を見ていく(表35)。
A.投手の能力が高い場合には、3バントの割合が高くなっている。ヒッティングをさせたとしても、有効ではないという判断が影響しているのだろうか。
以上のように、3バントに及ぶ割合は、イニングや打者、投手の能力によって大きく異なるということがわかった。
まとめ
以上の検討の結果から、バントが成功して走者を二塁に進めることができる割合は85%程度であることがわかった。ただ状況や打者、投手の能力によって、その割合は90%超に上がることもあれば、80%を下回ることもある。その原因は守備側の警戒の程度、打者及び投手の能力のほか、攻撃側がバントの成功が難しい状況でもあえてバントをさせる程度によるということがわかった。
Part3では2019年度の球団ごとのバント企図に関する傾向について述べたい。
参考文献
[1]Tom Tango;Mitchel Lichtman;Andrew Dolphin,"The Book:Playing the Percentages in Baseball",(US:TMA Press,2006)p.247.
市川 博久(いちかわ・ひろひさ)/弁護士 @89yodan
学生時代、知人が書いていた野球の戦術に関する学術論文を読み、分析に興味を持つ。
その後『マネー・ボール』やDELTAアナリストらが執筆したリポートを参考に自らも様々な考察を開始。
『デルタ・ベースボール・リポート3』にも寄稿。